【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

文字の大きさ
上 下
46 / 72

◇ストーカー被害⑥

しおりを挟む
 人の気持ちは変わるものだし、今からそう断言してしまうのは早いかもしれない。
 だけど私の望む恋愛とは違うと気づいたのだ。

 私が今より十歳年上だったなら、凪いだ海のような穏やかな関係の男性とお付き合いをし、結婚に癒しを求めるのもありだろう。
 棚野さんのように、大好きだと思えなくても良い人だと思える相手と落ち着いた結婚をしたとしても……幸せに暮らせるかもしれない。
 でも今の私はそれを望んでいない。
 結婚だって絶対したいわけではないし、誰でもいいから恋愛したいわけでもない。
 こんなに恋愛から遠ざかっているのだから、どうせなら胸が焼け焦げてしまうくらいの大恋愛がしたいのだ。
 その相手が、棚野さんでは無理だと思ってしまった。

「日下って人には……もう会っちゃダメだ。俺、ずっとひなたちゃんを見てきたからわかる。ひなたちゃんはその人に惹かれてるよ」

 棚野さんは自らなにかを強く主張する性格ではないから、発せられた今の言葉がとても辛らつに聞こえた。
 直接面識のない日下さんのことはなにも知らないはずなのに、どういう根拠でそう言うのかわからない。

「本当にごめんなさい」

 交際を断って嫌な気分にさせてしまったのは私だから、もう一度頭を下げて詫びた。

「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。日下さんにはもう会うことはありませんから」

 理由も用事もないのだから、もう会うこともないだろう。
 所詮、日下さんとも縁はなかったのだ。私の運命の相手ではなかった。

 よく考えてみたら、サンシャインホールディングスの副社長である御曹司と一般庶民の私が知り合えたこと自体、奇跡だと思う。
 ちょっとした神様のいたずらだったのかもしれない。

***

 棚野さんに返事をした二日後、久々に私は遅番勤務に復帰をした。

「う~……あったま痛てぇ」

 午前十一時に出勤すると、休憩室にいる窪田さんがポツリとつぶやくのが聞こえてきた。
 なんだか動作ものろのろとしていて元気がない。

 デスクにあるパソコンの前に座り、本社からのメールをチェックしているようだけれど。
 今にもキーボードの上に突っ伏してしまいそうなくらい身体がぐにゃぐにゃだ。いったいどうしたのだろう。

「窪田さん、今日から私、遅番復帰します。今まで迷惑をかけてすみませんでした!」

 ロッカーに手荷物を置いて着替えを済ませると、休憩室にいる窪田さんに気合いを入れて声をかけた。
 今まで迷惑をかけたことは間違いないから謝っておきたい。

「わかったから声のトーンを抑えてくれ。お前はいつも元気すぎる」
「……は?」

 そう言われてもわけがわからず、私は素っとん狂な返事をした。

「窪田さん、体調でも悪いんですか?」

 身体の強い窪田さんが病気になったところは見たことがない。
 だけどつらそうにしている今の彼は、覇気がなくて青白い顔をしているし、健康体には見えなかった。

「ただの二日酔いだ」

 肘をついてぼうっとパソコンのモニターを凝視したまま窪田さんが言う。
 なるほど。だからそんなに頭痛がしていて、顔色も悪くて、ぐにゃぐにゃなのかと納得をした。

「珍しいですね」

 気を使い、声を抑えてそう告げた。
 窪田さんはお酒が弱いわけでないけれど、無茶して飲んだりはしない人だ。
 特に翌日が出勤だとわかっていれば尚更、仕事に支障が出るほど深酒はしない。それくらい仕事に対して責任感を持っている。
 だから彼がこんなにも酷い二日酔いになってるところを見るのは初めてだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...