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◇分岐点のアラサー⑥

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「ねぇ、樹里。最近なにか良い話はないの?」
「良い話って?」
「好きな人ができたとかさ」
「恋愛の話か。そんなのあったらすぐにLINEで報告してるよ」

 いちごのムースにフォークを入れながら、樹里があきれた顔をする。
 私たちは頻繁に連絡を取り合っている仲なのだから、彼女がそう言うのも当然だ。
 それに最近ずっと、樹里が仕事を恋人にしているのは私が一番よく知っている。

「私ね、今は仕事が面白いから」

 言うと思った。予測していた言葉を返されて、思わずクスリと笑みが漏れる。

「誰か会社にカッコい人はいないの?」
「いる。俺様なんだけど実はやさしい素敵な人が。でもカッコいい人はみんな彼女がいるの」

 素敵な男性はモテるから、すでにかわいい恋人がいる場合が多い。男女問わずそうなのだろう。
 それに比べて私は気がついたら余り物のように残っていそうだ。

「彼女がいる人はさすがにダメ。最初から無理」
「そうだよね」
「略奪なんてさ、めちゃくちゃエネルギーが必要だもの。そんなのしたくないしね!」
「たしかに」

 普通に恋愛するだけでもエネルギーがいる。
 なのに恋人から奪い取るなんて、修羅場になったら嫌な気持ちにもなるのだからメンタルがやられる。私も無理だ。

「ひなたは?」
「え?」
「棚野さんって人に交際を申し込まれたんでしょ? その後どうなったのよ」

 どうもこうも、棚野さんとはあのあと特に進展はない。
 お店にはいつものようにフラリと顔を出してくれるけれど。
 店長はもちろん、窪田さんや萌奈ちゃんもいるのに、仕事中に個人的な話はできない。

 考えると言ったものの、実はその返事はできないままなのだ。
 だけど私の中で答えは出つつある。

「断ろうかなと思ってるんだ」
「付き合わないの?」

 樹里の問いかけにコクリと頷いた。
 簡単に結論を出したわけではない。私なりにいろいろ考え、悩んで出した答えだ。

「棚野さんのこと、良い人だって言ってたのに」
「うん」
「嫌いじゃないんでしょ?」

 良い人だし嫌いではない。そこは絶対に自信を持って言えることなのだけれど。

「それだけで付き合っていいのかなと思っちゃうんだよね」

 私がポツリとこぼした言葉を聞き、樹里は納得したような顔をした。

「なんていうか……ドキドキしない、みたいな」
「要するに、嫌いじゃないけど好きじゃないってことね?」
「そのとおりです」

 肩をすくめながらチョコレートケーキをフォークで突っつくと、樹里がクスリと笑った。
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