【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

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◇守りたい④

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「しっかりしろ、大丈夫か?!」

 ひどくあわてた様子で日下さんが私の元に駆け寄ってくる。
 跳ね飛ばされたのだから大丈夫なわけがない。だけど私は細々とした声を発した。

「はい。でも……バイクが逃げます」

 真っ黒なライダースーツを着て、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。
 身体的な特徴なんてなにもわからない……
 そう考えながら、ひき逃げ犯の後姿を目で追っていたときだった。
 そのまま走り去るのだと思っていたら、バイクは突如スピードを緩め、なんとこちらにUターンしてきたのだ。

「逃げたんじゃ……なかったんですね」

 走り去ろうとしたけれど、良心の呵責にさいなまれて戻ってきたのだろう。このときの私は単純な考えしか浮かばなかった。

「……いや、そうじゃなさそうだ」

 再びバイクのエンジン音が近くなってくる。
 それと同時に、そばにいる日下さんからチッという大きな舌打ちが聞こえた。

「狙いは俺か? ふざけやがって!」

 まただ。再びバイクがスピードを上げてやってくる。
 このときになってようやく、私の顔から一斉に血の気が引いた。

 私が跳ねられたのも、ただの事故ではなかったのだ。
 車道側を歩いていたのは日下さんだった。私が咄嗟に身体を入れ替えなかったら、日下さんが跳ねられていた。
 そして今も、犯人は彼を狙って戻ってきたらしい。
 仕留めそこなったから、もう一度ひき逃げするつもりかもしれない。
 なにか日下さんに恨みでもあるのだろうか。
 どうしよう。跳ねられた衝撃で身体が痛くて動かない。これでは日下さんをかばえない。

「日下さん、逃げて! 逃げてください!!」

 お腹に力が入らないから大きな声も出せない。
 だけど精一杯の声で、すぐにここから離れてほしいと訴えた。
 とにかく建物の陰にでも身をひそめていてほしい。

「逃げてたまるか! アイツを捕まえてやる!!」
「む、無茶です!」

 いつも冷静で激高はしないはずの日下さんが、明らかに怒り心頭だ。
 危ないからやめてくださいと懇願するも、その声は届きそうにない。
 逃げてほしいのに、逆にバイクが来る方向へと立ち向かっていく。
 道路の脇に置いてあった三角コーンを偶然見つけ、それを手にした日下さんは行く手を塞ぐように道路の真ん中へ出てしまった。

「日下さん!」

 彼を止めたい一心で身体を動かそうと試みる。
 だけど右腕に激痛が走り、打った衝撃で頭も重くて、自分の身体なのに思い通りに動かない。

 バイクが来る。明らかに日下さん目掛けて突っ込んできた。
 轢かれてしまうと思った瞬間、日下さんはバイクをひょいとよけながら、三角コーンを相手の側面にぶつけて応戦する。
 バシャーン、ガシャーンという派手な音が鳴り響く。
 日下さんの攻撃が見事に功を奏した。
 ひき逃げ犯はバランスを崩して横転し、身体がバイクから転がり落ちた。
 日下さんが即座にその人物に駆け寄って掴みかかる。
 両手でフルフェイスのヘルメットを脱がせ、それを道端に放り投げた。

「俺を殺したかったのか?! なんとか言えよ!」

 辺りに日下さんの怒声が響く。
 だけどその犯人は転倒した拍子にどこか痛めたのだろう。うー、と呻き声をただ上げているだけだ。
 私は右腕の激痛に堪えながらもなんとか立ち上がり、日下さんの元へ向かった。
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