60 / 72
◇守りたい④
しおりを挟む
「しっかりしろ、大丈夫か?!」
ひどくあわてた様子で日下さんが私の元に駆け寄ってくる。
跳ね飛ばされたのだから大丈夫なわけがない。だけど私は細々とした声を発した。
「はい。でも……バイクが逃げます」
真っ黒なライダースーツを着て、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。
身体的な特徴なんてなにもわからない……
そう考えながら、ひき逃げ犯の後姿を目で追っていたときだった。
そのまま走り去るのだと思っていたら、バイクは突如スピードを緩め、なんとこちらにUターンしてきたのだ。
「逃げたんじゃ……なかったんですね」
走り去ろうとしたけれど、良心の呵責にさいなまれて戻ってきたのだろう。このときの私は単純な考えしか浮かばなかった。
「……いや、そうじゃなさそうだ」
再びバイクのエンジン音が近くなってくる。
それと同時に、そばにいる日下さんからチッという大きな舌打ちが聞こえた。
「狙いは俺か? ふざけやがって!」
まただ。再びバイクがスピードを上げてやってくる。
このときになってようやく、私の顔から一斉に血の気が引いた。
私が跳ねられたのも、ただの事故ではなかったのだ。
車道側を歩いていたのは日下さんだった。私が咄嗟に身体を入れ替えなかったら、日下さんが跳ねられていた。
そして今も、犯人は彼を狙って戻ってきたらしい。
仕留めそこなったから、もう一度ひき逃げするつもりかもしれない。
なにか日下さんに恨みでもあるのだろうか。
どうしよう。跳ねられた衝撃で身体が痛くて動かない。これでは日下さんをかばえない。
「日下さん、逃げて! 逃げてください!!」
お腹に力が入らないから大きな声も出せない。
だけど精一杯の声で、すぐにここから離れてほしいと訴えた。
とにかく建物の陰にでも身をひそめていてほしい。
「逃げてたまるか! アイツを捕まえてやる!!」
「む、無茶です!」
いつも冷静で激高はしないはずの日下さんが、明らかに怒り心頭だ。
危ないからやめてくださいと懇願するも、その声は届きそうにない。
逃げてほしいのに、逆にバイクが来る方向へと立ち向かっていく。
道路の脇に置いてあった三角コーンを偶然見つけ、それを手にした日下さんは行く手を塞ぐように道路の真ん中へ出てしまった。
「日下さん!」
彼を止めたい一心で身体を動かそうと試みる。
だけど右腕に激痛が走り、打った衝撃で頭も重くて、自分の身体なのに思い通りに動かない。
バイクが来る。明らかに日下さん目掛けて突っ込んできた。
轢かれてしまうと思った瞬間、日下さんはバイクをひょいとよけながら、三角コーンを相手の側面にぶつけて応戦する。
バシャーン、ガシャーンという派手な音が鳴り響く。
日下さんの攻撃が見事に功を奏した。
ひき逃げ犯はバランスを崩して横転し、身体がバイクから転がり落ちた。
日下さんが即座にその人物に駆け寄って掴みかかる。
両手でフルフェイスのヘルメットを脱がせ、それを道端に放り投げた。
「俺を殺したかったのか?! なんとか言えよ!」
辺りに日下さんの怒声が響く。
だけどその犯人は転倒した拍子にどこか痛めたのだろう。うー、と呻き声をただ上げているだけだ。
私は右腕の激痛に堪えながらもなんとか立ち上がり、日下さんの元へ向かった。
ひどくあわてた様子で日下さんが私の元に駆け寄ってくる。
跳ね飛ばされたのだから大丈夫なわけがない。だけど私は細々とした声を発した。
「はい。でも……バイクが逃げます」
真っ黒なライダースーツを着て、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。
身体的な特徴なんてなにもわからない……
そう考えながら、ひき逃げ犯の後姿を目で追っていたときだった。
そのまま走り去るのだと思っていたら、バイクは突如スピードを緩め、なんとこちらにUターンしてきたのだ。
「逃げたんじゃ……なかったんですね」
走り去ろうとしたけれど、良心の呵責にさいなまれて戻ってきたのだろう。このときの私は単純な考えしか浮かばなかった。
「……いや、そうじゃなさそうだ」
再びバイクのエンジン音が近くなってくる。
それと同時に、そばにいる日下さんからチッという大きな舌打ちが聞こえた。
「狙いは俺か? ふざけやがって!」
まただ。再びバイクがスピードを上げてやってくる。
このときになってようやく、私の顔から一斉に血の気が引いた。
私が跳ねられたのも、ただの事故ではなかったのだ。
車道側を歩いていたのは日下さんだった。私が咄嗟に身体を入れ替えなかったら、日下さんが跳ねられていた。
そして今も、犯人は彼を狙って戻ってきたらしい。
仕留めそこなったから、もう一度ひき逃げするつもりかもしれない。
なにか日下さんに恨みでもあるのだろうか。
どうしよう。跳ねられた衝撃で身体が痛くて動かない。これでは日下さんをかばえない。
「日下さん、逃げて! 逃げてください!!」
お腹に力が入らないから大きな声も出せない。
だけど精一杯の声で、すぐにここから離れてほしいと訴えた。
とにかく建物の陰にでも身をひそめていてほしい。
「逃げてたまるか! アイツを捕まえてやる!!」
「む、無茶です!」
いつも冷静で激高はしないはずの日下さんが、明らかに怒り心頭だ。
危ないからやめてくださいと懇願するも、その声は届きそうにない。
逃げてほしいのに、逆にバイクが来る方向へと立ち向かっていく。
道路の脇に置いてあった三角コーンを偶然見つけ、それを手にした日下さんは行く手を塞ぐように道路の真ん中へ出てしまった。
「日下さん!」
彼を止めたい一心で身体を動かそうと試みる。
だけど右腕に激痛が走り、打った衝撃で頭も重くて、自分の身体なのに思い通りに動かない。
バイクが来る。明らかに日下さん目掛けて突っ込んできた。
轢かれてしまうと思った瞬間、日下さんはバイクをひょいとよけながら、三角コーンを相手の側面にぶつけて応戦する。
バシャーン、ガシャーンという派手な音が鳴り響く。
日下さんの攻撃が見事に功を奏した。
ひき逃げ犯はバランスを崩して横転し、身体がバイクから転がり落ちた。
日下さんが即座にその人物に駆け寄って掴みかかる。
両手でフルフェイスのヘルメットを脱がせ、それを道端に放り投げた。
「俺を殺したかったのか?! なんとか言えよ!」
辺りに日下さんの怒声が響く。
だけどその犯人は転倒した拍子にどこか痛めたのだろう。うー、と呻き声をただ上げているだけだ。
私は右腕の激痛に堪えながらもなんとか立ち上がり、日下さんの元へ向かった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
沢田くんはおしゃべり
ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!!
【あらすじ】
空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。
友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。
【佐藤さん、マジ天使】(心の声)
無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす!
めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨
エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!)
エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる