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◇守りたい①
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***
『次の休みはいつ?』
事件があった数日後のお昼休憩の時間、日下さんから突然電話がかかってきた。
どうやら日下さんは私の引越し先を探してくれていたみたいで、良い物件が見つかったから一緒に見に行かないかと提案してくれた。
目星をつけてくれたのは、勤務先から程近いマンションだそうだ。
『手付けを打っても良かったんだが……俺が勝手に決めるわけにもいかないだろ? 住むのは君なんだから』
そんな当然のことを口にする日下さんの言葉がおかしくて、フッと電話口でほくそ笑む。
事件があった日。
同情と心配の気持ちから、彼がホテルの部屋を用意してくれた。
何泊でも泊まっていいと言ってくれていたけれど、私は翌日から樹里のマンションに居候させてもらっている。
新しく住むところを決めたら、引越業者を手配して速やかにそちらに移るつもりだ。
だけど親友宅の居心地の良さに甘え、私はあまりあせってはいなかった。
樹里が一緒に物件探しを手伝うと言ってくれていたけれど……彼女も仕事が忙しい。
その上、会社員の樹里と販売員の私では基本的に休みが合わない。
日にちを合わせて一緒に物件を見て回るとなると、いつになることやら。
だから、不動産屋にはひとりで行くつもりだった。
良い物件があれば内見させてもらい、話を持ち帰って樹里に相談すればいい。
日下さんにはもう会わないつもりでいた。
あの事件の夜、最後にしようと決めたから。
だから十年も前の、笑われそうな思い出話までしたのだ。
これ以上日下さんと一緒にいたら離れられなくなりそうで怖い。
不倫でもいいから、ずっと二番目の女でもいいからと、彼にすがってしまいそう。
そんなのはやっぱりダメだ。
公序良俗に反するだとか、真面目すぎることを言うつもりはないけれど。
最初はただ一緒にいたいという気持ちだとしても、いつの間にか彼を独占したい気持ちに変わってしまうかもしれない。
貪欲で厚顔無恥な女には絶対にならないとは言い切れないのだ。
日陰の身で不毛な関係をずっと続けられるほど、私は強くいられないと思う。
『知り合いの不動産屋が隠し持ってた物件なんだ。わけありでもないのに家賃も安い。一緒に見に行ってみないか?』
日下さんはどうしてここまで私によくしてくれるのだろう。
もしかして……私と都合よく身体だけの関係になりたいのかな?
いや、ありえない。それならこの前会った夜になにか仕掛けてきてもおかしくなかった。ホテルの部屋でふたりきりだったのだから。
だけど日下さんは私に指一本触れなかった。
ツインで並べられた隣のベッドで横になり、結局朝まで一緒にいてくれた。
だから彼にそういう気はないのだろう。
それに私じゃなくても、彼とそういう関係になりたい女性は探せばいくらでもいそうだ。
日下さんがほかの女性を抱きしめて首筋にキスを落とすところを想像し、あわててその妄想を頭からかき消した。
たったそれだけの妄想で、胸が締め付けられるようにギシギシと痛い。
「日下さん、私も仕事がありますし……」
『悠長にそんなことを言ってたら、優良物件がよそに流れてしまう』
「はぁ……でも……」
『あんな良い物件はほかにない。逃してもいいんだな?』
まるで脅されているみたいだ。
そこまで言われると、ものすごく惜しくなってくる。
新しい住み家を探しているのは事実だし、もちろん良い物件のほうがいいに決まっている。
『わかった。俺が代わりに見て、問題がないなら手付けを打っておく』
「え?!」
『次の休みはいつ?』
事件があった数日後のお昼休憩の時間、日下さんから突然電話がかかってきた。
どうやら日下さんは私の引越し先を探してくれていたみたいで、良い物件が見つかったから一緒に見に行かないかと提案してくれた。
目星をつけてくれたのは、勤務先から程近いマンションだそうだ。
『手付けを打っても良かったんだが……俺が勝手に決めるわけにもいかないだろ? 住むのは君なんだから』
そんな当然のことを口にする日下さんの言葉がおかしくて、フッと電話口でほくそ笑む。
事件があった日。
同情と心配の気持ちから、彼がホテルの部屋を用意してくれた。
何泊でも泊まっていいと言ってくれていたけれど、私は翌日から樹里のマンションに居候させてもらっている。
新しく住むところを決めたら、引越業者を手配して速やかにそちらに移るつもりだ。
だけど親友宅の居心地の良さに甘え、私はあまりあせってはいなかった。
樹里が一緒に物件探しを手伝うと言ってくれていたけれど……彼女も仕事が忙しい。
その上、会社員の樹里と販売員の私では基本的に休みが合わない。
日にちを合わせて一緒に物件を見て回るとなると、いつになることやら。
だから、不動産屋にはひとりで行くつもりだった。
良い物件があれば内見させてもらい、話を持ち帰って樹里に相談すればいい。
日下さんにはもう会わないつもりでいた。
あの事件の夜、最後にしようと決めたから。
だから十年も前の、笑われそうな思い出話までしたのだ。
これ以上日下さんと一緒にいたら離れられなくなりそうで怖い。
不倫でもいいから、ずっと二番目の女でもいいからと、彼にすがってしまいそう。
そんなのはやっぱりダメだ。
公序良俗に反するだとか、真面目すぎることを言うつもりはないけれど。
最初はただ一緒にいたいという気持ちだとしても、いつの間にか彼を独占したい気持ちに変わってしまうかもしれない。
貪欲で厚顔無恥な女には絶対にならないとは言い切れないのだ。
日陰の身で不毛な関係をずっと続けられるほど、私は強くいられないと思う。
『知り合いの不動産屋が隠し持ってた物件なんだ。わけありでもないのに家賃も安い。一緒に見に行ってみないか?』
日下さんはどうしてここまで私によくしてくれるのだろう。
もしかして……私と都合よく身体だけの関係になりたいのかな?
いや、ありえない。それならこの前会った夜になにか仕掛けてきてもおかしくなかった。ホテルの部屋でふたりきりだったのだから。
だけど日下さんは私に指一本触れなかった。
ツインで並べられた隣のベッドで横になり、結局朝まで一緒にいてくれた。
だから彼にそういう気はないのだろう。
それに私じゃなくても、彼とそういう関係になりたい女性は探せばいくらでもいそうだ。
日下さんがほかの女性を抱きしめて首筋にキスを落とすところを想像し、あわててその妄想を頭からかき消した。
たったそれだけの妄想で、胸が締め付けられるようにギシギシと痛い。
「日下さん、私も仕事がありますし……」
『悠長にそんなことを言ってたら、優良物件がよそに流れてしまう』
「はぁ……でも……」
『あんな良い物件はほかにない。逃してもいいんだな?』
まるで脅されているみたいだ。
そこまで言われると、ものすごく惜しくなってくる。
新しい住み家を探しているのは事実だし、もちろん良い物件のほうがいいに決まっている。
『わかった。俺が代わりに見て、問題がないなら手付けを打っておく』
「え?!」
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