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◇守りたい⑥

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 すべて私のせいだったのだ。
 棚野さんが日下さんに恨みを抱き、バイクを使って怪我をさせてやろうとまで考えたのは。

 ―― 私が交際を断ったからだ。

 バイクで跳ね飛ばせば相手の命の保証はない。
 跳ねられた日下さんは、運が悪ければ死んでしまっていたかもしれない。
 そうなると故意に跳ねた棚野さんは殺人犯だ。

「素直に言うことを聞いて、俺と付き合っていればよかったのに」

 私の決断が……彼を追い詰めたのだろうか。
 付き合えないと言った私の言葉が彼を傷つけたから?
 それが原因でこんな猟奇的な行動を起こさせたのかもしれないと思うと、本当に胸が痛い。

「どうしちゃったんですか。穏やかでやさしい棚野さんは、どこに行っちゃったんですか?」

 目の前にいる男性は、私の知っている棚野さんではない。
 まるで人が変わったように気味の悪いことを言う別人だ。
 彼をこんなに変えてしまったのも、私なのだろうか。

「穏やかでやさしい? それはひなたちゃんに気に入られるために作ってた人格だよ」
「どういうことですか?……」

 ずっと演技をして作っていた?
 何年もずっと、私の前だけでなく窪田さんや萌奈ちゃんに対しても?
 みんな騙されていたなんて……信じられない。

「やさしくすればなびくと思ってた。なのにこの男と会った次の日に、君は俺の告白を断ってきたな」
「……え?」
「許せなかったよ。この男に惹かれてるひなたちゃんも」

 私の頭の中で疑問符がたくさん浮かんだ。
 たしかに日下さんと会った次の日に棚野さんと会って交際を断る話をしたけれど。
 前日に日下さんに会ったことは、そのときに話してはいないはずだ。

「どうして知ってるんですか。日下さんと会った話なんてしていないですよね?」

 私がそう尋ねると、棚野さんはなにも言わずにニヤニヤと笑った。
 その笑みが気持ち悪すぎて吐き気がしそうだ。

「日ごろから彼女をつけまわしてたのか」

 そうなんだろう? と日下さんが詰め寄っても、棚野さんは笑うだけで否定しなかった。ということは、それは肯定だ。

「はっ、お前か、ストーカーは! 彼女がどこで誰と会うのか、ずっと監視してたのか!」

 ……棚野さんが私のストーカー?

 それも信じられない。アパートの近くで不審者が出たと話したときも、みんなと一緒に心配してくれていたのに!

『不審者って、なにをしてくるかわからないからね。もしも襲われるようなことがあったらと思うと心配で……』

『毎日は無理だけど、できるだけ俺が家まで送り届けるから。警察へ行くなら付き添ってあげる』

 以前、棚野さんがかけてくれた言葉が脳内でリフレインする。
 あれは自分が疑われないために言っただけだったのだろうか。

「最初は純粋に心配でね。俺と食事に行った日も、俺と別れたあとにほかの男に会うんじゃないかって。勝手に疑って、気がついたら尾行してた。だけどそのうちそれが面白くなってきてさ」
「この変態野郎が!!」

 日下さんが容赦なく罵っても棚野さんはクツクツと笑っている。
 歪みきった棚野さんは見るに耐えなかった。

「彼女がそれでどれだけ怖いを思いしたかわかってるのか!」
「だってさぁ、家の近くに不審者がいるとなると、怖いから助けてくださいって、ひなたちゃんは俺を頼ると思ったんだ。近づく絶好のチャンスだろ?」

 棚野さんがそこまで言うと、激高した日下さんが拳を振り下ろした。
 それは棚野さんの左頬にヒットし、「うっ!」っと呻き声があがる。
 さっきから何度も殴りそうになっていたけれど、ついにとうとう我慢の限界が来たようだ。
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