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◇守りたい⑤
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「お前、どこの誰だ? なぜ俺を狙う?」
馬乗りになって胸倉を掴んだ状態で相手を睨んでいたけれど、日下さんが私に気づいてとりあえず手を緩めた。
「歩いて大丈夫なのか?!
「日下さん、警察に電話しましょう」
「ああ。それと救急車も呼ぶ。あまり動かずに救急車が来るまで大人しく座ってろ」
馬乗りの体制は崩さず、日下さんはスマホですみやかに警察と救急に電話をしてくれた。
この前は私が襲われ、今度は日下さんが狙われた?
これはいったいなんなのだろう?
不運が重なったのだと思わざるをえないけれど、ここまでくると偶然とは思えない。
なにげなくふと犯人の顔が目に止まった。
日下さんの下で苦渋の表情を浮かべている、先ほど私をバイクで跳ね飛ばした男だ。
その顔を見た瞬間、唖然としながらも再び一気に血の気が引いた。
だけどどうしても確認をしたくて……その男に近づいていく。
「ど……どうして……?」
「は、ははは。やぁ、ひなたちゃん」
「なんで……棚野さんがこんなことを?」
私はその場にヘナヘナとへたり込み、とめどなく涙をこぼした。
―― その人物は、棚野さんだった。
「君の知り合いなのか?」
日下さんが驚いた顔をして私に尋ねた。それにはボロボロと泣きながらもコクリとうなずく。
「会社の……元同僚です」
私は彼をよく知っている。
入社したてのころから私の面倒をよくみてくれていた親切な先輩で、半年前まで一緒に働いていた元同僚なのだから。
私に好意を示してくれて、時折一緒に食事に行ったりしていた人だ。
彼はいつもやさしくて穏やかで、口の悪い先輩の窪田さんとは正反対だった。
そんな物静かな性格の棚野さんがこんなことをするなんて。
目の前で起こっていることが今でもまだ信じられない。
「ふっ、ふははははは」
失望、幻滅、悲しみ……そんな気持ちが胸をしめつけ、愕然としているところへ笑い声が聞こえてきた。
地べたに寝そべったまま棚野さんが不気味に笑っている。
「ひなたちゃん、ごめんね。君に怪我をさせるつもりはなかったんだ。俺はどうしてもこの男が許せなくてね。痛い思いをさせてやろうと思っただけだったのに」
「……」
「ひなたちゃんがいけないんだよ。この男をかばうから」
なにを言っているのだろう。だいたい、彼は日下さんと面識がないはず。
雑誌やネットの情報で、棚野さんが一方的に認知していただけだと思う。
日下さんは棚野さんのことをまったく知らないから、どこの誰だ?と聞いていた。
日下さんからすれば、見ず知らずの人間に許せないなどと恨みをかわれてこんな目に合うなんて本当に災難だ。
「そうだよ。全部ひなたちゃんが悪い。俺と付き合えないのはこの男と関係ない、もう会わないって言ってたじゃないか。だけど実際はこうして会い続けてる。ウソばっかりだ。俺をコケにしやがって」
「……棚野さん……」
その言葉を聞き、とめどなく涙があふれて頬を伝った。
馬乗りになって胸倉を掴んだ状態で相手を睨んでいたけれど、日下さんが私に気づいてとりあえず手を緩めた。
「歩いて大丈夫なのか?!
「日下さん、警察に電話しましょう」
「ああ。それと救急車も呼ぶ。あまり動かずに救急車が来るまで大人しく座ってろ」
馬乗りの体制は崩さず、日下さんはスマホですみやかに警察と救急に電話をしてくれた。
この前は私が襲われ、今度は日下さんが狙われた?
これはいったいなんなのだろう?
不運が重なったのだと思わざるをえないけれど、ここまでくると偶然とは思えない。
なにげなくふと犯人の顔が目に止まった。
日下さんの下で苦渋の表情を浮かべている、先ほど私をバイクで跳ね飛ばした男だ。
その顔を見た瞬間、唖然としながらも再び一気に血の気が引いた。
だけどどうしても確認をしたくて……その男に近づいていく。
「ど……どうして……?」
「は、ははは。やぁ、ひなたちゃん」
「なんで……棚野さんがこんなことを?」
私はその場にヘナヘナとへたり込み、とめどなく涙をこぼした。
―― その人物は、棚野さんだった。
「君の知り合いなのか?」
日下さんが驚いた顔をして私に尋ねた。それにはボロボロと泣きながらもコクリとうなずく。
「会社の……元同僚です」
私は彼をよく知っている。
入社したてのころから私の面倒をよくみてくれていた親切な先輩で、半年前まで一緒に働いていた元同僚なのだから。
私に好意を示してくれて、時折一緒に食事に行ったりしていた人だ。
彼はいつもやさしくて穏やかで、口の悪い先輩の窪田さんとは正反対だった。
そんな物静かな性格の棚野さんがこんなことをするなんて。
目の前で起こっていることが今でもまだ信じられない。
「ふっ、ふははははは」
失望、幻滅、悲しみ……そんな気持ちが胸をしめつけ、愕然としているところへ笑い声が聞こえてきた。
地べたに寝そべったまま棚野さんが不気味に笑っている。
「ひなたちゃん、ごめんね。君に怪我をさせるつもりはなかったんだ。俺はどうしてもこの男が許せなくてね。痛い思いをさせてやろうと思っただけだったのに」
「……」
「ひなたちゃんがいけないんだよ。この男をかばうから」
なにを言っているのだろう。だいたい、彼は日下さんと面識がないはず。
雑誌やネットの情報で、棚野さんが一方的に認知していただけだと思う。
日下さんは棚野さんのことをまったく知らないから、どこの誰だ?と聞いていた。
日下さんからすれば、見ず知らずの人間に許せないなどと恨みをかわれてこんな目に合うなんて本当に災難だ。
「そうだよ。全部ひなたちゃんが悪い。俺と付き合えないのはこの男と関係ない、もう会わないって言ってたじゃないか。だけど実際はこうして会い続けてる。ウソばっかりだ。俺をコケにしやがって」
「……棚野さん……」
その言葉を聞き、とめどなく涙があふれて頬を伝った。
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