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◆結婚、その理由⑤
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もしも契約結婚にするならば……
契約違反をしたときにはどうするのか、細かいところまで決めなくてはいけなくなるだろう。
考えてみればそれも至極面倒であり、彼女が断ってくれてよかったのかもしれない。
さすがはお嬢様だ。感覚がかなり緩い。
「あなたは私に対してなにかか条件はないの?」
「……特には。というより、考えていませんでしたから」
こんな展開になるなんて予想だにしなかった。
見合いのように引き会わされたとはいえ、普通に条件などなく結婚へ進んでいくのかと思っていたのだ。
「ま、今まで通りお互い好きなように生きましょ。何時に帰ろうが、どこでをしようが自由ってことで。同居はするけど干渉はなしよ? 仮面夫婦なんだから」
「わかりました」
それならそのほうが楽だな。下手に干渉しあうほうが疲れる。
自室も寝室も当然のように別々にして、同じ家にいながらも互いの部屋には入らず、関わらないようにすればいい。
急にルームシェアすることになった、とでも思えばいいのだ。
「私、あなたの女関係も口出ししないから」
どういう意味だ。浮気公認ってことだろうか。
自分もほかに恋人がいるのだから、それを棚に上げて俺を非難できないと考えているのかもしれない。
「ただし、周りにバレないようにやって。うっかりパパの耳にでも入ったら、あなた確実に糾弾されるわ」
外で愛人を作る……そんなつもりはなかったが。
まさか結婚前からバレないようにやれと言われるとは思わなかった。
やはりなかなか肝の据わった人だな。お嬢様育ちのくせに。
「じゃ、そういうことで。私の条件に納得したなら結婚を進めましょ?」
「はい」
「この先、お互い婚姻関係を結んでることでなにか支障が出たら……そのときは話し合って考えればいいじゃない」
お嬢様はぬるいな。内心そう思いながらも、俺は首を縦に振った。
なにか支障が出たら考える?
それは要するに、離婚をしようという意味か?
もしもそんな事態に陥るとするならば……コージとかいう男がミュージシャンとして大成して、俺と別れてそいつと結婚したくなるというパターンしかないじゃないか。
それはなかなかのミラクルだと思うが。
世の中なにが起こるかわからない。可能性がゼロとは言えないからな。
「あ、最後にひとつだけ……」
彼女が重大なことを忘れていたとでも言うように、あわてて声を強めて言う。
「なんですか?」
「私がいろいろ条件を出したことも、コージのことも、パパには秘密よ?」
「わかっています」
言えるか、そんなこと。
妻になるお嬢様はほかに恋人がいるから、俺とは契約結婚でセックスなしの完璧な仮面夫婦です、だなどと。
君の父親だけじゃなく、ほかの誰にも言えやしない。トップシークレットだ。
「特にコージのことは、あなたとの結婚を機に別れるって言ってあるんだから」
そう念押しする彼女に、俺はあきれながらも首を縦に振る。
契約違反をしたときにはどうするのか、細かいところまで決めなくてはいけなくなるだろう。
考えてみればそれも至極面倒であり、彼女が断ってくれてよかったのかもしれない。
さすがはお嬢様だ。感覚がかなり緩い。
「あなたは私に対してなにかか条件はないの?」
「……特には。というより、考えていませんでしたから」
こんな展開になるなんて予想だにしなかった。
見合いのように引き会わされたとはいえ、普通に条件などなく結婚へ進んでいくのかと思っていたのだ。
「ま、今まで通りお互い好きなように生きましょ。何時に帰ろうが、どこでをしようが自由ってことで。同居はするけど干渉はなしよ? 仮面夫婦なんだから」
「わかりました」
それならそのほうが楽だな。下手に干渉しあうほうが疲れる。
自室も寝室も当然のように別々にして、同じ家にいながらも互いの部屋には入らず、関わらないようにすればいい。
急にルームシェアすることになった、とでも思えばいいのだ。
「私、あなたの女関係も口出ししないから」
どういう意味だ。浮気公認ってことだろうか。
自分もほかに恋人がいるのだから、それを棚に上げて俺を非難できないと考えているのかもしれない。
「ただし、周りにバレないようにやって。うっかりパパの耳にでも入ったら、あなた確実に糾弾されるわ」
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まさか結婚前からバレないようにやれと言われるとは思わなかった。
やはりなかなか肝の据わった人だな。お嬢様育ちのくせに。
「じゃ、そういうことで。私の条件に納得したなら結婚を進めましょ?」
「はい」
「この先、お互い婚姻関係を結んでることでなにか支障が出たら……そのときは話し合って考えればいいじゃない」
お嬢様はぬるいな。内心そう思いながらも、俺は首を縦に振った。
なにか支障が出たら考える?
それは要するに、離婚をしようという意味か?
もしもそんな事態に陥るとするならば……コージとかいう男がミュージシャンとして大成して、俺と別れてそいつと結婚したくなるというパターンしかないじゃないか。
それはなかなかのミラクルだと思うが。
世の中なにが起こるかわからない。可能性がゼロとは言えないからな。
「あ、最後にひとつだけ……」
彼女が重大なことを忘れていたとでも言うように、あわてて声を強めて言う。
「なんですか?」
「私がいろいろ条件を出したことも、コージのことも、パパには秘密よ?」
「わかっています」
言えるか、そんなこと。
妻になるお嬢様はほかに恋人がいるから、俺とは契約結婚でセックスなしの完璧な仮面夫婦です、だなどと。
君の父親だけじゃなく、ほかの誰にも言えやしない。トップシークレットだ。
「特にコージのことは、あなたとの結婚を機に別れるって言ってあるんだから」
そう念押しする彼女に、俺はあきれながらも首を縦に振る。
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