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◇ストーカー被害⑧
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「違いますよ! そんなわけないじゃないですか!」
私の必死さが伝わったのか、窪田さんは少し肩の力を抜いて深呼吸をする。
「私と日下さんはそんな関係じゃありません」
「……ならいい」
窪田さんはうなずき、自分のこめかみに手を当てる。
どうやら先ほどの私の声が二日酔いの頭に響いたようだ。
「だけど……一応、忠告だ。これは職場の先輩というか、人生の先輩としてな」
窪田さんが私をじっと見据えて言う。
「不倫は絶対やめとけ」
「……はい」
「元気の塊みたいなお前が、人から後ろ指さされるような不倫なんて似合わないことはするな」
私は苦笑いでコクリとうなずいた。今のは窪田さんらしい言葉だ。
わざわざ人の道から外れて、つらい思いをする不倫なんてするものじゃないと諌めてくれた。
私が背徳の恋に走らないようにストップをかけようとしてくれたのだ。
……でも、大丈夫。
「男は結局、嫁を選ぶんだよ。そんなもんだ。たとえお前が高熱を出して倒れても駆けつけても来ない。最後に男は家に帰り、日陰の女はみじめにボロ雑巾みたいに捨てられる」
「私、不倫なんてしませんから。それに私と日下さんじゃ元から全然釣り合いませんよ」
「だから一応忠告だって。昨日見たドラマでも男が嫁に不倫がバレた途端、手のひら返して女をバッサリ捨ててたしな。女は包丁を手にして……」
「どんなドラマ見てるんですか!」
なかなかドロドロしたドラマだ。
私が突っ込むと窪田さんは照れくさくなったのか、フッと笑って視線を逸らせた。
「実は私……ずっと忘れられない人がいるんです」
私は小さな声でカミングアウトをした。
すると窪田さんは途端に驚きの表情を見せる。
結局私は日下さんのことではなくて、あの日のことが心の中でひっかかってるのだと……そう自覚した。
だからずっと恋愛できずにいるのだと思う。
「忘れられない人って誰なんだよ。俺や棚野が知ってるヤツか?」
私が爆弾発言をしたあとしばらく、窪田さんはそんなふうにしつこく追究してきたけれど。
それは内緒です、と笑ってごまかしておいた。
棚野さんと付き合わないのは、日下さんと付き合いたいからではない。そう誤解されないための発言だった。
だけど思いのほか効果があったようで、窪田さんは日下さんのことはピタリと言わなくなった。
この日の遅番の仕事が滞りなく終わる。
売り上げも順調だったし、レジ締めもピタリとお金が合った。
「お前……大丈夫かよ。送ってってやろうか?」
帰り道、ふたりで駅の改札まで歩いてきたところで、窪田さんが心配そうに言ってくれた。けれど私は笑顔で首を横に振る。
不審者のことを気にかけてくれているのだ。
窪田さんは口が悪くて残念な面があるけれど、こういうときは本当に面倒見がいい。やさしい先輩だと思う。
「大丈夫ですよ。ひとりで帰れます。ていうか、窪田さんこそ私を家まで送ってる場合じゃないですよ。今日は体調が悪いんですから、早く帰って休んでください。明日は早番じゃないですか」
お客様の手前、店内で仕事をしているときはシャキッとしていたけれど。
裏の事務所に一歩入ると、今日は終始吐きそうな顔をしていた。
そんな体調最悪の人に家まで送ってもらうなんてもってのほかだ。
それに、明日以降も遅番のシフトはあるのだから。
毎回送ってもらうわけにもいかない。だったら今日からひとりで帰っても同じことだ。
だいたい、窪田さんと私は家が反対方向になる。
私の必死さが伝わったのか、窪田さんは少し肩の力を抜いて深呼吸をする。
「私と日下さんはそんな関係じゃありません」
「……ならいい」
窪田さんはうなずき、自分のこめかみに手を当てる。
どうやら先ほどの私の声が二日酔いの頭に響いたようだ。
「だけど……一応、忠告だ。これは職場の先輩というか、人生の先輩としてな」
窪田さんが私をじっと見据えて言う。
「不倫は絶対やめとけ」
「……はい」
「元気の塊みたいなお前が、人から後ろ指さされるような不倫なんて似合わないことはするな」
私は苦笑いでコクリとうなずいた。今のは窪田さんらしい言葉だ。
わざわざ人の道から外れて、つらい思いをする不倫なんてするものじゃないと諌めてくれた。
私が背徳の恋に走らないようにストップをかけようとしてくれたのだ。
……でも、大丈夫。
「男は結局、嫁を選ぶんだよ。そんなもんだ。たとえお前が高熱を出して倒れても駆けつけても来ない。最後に男は家に帰り、日陰の女はみじめにボロ雑巾みたいに捨てられる」
「私、不倫なんてしませんから。それに私と日下さんじゃ元から全然釣り合いませんよ」
「だから一応忠告だって。昨日見たドラマでも男が嫁に不倫がバレた途端、手のひら返して女をバッサリ捨ててたしな。女は包丁を手にして……」
「どんなドラマ見てるんですか!」
なかなかドロドロしたドラマだ。
私が突っ込むと窪田さんは照れくさくなったのか、フッと笑って視線を逸らせた。
「実は私……ずっと忘れられない人がいるんです」
私は小さな声でカミングアウトをした。
すると窪田さんは途端に驚きの表情を見せる。
結局私は日下さんのことではなくて、あの日のことが心の中でひっかかってるのだと……そう自覚した。
だからずっと恋愛できずにいるのだと思う。
「忘れられない人って誰なんだよ。俺や棚野が知ってるヤツか?」
私が爆弾発言をしたあとしばらく、窪田さんはそんなふうにしつこく追究してきたけれど。
それは内緒です、と笑ってごまかしておいた。
棚野さんと付き合わないのは、日下さんと付き合いたいからではない。そう誤解されないための発言だった。
だけど思いのほか効果があったようで、窪田さんは日下さんのことはピタリと言わなくなった。
この日の遅番の仕事が滞りなく終わる。
売り上げも順調だったし、レジ締めもピタリとお金が合った。
「お前……大丈夫かよ。送ってってやろうか?」
帰り道、ふたりで駅の改札まで歩いてきたところで、窪田さんが心配そうに言ってくれた。けれど私は笑顔で首を横に振る。
不審者のことを気にかけてくれているのだ。
窪田さんは口が悪くて残念な面があるけれど、こういうときは本当に面倒見がいい。やさしい先輩だと思う。
「大丈夫ですよ。ひとりで帰れます。ていうか、窪田さんこそ私を家まで送ってる場合じゃないですよ。今日は体調が悪いんですから、早く帰って休んでください。明日は早番じゃないですか」
お客様の手前、店内で仕事をしているときはシャキッとしていたけれど。
裏の事務所に一歩入ると、今日は終始吐きそうな顔をしていた。
そんな体調最悪の人に家まで送ってもらうなんてもってのほかだ。
それに、明日以降も遅番のシフトはあるのだから。
毎回送ってもらうわけにもいかない。だったら今日からひとりで帰っても同じことだ。
だいたい、窪田さんと私は家が反対方向になる。
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