【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

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◇分岐点のアラサー⑦

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 私が断ろうと思った理由は、まさに樹里が言ったことがすべてだった。
 嫌いじゃないけど好きじゃない……
 そんな気持ちのまま、交際に発展させていいのだろうかという気持ちが強い。

「最初はお友達から付き合うパターンもあるけど、それもダメそう?」
「う~ん……」
「交際中のカップル全員が、最初からラブラブで付き合い始めるわけでもないと思うよ?言い寄られて仕方なく付き合ったら、その後好きになったとかね。そういうのもアリだし」

 付き合ってから好きになる……? 
 私にはきっと無理だ。付き合っても好きになれなかったらどうしようと、最初から不安でいっぱいになる。
 もし好きではないとあとから気づいたら、相手を傷つけるし。

 明るいと評価される私の性格からすると、この考えはとても暗くて内向きだけれど。
 自分勝手に相手を振り回す恋愛はしたくない。

「ひなた、まさか十年前のこと、まだ引っかかってるの?」
「いや~……あはは」
「もう十年も前だよ? いい加減忘れなさい」

 十年前、私たちは高校三年生だった。
 十代のピュアなころに起きたある日の出来事に、私はある意味まだ捕らわれたままなのかもしれない。
 樹里はそのことを知っている唯一の友人だ。

 その出来事が心の中でまったく引っかかっていないと言えばウソになる。
 まともな恋愛ができないのも、そこに原因があるのかもしれない。
 だけどあの日のことは忘れたくはない。
 というよりも、忘れられない。

「ひなた、そうこうしてるうちに婚期が遅れるよ?」
「それは樹里だって……」
「私は結婚するかどうかわかんないもん」

 ペーパーナプキンで口元を拭いながら、樹里がサラリと言い切った。
 それは結婚しないつもりということだろうか。

「樹里、結婚……しないの?」
「するかしないかわからない。今、相手もいないしね。決めてない。だけど結婚ってそんなにいいものかな?」

 あっけらかんとしながら樹里が持論を展開し始めた。

「周りがみんな結婚を決めて、職場で『おめでとう~』なんて言われてるのを間近で聞いたり、子供ができてマタニティとかベビー用品を選んでる姿を見ると、それがまるで究極の幸せみたいに思えるよね。自分もそうなれたらなって、ひなたは思うでしょ?」
「…そうだね」
「だけどきっと、幸せなことばかりでもないんだよ。その裏に苦労とか煩わしさもある」

 それはなんとなく想像はつくけれど、私たち結婚未経験者は裏の苦労がどれほどなのか正直計り知れない。
 結婚した人にしかわからないのだと思う。

「仕事だって、つらくて時には泣きたくなったり、逃げ出したくなることもあるけど。でも私は結局仕事が好きだから。同じ苦労をするなら、仕事でのほうが向いてる気がする。結婚だけが女の幸せじゃないわ」

 仕事を恋人にするどころか、樹里は本当に仕事と結婚してしまうかもしれない。
 でもそれだって、立派な人生の選択だ。
 私たちはアラサーで、自分がこの先どの道を進むのか選択を迫られる世代なのだ。

「私も仕事は好きだけど。でもやっぱり一度はウェディングドレスを着ておきたいかな」

 エヘヘと笑うと、「じゃあ相手を探さなきゃね」と樹里にあきれ笑いを返された。
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