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◇守りたい⑦
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「ひなたちゃんを手に入れたかったんだ。どうしても自分のものにしたかった。だから……」
「だから、襲ったのか。恐怖で震える彼女を、あの狭い路地に引きずりこんで!」
……そうだ。
棚野さんがストーカーだったということは、私があの日見たウインドブレーカーのフードをすっぽり被ってマスクをしていたあの男も棚野さんなのだ。
忌まわしきあの日のことが蘇ると、身体が自然と震えてくる。
あれがまさか棚野さんだったなんて。
馬乗りをされて押さえつけられているというのに、棚野さんは挑戦的にフフンと笑っている。
「なんだよ、偉そうに。アンタだって似たようなもんだろうが。副社長様はたやすく不倫していいのかよ!」
「なんだと?!」
「あの日。慰めてやさしくして、アンタんとこのホテルにふたりで泊まってるじゃないか。傷心のひなたちゃんを朝まで何回も抱けたんだから、俺に感謝してもらいたいくらいだね」
棚野さんが下劣な言葉を言い放つと、日下さんの拳が再び振り上がった。
「で、どうだったんだよ、ヤった感想は。相性は良かったのか?」
もう殴られることも怖くないのか、棚野さんが挑発的な言葉を続ける。
振り上げられた拳が、また棚野さんの左頬にヒットした。それでもまだ、怒りで日下さんの手が震えている。
「あなたと……あなたと一緒にしないで! 日下さんはそんな人じゃない。あなたみたいな汚い下心なんてないし、卑怯なこともしない人よ!!」
泣きながらも私が懸命にそう言い募ったところで、パトカーのサイレンが聞こえた。そしてすぐに救急車もやって来る。
四名の警察官が駆けつけ、日下さんが押さえつけていた棚野さんを捕らえてパトカーに連行した。
日下さんが警察官と話をしている。
私はどう考えても、乗るなら救急車のほうだ。
救命士の人に「歩けますか?」と気遣われながら、救急車へと乗り込む。
日下さんは警察に行くのだろうと思っていたら、こちらに駆け寄ってきて一緒に救急車に乗ってしまった。
「付き添ってくれるんですか?」
「ああ。警察はあとから事情を聞きに病院に来るって。君とも直接話がしたいそうだ」
それもそうだ。バイクで引かれた当事者は私だから説明する必要がある。
棚野さんと知り合いだということも、なぜこんなことが起きたのか、ということも話さなけばならない。
病院に着くと、早速治療を受けた。
身体が地面に叩きつけられたせいか、あちこちに擦り傷が出来ていたし、激痛が走っていた右腕は腫れていると思ったらやはり骨折していた。
ギブスをしてもらって首から三角巾で腕を吊る。
骨が折れたせいで発熱していて、頭がぼうっとしていたけれど。
処置が終わって病院の廊下に出ると、日下さんが歩み寄って来た姿が目に入ってきて、安心したのかじわりと涙が浮かんだ。
「日下さん。ご迷惑をおかけしてすみません」
「どうして君が謝るんだ。悪いのは犯人のあの男だろう」
……それはそうだけれど。
これは私と棚野さんの問題で、彼の交際の申し出を断ったことが原因なのだ。
日下さんを巻き込み、あんなに危険な目にまであわせ、こうして私の付き添いをさせてしまった。
考えれば考えるほど申し訳なさすぎて自然と頭が下がる。
「俺こそ悪かった。君に大怪我をさせてしまった」
「……いえ、そんな」
「もどかしくて悔しくて、自分に腹が立つ。君を守りたいと思っていたのに守れなかった」
いつもポーカーフェイスの日下さんが、苦渋に満ちた表情で顔を歪める。
「日下さん……」
気の効いた言葉をなにか言いたい。
私が口を開きかけた瞬間、日下さんの長い腕が絡まり、私の身体はすっぽりとその広い胸に閉じ込められた。
「本当にごめん。……守れなくて」
抱擁なんてしてはいけない。
それはちゃんとわかっているのに突き放せない。
今の弱った私にそんな強い気持ちはない。
ただ、涙があふれてくる。
日下さんの胸が、こんなにも温かいから。
「だから、襲ったのか。恐怖で震える彼女を、あの狭い路地に引きずりこんで!」
……そうだ。
棚野さんがストーカーだったということは、私があの日見たウインドブレーカーのフードをすっぽり被ってマスクをしていたあの男も棚野さんなのだ。
忌まわしきあの日のことが蘇ると、身体が自然と震えてくる。
あれがまさか棚野さんだったなんて。
馬乗りをされて押さえつけられているというのに、棚野さんは挑戦的にフフンと笑っている。
「なんだよ、偉そうに。アンタだって似たようなもんだろうが。副社長様はたやすく不倫していいのかよ!」
「なんだと?!」
「あの日。慰めてやさしくして、アンタんとこのホテルにふたりで泊まってるじゃないか。傷心のひなたちゃんを朝まで何回も抱けたんだから、俺に感謝してもらいたいくらいだね」
棚野さんが下劣な言葉を言い放つと、日下さんの拳が再び振り上がった。
「で、どうだったんだよ、ヤった感想は。相性は良かったのか?」
もう殴られることも怖くないのか、棚野さんが挑発的な言葉を続ける。
振り上げられた拳が、また棚野さんの左頬にヒットした。それでもまだ、怒りで日下さんの手が震えている。
「あなたと……あなたと一緒にしないで! 日下さんはそんな人じゃない。あなたみたいな汚い下心なんてないし、卑怯なこともしない人よ!!」
泣きながらも私が懸命にそう言い募ったところで、パトカーのサイレンが聞こえた。そしてすぐに救急車もやって来る。
四名の警察官が駆けつけ、日下さんが押さえつけていた棚野さんを捕らえてパトカーに連行した。
日下さんが警察官と話をしている。
私はどう考えても、乗るなら救急車のほうだ。
救命士の人に「歩けますか?」と気遣われながら、救急車へと乗り込む。
日下さんは警察に行くのだろうと思っていたら、こちらに駆け寄ってきて一緒に救急車に乗ってしまった。
「付き添ってくれるんですか?」
「ああ。警察はあとから事情を聞きに病院に来るって。君とも直接話がしたいそうだ」
それもそうだ。バイクで引かれた当事者は私だから説明する必要がある。
棚野さんと知り合いだということも、なぜこんなことが起きたのか、ということも話さなけばならない。
病院に着くと、早速治療を受けた。
身体が地面に叩きつけられたせいか、あちこちに擦り傷が出来ていたし、激痛が走っていた右腕は腫れていると思ったらやはり骨折していた。
ギブスをしてもらって首から三角巾で腕を吊る。
骨が折れたせいで発熱していて、頭がぼうっとしていたけれど。
処置が終わって病院の廊下に出ると、日下さんが歩み寄って来た姿が目に入ってきて、安心したのかじわりと涙が浮かんだ。
「日下さん。ご迷惑をおかけしてすみません」
「どうして君が謝るんだ。悪いのは犯人のあの男だろう」
……それはそうだけれど。
これは私と棚野さんの問題で、彼の交際の申し出を断ったことが原因なのだ。
日下さんを巻き込み、あんなに危険な目にまであわせ、こうして私の付き添いをさせてしまった。
考えれば考えるほど申し訳なさすぎて自然と頭が下がる。
「俺こそ悪かった。君に大怪我をさせてしまった」
「……いえ、そんな」
「もどかしくて悔しくて、自分に腹が立つ。君を守りたいと思っていたのに守れなかった」
いつもポーカーフェイスの日下さんが、苦渋に満ちた表情で顔を歪める。
「日下さん……」
気の効いた言葉をなにか言いたい。
私が口を開きかけた瞬間、日下さんの長い腕が絡まり、私の身体はすっぽりとその広い胸に閉じ込められた。
「本当にごめん。……守れなくて」
抱擁なんてしてはいけない。
それはちゃんとわかっているのに突き放せない。
今の弱った私にそんな強い気持ちはない。
ただ、涙があふれてくる。
日下さんの胸が、こんなにも温かいから。
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