【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

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◇分岐点のアラサー②

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 どうしたら、この人は笑うのだろう。
 どうしたら、その鉄仮面を剥がせるのだろう。
 日下さんが思いきり笑った顔は、いったいどんな感じなのだろうか。

 そんなことをぼうっと考えていたら、赤ワインが運ばれてきた。
 赤くて綺麗な液体がピカピカのワイングラスに注がれていく。

「お誕生日おめでとうございます」
「ああ。ありがとう」

 グラスを合わせてふたりで乾杯をしたけれど、せっかくのお祝いの席だというのに彼はここでもやはりポーカーフェイスだ。

「日下さんって、いつもそうなんですか?」
「なにが?」
「顔の表情が変わらないので。楽しいときは笑顔、悲しいときは泣き顔、怒ってるときは眉を吊り上げて……というふうにはならないのかなと」

 最初に運ばれてきた前菜料理をフォークで口に運びながら、日下さんは小さく首を縦に振った。

 ところでこの料理はなんだろう?
 豆とジャガイモと……ほかにもいろいろと野菜が混ぜられていて、それがオシャレな器に乗っている。
 どんな味なのか想像がつかなかったが、実際に食してみるとそれは思いのほかおいしかった。

「よく言われる」
「え?」
「だから、さっきの。表情が豊かじゃないとか。なにを考えているのかわからないとか」
「そうなんですか……」
「俺には感情がないから。無表情も当然と言えば当然なんだが」

 私は彼の発言がまったく理解できなかった。

 ――― 感情が、ない?

 それはどういう意味なのか。感情がない人間なんて、この世にいるのだろうか。
 たしかに顔に出さない人はいる。
 それとは逆に、怒ったり泣いたり笑ったり、隠すことなく表に出す人もいる。
 個人差はあるけれど、人間はみんな感情を持っているはずだ。日下さんはあえて顔に出さないだけだと思っていた。

「言われた意味が……よくわかりません。感情がないって、どれもですか?」
「そうだ」
「日々の生活の中で自分以外の人間と接して、うれしかったり腹が立ったり、今日は気分がウキウキするとか、逆に憂鬱だとか、そういうのをすべて感じないんですか?」
「ああ。ない」

 考えるまでもないと言わんばかりに、日下さんは私の質問に迷うことなく即答する。
 私は呆気に取られてそれ以上言葉が出なくなった。
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