24 / 72
◇分岐点のアラサー①
しおりを挟む
***
仕事を終え、傘を差しながら店の隣にある駐車場へと赴くと、そこには一台しか車は停まっていなかった。
私に気づいた日下さんが、運転席のドアを開けてさっと外に出てくる。
「お待たせしてすみません」
「とりあえず乗って」
「はい」
日下さんは雨が降っているのもいとわず、運転席側からくるりと周って助手席のドアを開けてくれた。
そして私がおずおずとその高級車へ身体を滑り込ませたのを見届けたあと、今度は静かにドアを閉めた。
革張りですごく座り心地の良いシートだ。
外国の車ではないと思うけれど、この分野に疎い私は、これがなんという名の車なのかわからない。
だけどとても高そうだということだけはわかる。
冷静に考えたら、高級車に乗っているのもうなずける。日下さんはサンシャインホールディングスの副社長で、お金持ちご子息なのだから。
運転席に戻った彼は静かに車を発進させた。
「あの……どこに向かってるんですか?」
「知人が教えてくれたんだが、わりと洒落たレストランがある。俺はまだ一度しか行ったことはないけど料理の味もうまい。そこにしようかと思ってるんだ」
「そうですか」
無表情に淡々とそう告げられたら、私はとりあえず納得したように相槌を打つしかない。
そのあと私たちはひとことも喋らないままだった。日下さんは車をしばらく走らせて、とあるレストランの駐車場に停めた。
レストランに入ると、まずその天井の高さに圧倒された。
二階席もあるようだが、一階のテーブル席の真上は吹き抜けになっていて、とても開放的で優雅な空間が造られている。
内装は白を基調にしているため、清潔感があってとても綺麗だ。
席に案内されてスタッフからメニューの説明を受けたが、慣れていない私はなにを注文すればいいのかよくわからない。
「あの、これって……」
「地中海料理だ。嫌いだった?」
「いえ! あ、なるほど。地中海料理はよくわからないので、私はどれでもかまいません」
ギリシャやスペイン、ポルトガル……
メニュー表の料理名の右端にそれぞれの国旗が載せられている。
文字だけのメニュー表なので、どんな料理なのかまったく想像がつかない私は、日下さんにオーダーを丸投げをした。
わかるのはパエリアやアクアパッツァくらいなのだから仕方がない。
日下さんがディナーのコースと赤ワインをスマートにオーダーしてくれた。
「私、地中海料理のコースなんて食べたことないです」
「そう。体験できてよかった」
「はい。どんな料理が登場するのか楽しみです」
エヘヘと笑いかけてみたけれど、それでも彼の無表情は崩れる様子がない。
仕事を終え、傘を差しながら店の隣にある駐車場へと赴くと、そこには一台しか車は停まっていなかった。
私に気づいた日下さんが、運転席のドアを開けてさっと外に出てくる。
「お待たせしてすみません」
「とりあえず乗って」
「はい」
日下さんは雨が降っているのもいとわず、運転席側からくるりと周って助手席のドアを開けてくれた。
そして私がおずおずとその高級車へ身体を滑り込ませたのを見届けたあと、今度は静かにドアを閉めた。
革張りですごく座り心地の良いシートだ。
外国の車ではないと思うけれど、この分野に疎い私は、これがなんという名の車なのかわからない。
だけどとても高そうだということだけはわかる。
冷静に考えたら、高級車に乗っているのもうなずける。日下さんはサンシャインホールディングスの副社長で、お金持ちご子息なのだから。
運転席に戻った彼は静かに車を発進させた。
「あの……どこに向かってるんですか?」
「知人が教えてくれたんだが、わりと洒落たレストランがある。俺はまだ一度しか行ったことはないけど料理の味もうまい。そこにしようかと思ってるんだ」
「そうですか」
無表情に淡々とそう告げられたら、私はとりあえず納得したように相槌を打つしかない。
そのあと私たちはひとことも喋らないままだった。日下さんは車をしばらく走らせて、とあるレストランの駐車場に停めた。
レストランに入ると、まずその天井の高さに圧倒された。
二階席もあるようだが、一階のテーブル席の真上は吹き抜けになっていて、とても開放的で優雅な空間が造られている。
内装は白を基調にしているため、清潔感があってとても綺麗だ。
席に案内されてスタッフからメニューの説明を受けたが、慣れていない私はなにを注文すればいいのかよくわからない。
「あの、これって……」
「地中海料理だ。嫌いだった?」
「いえ! あ、なるほど。地中海料理はよくわからないので、私はどれでもかまいません」
ギリシャやスペイン、ポルトガル……
メニュー表の料理名の右端にそれぞれの国旗が載せられている。
文字だけのメニュー表なので、どんな料理なのかまったく想像がつかない私は、日下さんにオーダーを丸投げをした。
わかるのはパエリアやアクアパッツァくらいなのだから仕方がない。
日下さんがディナーのコースと赤ワインをスマートにオーダーしてくれた。
「私、地中海料理のコースなんて食べたことないです」
「そう。体験できてよかった」
「はい。どんな料理が登場するのか楽しみです」
エヘヘと笑いかけてみたけれど、それでも彼の無表情は崩れる様子がない。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
沢田くんはおしゃべり
ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!!
【あらすじ】
空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。
友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。
【佐藤さん、マジ天使】(心の声)
無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす!
めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨
エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!)
エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる