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◇ストーカー被害⑦
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「大丈夫ですか? 薬飲みました?」
「ずっとそうやって気遣え」
「……は?」
「今日は俺の下僕として仕えろ」
「意味がわかりません」
体内にまだアルコールが残っているのだろうか。発言が支離滅裂だ。
……下僕だなんて、いったいなんの冗談なんだか。
「どうして私が? まさか、ご主人さまと下僕ごっこでもしたいんですか~?」
冗談には冗談で返すのが一番。そう考えて嫌味なほどの笑顔でそう返したのだけれど。
こちらに振り返った窪田さんの顔はちっとも笑っていなかった。というよりむしろ、眉根がギュッと寄っていて不機嫌そのものだった。
「お前なぁ……俺が今現在こうなってるのは、半分はお前のせいだからな?」
「……はい?」
今のはどういう了見だろう。
窪田さんの二日酔いが半分私のせいとは?
心の中でそう言い返していたのだけれど……
「棚野だよ、棚野!」
窪田さんの二日酔いに私が関与しているとは思えなかったが、棚野さんの名前が耳に届いて、点と点が線で結ばれた。
「昨日お前が早番で上がったあと、アイツが閉店前にここに来たんだよ。で、俺に酒に付き合えっていうから一緒に居酒屋にな……」
どうやら昨日はふたりで飲みに行っていたみたいだ。
それで窪田さんがこんなに二日酔いになるまでお酒に付き合ったのか。
「お前、棚野をフったんだってな」
やっぱり。昨日は要するに、窪田さんが棚野さんのヤケ酒に付き合わされたのだ。
しかし……今の言葉は正直堪える。
すごく悪いことをして責められている気分になってきた。
「どうしても棚野じゃダメなのか?」
「……」
「アイツ、いいヤツだろ?」
良い人なのは十分わかっている。だけどそれだけでは恋心に発展しないのだ。
「昨日酒飲みながらアイツが言うんだよ。本気でお前のことが好きなんだって俺に切実に語るわけ。考えてみたらここで働いてるときからアイツはお前のこと好きだったんだよな。いろいろ親身になったりしてたのに結局フラれるんだなって思ったら、なんだかアイツが不憫に思えてさ」
それを言われると、本当につらい。
だけど……心の底から申し訳ないと思うけれど、彼の気持ちにはどうしても応えられない。
「窪田さん、すみません。でも私、断ったら気の毒だからとかそういう理由で仕方なく付き合うのも違うと思うんです」
窪田さんと棚野さんは男性同士で仲がいい。
だから私ではなく棚野さんの味方をしたくなるのだと思う。それは理解できる。
でも、せっかく思いを寄せてくれているし断るのは悪いから付き合う、というのは違う。
恋愛という感情はなく、それはただ同情しているだけだ。
「別に俺に謝らなくてもいいけどな。だけどお前、棚野じゃなくてあの男にしようとしてるのか?」
窪田さんが普段とは違って至極真面目な顔を見せる。それにつられ、私も自然と神妙な面持ちになった。
「酔った棚野がしきりに気にしてたぞ? お前がその……例のサンシャインの副社長と付き合うんじゃないかって」
「……え?!」
「違うのか?」
それは棚野さんの頭の中で勝手に繰り広げられている妄想だ。
私は窪田さんに向かって、それは事実無根なのだと必死に頭を振って否定をした。
「ずっとそうやって気遣え」
「……は?」
「今日は俺の下僕として仕えろ」
「意味がわかりません」
体内にまだアルコールが残っているのだろうか。発言が支離滅裂だ。
……下僕だなんて、いったいなんの冗談なんだか。
「どうして私が? まさか、ご主人さまと下僕ごっこでもしたいんですか~?」
冗談には冗談で返すのが一番。そう考えて嫌味なほどの笑顔でそう返したのだけれど。
こちらに振り返った窪田さんの顔はちっとも笑っていなかった。というよりむしろ、眉根がギュッと寄っていて不機嫌そのものだった。
「お前なぁ……俺が今現在こうなってるのは、半分はお前のせいだからな?」
「……はい?」
今のはどういう了見だろう。
窪田さんの二日酔いが半分私のせいとは?
心の中でそう言い返していたのだけれど……
「棚野だよ、棚野!」
窪田さんの二日酔いに私が関与しているとは思えなかったが、棚野さんの名前が耳に届いて、点と点が線で結ばれた。
「昨日お前が早番で上がったあと、アイツが閉店前にここに来たんだよ。で、俺に酒に付き合えっていうから一緒に居酒屋にな……」
どうやら昨日はふたりで飲みに行っていたみたいだ。
それで窪田さんがこんなに二日酔いになるまでお酒に付き合ったのか。
「お前、棚野をフったんだってな」
やっぱり。昨日は要するに、窪田さんが棚野さんのヤケ酒に付き合わされたのだ。
しかし……今の言葉は正直堪える。
すごく悪いことをして責められている気分になってきた。
「どうしても棚野じゃダメなのか?」
「……」
「アイツ、いいヤツだろ?」
良い人なのは十分わかっている。だけどそれだけでは恋心に発展しないのだ。
「昨日酒飲みながらアイツが言うんだよ。本気でお前のことが好きなんだって俺に切実に語るわけ。考えてみたらここで働いてるときからアイツはお前のこと好きだったんだよな。いろいろ親身になったりしてたのに結局フラれるんだなって思ったら、なんだかアイツが不憫に思えてさ」
それを言われると、本当につらい。
だけど……心の底から申し訳ないと思うけれど、彼の気持ちにはどうしても応えられない。
「窪田さん、すみません。でも私、断ったら気の毒だからとかそういう理由で仕方なく付き合うのも違うと思うんです」
窪田さんと棚野さんは男性同士で仲がいい。
だから私ではなく棚野さんの味方をしたくなるのだと思う。それは理解できる。
でも、せっかく思いを寄せてくれているし断るのは悪いから付き合う、というのは違う。
恋愛という感情はなく、それはただ同情しているだけだ。
「別に俺に謝らなくてもいいけどな。だけどお前、棚野じゃなくてあの男にしようとしてるのか?」
窪田さんが普段とは違って至極真面目な顔を見せる。それにつられ、私も自然と神妙な面持ちになった。
「酔った棚野がしきりに気にしてたぞ? お前がその……例のサンシャインの副社長と付き合うんじゃないかって」
「……え?!」
「違うのか?」
それは棚野さんの頭の中で勝手に繰り広げられている妄想だ。
私は窪田さんに向かって、それは事実無根なのだと必死に頭を振って否定をした。
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