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◇分岐点のアラサー③

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 会うのは今日で二度目だけれど、以前会った時から起伏が穏やかな人だという印象は受けた。
 だが、感情がないとはっきり自分で言ってのけるとは思ってもみなかった。
 少し……いや、かなり変わった人なのかもしれない。
 萌奈ちゃんがイメージしていたような、単なるお金持ちの王子様とは違うような気がしてくる。

 既婚者で変わり者……
 萌奈ちゃんに乗せられて、もしも日下さんに恋心を抱いていたとしたらあとで痛い目に合っていただろう。
 百歩譲って変わり者なのはまだ許せても、奥さんがいる人はダメだ。最初から対象外。

「あの……話を蒸し返すようなんですが……」
「ん?」
「私なんかと今夜食事をして大丈夫ですか? 奥様が気を悪くされませんか?」

 先ほど店内で話しているときに家庭のことを聞いて鬱陶しがられたばかりだというのに、気になった私は懲りずに突っ込んだ質問をした。

 というのも、この食事が原因で、あとで夫婦喧嘩になったらどうしようとさすがに心配になる。
 私と彼は不倫やそれ未満のやましい関係ではないけれど、それでも妻としては夫が誕生日にほかの女性と食事をして帰ってきたら気分が悪いのではないかと思うから。

「妻は今、日本にいないんだ」
「……え?」
「一週間前からアメリカに行ってる」
「そうなんですか。ご旅行、ですか?」
「……ああ」

 さすが副社長夫人だ。お友達と誘い合わせてアメリカ旅行に行ってしまったのだろうか。

「だから今日、君が一緒に食事してくれて良かった。断られたらホテルのルームサービスで済ませていた。誰にも祝われず、ひっそりと誕生日が終わっていたよ」

 ルームサービス? 今日はサンシャインのホテルに泊まるつもりなのかもしれない。

「でもそれは……わびしいですね」
「ま、わびしくても構わなかったけどな。もう誕生日を祝ってもらう年齢でもないし」

 子供じゃないのだと、料理を口に運びながら彼が強がりを言う。
 日下さんはわびしくてもいいと言ったけれど、それが本心ではないと感じたのは気のせいじゃない。
 今ふたりで食事をしているのがその証拠だ。
 ひとりきりで過ごすより、私でもいいから誰かと食事をして過ごしたいと……そう思ったから誘ったのでは?

「妻のことは気にしなくていい。別に俺と君は、身体の関係はないわけだから不倫じゃない」
「……そうですけど」

 不意に“身体の関係”という言葉を言われ、咄嗟に私たちがベッドにいるシーンが頭に浮かんできてドキドキしてしまった。
 私はなにを不埒なことを考えているんだ。
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