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◇ストーカー被害⑪
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私は警察に電話したつもりだったけれど、よく考えたら『110』と押していない。
どうやらあわてていて、発信履歴の一番上をタップしてしまったようだ。
数日前、あのデザートバイキングの会場で私のスマホを勝手に操作し、登録したから試しにかけろと言われた番号に。
『今どこ?! ……聞こえてるのか?!』
「くっ……日下さん……」
ようやくこのとき、両目から涙が零れ落ちた。
泣いたら余計に声が出ないとわかっているのに。
そうは思うけれど、耳から伝わる日下さんの声で涙が止まらない。
「聞こえて……ます……」
『どこにいる?』
拙いながらも、私は最寄駅と自宅アパートの間の狭い路地にいることを伝えた。
変な男に襲われた、というくらいしか、この事件の詳しい説明はできなかったのだけれど。
『今ちょうど車で移動中だったんだ。近くにいるからすぐにそっちへ行く。待ってろ!』
そう言うだけ言って、私の返事を待たずして電話は切れてしまった。
心臓が痛い。泣き出してから嗚咽が止まらなくなった。
息を整えて今度こそ警察に電話しなくてはと再びスマホの画面を見つめていると、路地に人が入り込んでくる気配がして、私は大きく肩をビクつかせた。
「すみません、犯人に逃げられました。大丈夫ですか? 警察、呼べました?」
もしかしてウインドブレーカーの犯人が戻ってきたのかと一瞬考えたけれど、逃げたのだからそんなはずはない。
戻ってきたのは私を助けてくれた男の人だった。
「先に……知人に電話してしまって……」
「じゃあ、警察は俺が電話します」
救いの神であるその男性は自分のスマホを取り出し、スムーズに通報してくれた。
警察が来るまでの間に話してくれたのだけれど、彼は近くに住む大学生らしい。
家に帰ろうと歩いていたら、偶然にも私の「助けて!」という叫び声が聞こえたのだとか。
本当に救世主だ。彼が来てくれなかったら、私は殺されていたかもしれない。大げさではなく命の恩人だ。
しばらくするとパトカーのサイレンが聞こえてきて、警察官がこの狭い路地へと駆けつけてきた。
女性警官が私の横にしゃがみ込み、労わるようにやさしく腕や肩をさすってくれる。
男に襲われていきなり路地へ引っ張り込まれたのだとかろうじて説明すると、嗚咽がおさまらない私の代わりに、救世主の大学生が犯人の服装など細かいことを説明してくれていた。
「ひなたっ!!」
路地の向こうから私の名を呼ぶ声が聞こえる。
時には警察官を押しのけるようにしながら、日下さんがあわてて私の元までやって来た。
「……日下さん……」
地べたに座りこむ私を見た途端、彼は勢いよく抱きしめた。
彼から伝わる匂いと体温、力強く囲われる身体……そのどれもが心から安心できるもので、張り詰めていた緊張が徐々にほぐれていく。
涙は止まらなかった。
未だに拭えない恐怖と、ホッと安心した気持ちが交錯して混乱する。
「怖かったな」
日下さんが親指の腹でそっと私の目元を拭った。
だけど私の顔には別の水滴が落ちてくる。
これは………涙? いや、雨だ。
小さな雨粒だけれど、どうやら降ってきたみたい。
よしよし、と日下さんは私の頭を撫でると、着ていたスーツの上着を脱いで私の肩にそれを乗せた。
どうやらあわてていて、発信履歴の一番上をタップしてしまったようだ。
数日前、あのデザートバイキングの会場で私のスマホを勝手に操作し、登録したから試しにかけろと言われた番号に。
『今どこ?! ……聞こえてるのか?!』
「くっ……日下さん……」
ようやくこのとき、両目から涙が零れ落ちた。
泣いたら余計に声が出ないとわかっているのに。
そうは思うけれど、耳から伝わる日下さんの声で涙が止まらない。
「聞こえて……ます……」
『どこにいる?』
拙いながらも、私は最寄駅と自宅アパートの間の狭い路地にいることを伝えた。
変な男に襲われた、というくらいしか、この事件の詳しい説明はできなかったのだけれど。
『今ちょうど車で移動中だったんだ。近くにいるからすぐにそっちへ行く。待ってろ!』
そう言うだけ言って、私の返事を待たずして電話は切れてしまった。
心臓が痛い。泣き出してから嗚咽が止まらなくなった。
息を整えて今度こそ警察に電話しなくてはと再びスマホの画面を見つめていると、路地に人が入り込んでくる気配がして、私は大きく肩をビクつかせた。
「すみません、犯人に逃げられました。大丈夫ですか? 警察、呼べました?」
もしかしてウインドブレーカーの犯人が戻ってきたのかと一瞬考えたけれど、逃げたのだからそんなはずはない。
戻ってきたのは私を助けてくれた男の人だった。
「先に……知人に電話してしまって……」
「じゃあ、警察は俺が電話します」
救いの神であるその男性は自分のスマホを取り出し、スムーズに通報してくれた。
警察が来るまでの間に話してくれたのだけれど、彼は近くに住む大学生らしい。
家に帰ろうと歩いていたら、偶然にも私の「助けて!」という叫び声が聞こえたのだとか。
本当に救世主だ。彼が来てくれなかったら、私は殺されていたかもしれない。大げさではなく命の恩人だ。
しばらくするとパトカーのサイレンが聞こえてきて、警察官がこの狭い路地へと駆けつけてきた。
女性警官が私の横にしゃがみ込み、労わるようにやさしく腕や肩をさすってくれる。
男に襲われていきなり路地へ引っ張り込まれたのだとかろうじて説明すると、嗚咽がおさまらない私の代わりに、救世主の大学生が犯人の服装など細かいことを説明してくれていた。
「ひなたっ!!」
路地の向こうから私の名を呼ぶ声が聞こえる。
時には警察官を押しのけるようにしながら、日下さんがあわてて私の元までやって来た。
「……日下さん……」
地べたに座りこむ私を見た途端、彼は勢いよく抱きしめた。
彼から伝わる匂いと体温、力強く囲われる身体……そのどれもが心から安心できるもので、張り詰めていた緊張が徐々にほぐれていく。
涙は止まらなかった。
未だに拭えない恐怖と、ホッと安心した気持ちが交錯して混乱する。
「怖かったな」
日下さんが親指の腹でそっと私の目元を拭った。
だけど私の顔には別の水滴が落ちてくる。
これは………涙? いや、雨だ。
小さな雨粒だけれど、どうやら降ってきたみたい。
よしよし、と日下さんは私の頭を撫でると、着ていたスーツの上着を脱いで私の肩にそれを乗せた。
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