49 / 72
◇ストーカー被害⑨
しおりを挟む
「そうか。じゃ、気をつけて帰れよ?」
「はい。お疲れ様でした!」
改札を抜けたところでペコリとおじぎをして窪田さんと別れた。
自宅方面の電車に揺られ、最寄り駅へと辿り着く。
ここからが問題なのだけれど……
でも大丈夫だろう。最近不審者情報はまったく聞かなくなったから。
改札を出て空を見上げると星が全然見えない。
真っ暗な夜でも、どんよりと雲が広がっているのがわかった。
「もしかして……降る?」
思わず独り言が漏れる。
家まで徒歩十分の距離だ。早足で歩いてとにかくアパートまで急ぎたい。
今日は傘がないから雨には降られたくないけれど、私のことだから降るのだろう。
自虐的にクスリと笑い、最寄駅をあとにした。
不審者に会いませんように。
心の中でその言葉を念仏のように唱えながらスタスタと歩く。
怖いと思うから怖いのだ。……いや、これはお化けとは違うか。
アパートに向かって歩いていると、自然と駅周辺の喧騒から離れていく。
それと同時に辺りも暗くなり、どんどん不安が膨らんできた。
怖がらなくても大丈夫だ。以前に不審者が現れてから、もうずいぶん日が経っている。それからまったくなにも起こってはいない。
いざとなったら走って逃げればいいのだ。
今日は比較的ぺたんこな靴を履いてるから、きっと逃げられる。
そう考えて、肩に掛けたバッグの持ち手をギュッと持ち直したときだった。
なんとなく……自分の後ろに人の気配を感じた。
条件反射で咄嗟に振り向いてしまう。
そこに見えたのは中肉中背のどこにでもいそうな男性だったのだが、その姿がとてもあやしい。
下はジーンズにスニーカーで普通だ。
だけど上は黒のウインドブレーカーを着ていて、キャップの帽子を目深に被った上から、さらにフードをすっぽりと被り、大きな白のマスクをしている。
要するに、―― その顔がまったく見えない。
私は顔面蒼白になりながら再び前を向いた。
走れ! 走れっ!!!
自分の脳が身体にそう命令している。
あわてふためきながらバタバタと駆け出す。
だけど数十メートル走ったところで、後ろから右の肩をガシッと掴まれた。
心臓が止まるかと思った。
もうこうなると、咄嗟に悲鳴を上げることすらできない。
だけど相手も騒がれると困ると思ったのか、真後ろから手袋をした左手で私の口を覆った。
ここでようやく私もジタバタと暴れようとしたが、なんせ相手は男性だ。大男ではないにしても、私よりも力は強い。
「おとなしくしろよ」
私の耳元で男が低い声で囁く。
そう言ったかと思うと、人がひとり通れるほどの真っ暗な狭い路地へ無理やり引っ張りこまれた。
足がもつれて崩れ落ちるように地面にうずくまる。だけどすぐに髪をつかまれて強制的に立たされた。
目の前は建物の壁だ。
男が私の右腕を後ろ手にして捻っているから、どうにも抵抗できない。
私はかろうじて左手で壁に手をつき、それを押し戻すので精一杯だ。
すると男が空いている左手で、後ろから私の胸をまさぐってきた。
「はい。お疲れ様でした!」
改札を抜けたところでペコリとおじぎをして窪田さんと別れた。
自宅方面の電車に揺られ、最寄り駅へと辿り着く。
ここからが問題なのだけれど……
でも大丈夫だろう。最近不審者情報はまったく聞かなくなったから。
改札を出て空を見上げると星が全然見えない。
真っ暗な夜でも、どんよりと雲が広がっているのがわかった。
「もしかして……降る?」
思わず独り言が漏れる。
家まで徒歩十分の距離だ。早足で歩いてとにかくアパートまで急ぎたい。
今日は傘がないから雨には降られたくないけれど、私のことだから降るのだろう。
自虐的にクスリと笑い、最寄駅をあとにした。
不審者に会いませんように。
心の中でその言葉を念仏のように唱えながらスタスタと歩く。
怖いと思うから怖いのだ。……いや、これはお化けとは違うか。
アパートに向かって歩いていると、自然と駅周辺の喧騒から離れていく。
それと同時に辺りも暗くなり、どんどん不安が膨らんできた。
怖がらなくても大丈夫だ。以前に不審者が現れてから、もうずいぶん日が経っている。それからまったくなにも起こってはいない。
いざとなったら走って逃げればいいのだ。
今日は比較的ぺたんこな靴を履いてるから、きっと逃げられる。
そう考えて、肩に掛けたバッグの持ち手をギュッと持ち直したときだった。
なんとなく……自分の後ろに人の気配を感じた。
条件反射で咄嗟に振り向いてしまう。
そこに見えたのは中肉中背のどこにでもいそうな男性だったのだが、その姿がとてもあやしい。
下はジーンズにスニーカーで普通だ。
だけど上は黒のウインドブレーカーを着ていて、キャップの帽子を目深に被った上から、さらにフードをすっぽりと被り、大きな白のマスクをしている。
要するに、―― その顔がまったく見えない。
私は顔面蒼白になりながら再び前を向いた。
走れ! 走れっ!!!
自分の脳が身体にそう命令している。
あわてふためきながらバタバタと駆け出す。
だけど数十メートル走ったところで、後ろから右の肩をガシッと掴まれた。
心臓が止まるかと思った。
もうこうなると、咄嗟に悲鳴を上げることすらできない。
だけど相手も騒がれると困ると思ったのか、真後ろから手袋をした左手で私の口を覆った。
ここでようやく私もジタバタと暴れようとしたが、なんせ相手は男性だ。大男ではないにしても、私よりも力は強い。
「おとなしくしろよ」
私の耳元で男が低い声で囁く。
そう言ったかと思うと、人がひとり通れるほどの真っ暗な狭い路地へ無理やり引っ張りこまれた。
足がもつれて崩れ落ちるように地面にうずくまる。だけどすぐに髪をつかまれて強制的に立たされた。
目の前は建物の壁だ。
男が私の右腕を後ろ手にして捻っているから、どうにも抵抗できない。
私はかろうじて左手で壁に手をつき、それを押し戻すので精一杯だ。
すると男が空いている左手で、後ろから私の胸をまさぐってきた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
沢田くんはおしゃべり
ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!!
【あらすじ】
空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。
友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。
【佐藤さん、マジ天使】(心の声)
無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす!
めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨
エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!)
エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる