【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

文字の大きさ
上 下
50 / 72

◇ストーカー被害⑩

しおりを挟む
「やっ! やめて!!」

 ここでようやく震えた声を出すことができた。
 だけどすぐに男は捻りあげた右腕にさらに力を加える。右肩が痛くて関節が外れそう。

「おとなしくしろって。すぐ済む」

 その言葉で今からなにをされるのか察しがついた。
 貴重品目当てならバッグをひったくれば済むことだ。だからこの男の目的は金銭ではない。

 きっと……私をはずかしめるのが目的なのだろう。
 その証拠に今度はスカートの中に手を入れてきた。そしてさらに私を脅す。

「騒いだら、あられもない姿を人に見られるぞ?」

 抵抗すればもっと怖い目に合う。殺されるかもしれない。
 だけどこんな卑劣なことをするやつに好き勝手されるのは嫌。
 このまま黙って犯されるくらいなら、死んだほうがマシだ。
 太ももやお尻を触られて気持ち悪さに吐き気を覚えつつ、私はスーッと息を吸い込んだ。

「だ、誰かっ! 助けてーー!!」

 今出せる精一杯の声で助けを呼んだ。その声が誰かに届くことを祈って。

「うるせぇーよ」

 真後ろで怒りに満ちた声が聞こえ、私は自然にブルッと身体が震えた。
 その瞬間、頭を目の前の壁に勢いよくガツンと押し当てられて痛みが走る。
 涙も出ない。出たのは「うっ」という呻き声だけだ。
 そしてまた、恐怖に支配される。

 ……もうダメだ。犯されて殺される。
 諦めにも似た感情が頭をかすめたとき ――

「おい! なにやってんだ!!」

 私の声が誰かに届いたのか、助けに来てくれた人がいた。
 真後ろでチッという舌打ちが聞こえ、それと同時に捻り上げられていた右腕が解放される。
 ずるずるとその場にへたりこみながらも振り返ると、走り去る犯人の後姿が見えた。

「大丈夫ですか?!」

 助けに入ってくれた見知らぬ男性が、しゃがんで私に声をかけてくれる。
 私は震えながらもコクリとうなずいた。精神的には全然大丈夫ではないけれど身体は無事だ。

「俺、犯人を追いかけます! とりあえず警察に電話して!」

 彼はそう言いながら犯人が逃げた方向へと走って行ってしまった。
 私は近くに転がっていた自分のバッグを掴み、あわててスマホを取り出す。
 よく考えたら、こんな真っ暗な路地に私は今ひとりきりだ。
 それを認識してしまうと怖くて両手がブルブルと勝手に震えだした。
 今はスマホの液晶の灯りだけが頼り。

『もしもし』
「もしもし、あの……い、今、路上で……」

 声が震える上に、時折喉も詰まってしまう。なんせ気が動転していてうまく話せない。
 警察の人に今どこにいるか、状況を説明しなければならないのに。きちんと伝えて早く来てもらわなくては。

『どうした? なにかあったのか?!』

 耳に届いたその声で……電話の向こうにいる人が誰だかわかってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...