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◇ストーカー被害⑥
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人の気持ちは変わるものだし、今からそう断言してしまうのは早いかもしれない。
だけど私の望む恋愛とは違うと気づいたのだ。
私が今より十歳年上だったなら、凪いだ海のような穏やかな関係の男性とお付き合いをし、結婚に癒しを求めるのもありだろう。
棚野さんのように、大好きだと思えなくても良い人だと思える相手と落ち着いた結婚をしたとしても……幸せに暮らせるかもしれない。
でも今の私はそれを望んでいない。
結婚だって絶対したいわけではないし、誰でもいいから恋愛したいわけでもない。
こんなに恋愛から遠ざかっているのだから、どうせなら胸が焼け焦げてしまうくらいの大恋愛がしたいのだ。
その相手が、棚野さんでは無理だと思ってしまった。
「日下って人には……もう会っちゃダメだ。俺、ずっとひなたちゃんを見てきたからわかる。ひなたちゃんはその人に惹かれてるよ」
棚野さんは自らなにかを強く主張する性格ではないから、発せられた今の言葉がとても辛らつに聞こえた。
直接面識のない日下さんのことはなにも知らないはずなのに、どういう根拠でそう言うのかわからない。
「本当にごめんなさい」
交際を断って嫌な気分にさせてしまったのは私だから、もう一度頭を下げて詫びた。
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。日下さんにはもう会うことはありませんから」
理由も用事もないのだから、もう会うこともないだろう。
所詮、日下さんとも縁はなかったのだ。私の運命の相手ではなかった。
よく考えてみたら、サンシャインホールディングスの副社長である御曹司と一般庶民の私が知り合えたこと自体、奇跡だと思う。
ちょっとした神様のいたずらだったのかもしれない。
***
棚野さんに返事をした二日後、久々に私は遅番勤務に復帰をした。
「う~……あったま痛てぇ」
午前十一時に出勤すると、休憩室にいる窪田さんがポツリとつぶやくのが聞こえてきた。
なんだか動作ものろのろとしていて元気がない。
デスクにあるパソコンの前に座り、本社からのメールをチェックしているようだけれど。
今にもキーボードの上に突っ伏してしまいそうなくらい身体がぐにゃぐにゃだ。いったいどうしたのだろう。
「窪田さん、今日から私、遅番復帰します。今まで迷惑をかけてすみませんでした!」
ロッカーに手荷物を置いて着替えを済ませると、休憩室にいる窪田さんに気合いを入れて声をかけた。
今まで迷惑をかけたことは間違いないから謝っておきたい。
「わかったから声のトーンを抑えてくれ。お前はいつも元気すぎる」
「……は?」
そう言われてもわけがわからず、私は素っとん狂な返事をした。
「窪田さん、体調でも悪いんですか?」
身体の強い窪田さんが病気になったところは見たことがない。
だけどつらそうにしている今の彼は、覇気がなくて青白い顔をしているし、健康体には見えなかった。
「ただの二日酔いだ」
肘をついてぼうっとパソコンのモニターを凝視したまま窪田さんが言う。
なるほど。だからそんなに頭痛がしていて、顔色も悪くて、ぐにゃぐにゃなのかと納得をした。
「珍しいですね」
気を使い、声を抑えてそう告げた。
窪田さんはお酒が弱いわけでないけれど、無茶して飲んだりはしない人だ。
特に翌日が出勤だとわかっていれば尚更、仕事に支障が出るほど深酒はしない。それくらい仕事に対して責任感を持っている。
だから彼がこんなにも酷い二日酔いになってるところを見るのは初めてだった。
だけど私の望む恋愛とは違うと気づいたのだ。
私が今より十歳年上だったなら、凪いだ海のような穏やかな関係の男性とお付き合いをし、結婚に癒しを求めるのもありだろう。
棚野さんのように、大好きだと思えなくても良い人だと思える相手と落ち着いた結婚をしたとしても……幸せに暮らせるかもしれない。
でも今の私はそれを望んでいない。
結婚だって絶対したいわけではないし、誰でもいいから恋愛したいわけでもない。
こんなに恋愛から遠ざかっているのだから、どうせなら胸が焼け焦げてしまうくらいの大恋愛がしたいのだ。
その相手が、棚野さんでは無理だと思ってしまった。
「日下って人には……もう会っちゃダメだ。俺、ずっとひなたちゃんを見てきたからわかる。ひなたちゃんはその人に惹かれてるよ」
棚野さんは自らなにかを強く主張する性格ではないから、発せられた今の言葉がとても辛らつに聞こえた。
直接面識のない日下さんのことはなにも知らないはずなのに、どういう根拠でそう言うのかわからない。
「本当にごめんなさい」
交際を断って嫌な気分にさせてしまったのは私だから、もう一度頭を下げて詫びた。
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。日下さんにはもう会うことはありませんから」
理由も用事もないのだから、もう会うこともないだろう。
所詮、日下さんとも縁はなかったのだ。私の運命の相手ではなかった。
よく考えてみたら、サンシャインホールディングスの副社長である御曹司と一般庶民の私が知り合えたこと自体、奇跡だと思う。
ちょっとした神様のいたずらだったのかもしれない。
***
棚野さんに返事をした二日後、久々に私は遅番勤務に復帰をした。
「う~……あったま痛てぇ」
午前十一時に出勤すると、休憩室にいる窪田さんがポツリとつぶやくのが聞こえてきた。
なんだか動作ものろのろとしていて元気がない。
デスクにあるパソコンの前に座り、本社からのメールをチェックしているようだけれど。
今にもキーボードの上に突っ伏してしまいそうなくらい身体がぐにゃぐにゃだ。いったいどうしたのだろう。
「窪田さん、今日から私、遅番復帰します。今まで迷惑をかけてすみませんでした!」
ロッカーに手荷物を置いて着替えを済ませると、休憩室にいる窪田さんに気合いを入れて声をかけた。
今まで迷惑をかけたことは間違いないから謝っておきたい。
「わかったから声のトーンを抑えてくれ。お前はいつも元気すぎる」
「……は?」
そう言われてもわけがわからず、私は素っとん狂な返事をした。
「窪田さん、体調でも悪いんですか?」
身体の強い窪田さんが病気になったところは見たことがない。
だけどつらそうにしている今の彼は、覇気がなくて青白い顔をしているし、健康体には見えなかった。
「ただの二日酔いだ」
肘をついてぼうっとパソコンのモニターを凝視したまま窪田さんが言う。
なるほど。だからそんなに頭痛がしていて、顔色も悪くて、ぐにゃぐにゃなのかと納得をした。
「珍しいですね」
気を使い、声を抑えてそう告げた。
窪田さんはお酒が弱いわけでないけれど、無茶して飲んだりはしない人だ。
特に翌日が出勤だとわかっていれば尚更、仕事に支障が出るほど深酒はしない。それくらい仕事に対して責任感を持っている。
だから彼がこんなにも酷い二日酔いになってるところを見るのは初めてだった。
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