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◆結婚、その理由②
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俺が凛々子と初めて会ったのは、二年と少し前だ。
「へぇ、あなたなの。たしかにいい男ね。パパがうるさいから結婚してあげるわよ」
お互いを紹介され、凛々子が放った第一声がそれだった。
あまりにも上から目線な言葉だったので、今でもはっきりと覚えている。
いきなり『結婚してあげる』か。
腹が立ったりはしなかったが、かなりあきれた。だから忘れられない言葉だ。
そのあとホテルの庭園を散歩がてらふたりきりで歩くと、彼女はさらに自分をさらけ出した。
いわゆる、素の自分というやつを。
「あなた、私と結婚する気はあるの?」
なんの飾り気も愛想もない口調で、サラリと俺に問いかける。
視線も合わせずに、池の鯉を眺めながらだ。
「ええ。ありますよ」
「私に惚れていないのに?」
「……」
「今日が初対面だものね。しかもお互いに望まないのに引き会わされて。それで惚れました、なんて言われてもウソ丸出しだわ」
最初から取り繕った感じはまったくなかったが、素の凛々子はさらに性格が強烈だった。
なんでも思ったことをズバズバと口にする。
遠慮という言葉を知らないのだろうか、と思うような女性だった。
「悪気を感じる必要などないわ。初対面からお互い惚れ合うほうが珍しいもの。私だってあなたに一目惚れはしていない。お互い様よ」
そこまではっきりと正直に言われたら返す言葉もない。
たしかに今出会ったばっかりのこの女性に、俺は惹かれるどころかなにも感じてさえいないのだから。
「でもあなた、この結婚話を断ったりできないでしょ? 私もそうよ。パパがどうしてもあなたと結婚しろって」
こうなった成り行きは……
俺には俺の事情があったが、彼女も同様に結婚を断れない事情があるようだ。
開き直ったようなこの態度が、それを表しているように思う。
「あなたも気の毒ね。愛してもいない女と結婚させられるなんて。全部パパの差し金で」
彼女の父親にはずいぶん世話になっている。
その人が、娘と結婚してくれないかと真剣に俺に頼んできた。
恩人の申し出を無下に断れない。
俺がこの話を受けようと思った理由は、ただそれだけだ。
「気の毒に思ってもらわなくてもいいですよ。哀れむように言われるのは好きではありません。あなたのお父さんには大変お世話になっています。俺は愛のある結婚など夢物語だと思っていますから。それならあなたのお父さんの恩に報いたいと、そう思っただけです」
初対面の令嬢相手に砕けた物言いなどできず、丁寧な言葉使いを心がけた。
だが俺が話した内容そのものが彼女にとってみると突飛だったのか、ひどく驚いた顔を見せた。
しばし唖然としていたが、そのあと突如、彼女はケラケラと愉快そうに笑った。なにがそんなにおかしいのかと思うほどに。
「愛のある結婚は、夢物語?」
「……はい」
「それは、愛を信じていないの? それとも女を信じていないの? どっち?」
二択に絞られたその質問に、俺は視線を空へと彷徨わせながら考える。
「そんなふうに考えたことはなかったのですが。……自分の答えとしては、どちらも、なんでしょうね」
どちらも心の底では信じていない。
……愛も、女も。
どちらも信じてのめり込めば、裏切られるではないか。
痛い思いをしたくないなら最初から信じないこと。それが俺の、自己防衛本能だ。
「へぇ、あなたなの。たしかにいい男ね。パパがうるさいから結婚してあげるわよ」
お互いを紹介され、凛々子が放った第一声がそれだった。
あまりにも上から目線な言葉だったので、今でもはっきりと覚えている。
いきなり『結婚してあげる』か。
腹が立ったりはしなかったが、かなりあきれた。だから忘れられない言葉だ。
そのあとホテルの庭園を散歩がてらふたりきりで歩くと、彼女はさらに自分をさらけ出した。
いわゆる、素の自分というやつを。
「あなた、私と結婚する気はあるの?」
なんの飾り気も愛想もない口調で、サラリと俺に問いかける。
視線も合わせずに、池の鯉を眺めながらだ。
「ええ。ありますよ」
「私に惚れていないのに?」
「……」
「今日が初対面だものね。しかもお互いに望まないのに引き会わされて。それで惚れました、なんて言われてもウソ丸出しだわ」
最初から取り繕った感じはまったくなかったが、素の凛々子はさらに性格が強烈だった。
なんでも思ったことをズバズバと口にする。
遠慮という言葉を知らないのだろうか、と思うような女性だった。
「悪気を感じる必要などないわ。初対面からお互い惚れ合うほうが珍しいもの。私だってあなたに一目惚れはしていない。お互い様よ」
そこまではっきりと正直に言われたら返す言葉もない。
たしかに今出会ったばっかりのこの女性に、俺は惹かれるどころかなにも感じてさえいないのだから。
「でもあなた、この結婚話を断ったりできないでしょ? 私もそうよ。パパがどうしてもあなたと結婚しろって」
こうなった成り行きは……
俺には俺の事情があったが、彼女も同様に結婚を断れない事情があるようだ。
開き直ったようなこの態度が、それを表しているように思う。
「あなたも気の毒ね。愛してもいない女と結婚させられるなんて。全部パパの差し金で」
彼女の父親にはずいぶん世話になっている。
その人が、娘と結婚してくれないかと真剣に俺に頼んできた。
恩人の申し出を無下に断れない。
俺がこの話を受けようと思った理由は、ただそれだけだ。
「気の毒に思ってもらわなくてもいいですよ。哀れむように言われるのは好きではありません。あなたのお父さんには大変お世話になっています。俺は愛のある結婚など夢物語だと思っていますから。それならあなたのお父さんの恩に報いたいと、そう思っただけです」
初対面の令嬢相手に砕けた物言いなどできず、丁寧な言葉使いを心がけた。
だが俺が話した内容そのものが彼女にとってみると突飛だったのか、ひどく驚いた顔を見せた。
しばし唖然としていたが、そのあと突如、彼女はケラケラと愉快そうに笑った。なにがそんなにおかしいのかと思うほどに。
「愛のある結婚は、夢物語?」
「……はい」
「それは、愛を信じていないの? それとも女を信じていないの? どっち?」
二択に絞られたその質問に、俺は視線を空へと彷徨わせながら考える。
「そんなふうに考えたことはなかったのですが。……自分の答えとしては、どちらも、なんでしょうね」
どちらも心の底では信じていない。
……愛も、女も。
どちらも信じてのめり込めば、裏切られるではないか。
痛い思いをしたくないなら最初から信じないこと。それが俺の、自己防衛本能だ。
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