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◇彼の正体と土砂降りの雨④
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「洗濯の過程で返せない状態にしてしまったんだ」
「……は?」
「申し訳ない」
それっていったい、どんな状態だろうか。
洗濯で色落ちしたか、それとも破れたのか。
すごく気にはなるが、彼があまりに申し訳なさそうにするのでそれ以上事の詳細を聞けなくなった。
「いいんですよ。ただのハンカチですから」
「そういうわけにもいかないと思って、同じような物を探した」
「え?」
「まったく同じではないけど、これで許してもらいたい」
そう言って、彼が上品なビジネスバッグからなにか取り出して私に渡してくる。
私はとまどいながらも簡易包装されている薄い袋をそっと開けて見てみると、中には洒落た柄の女性用のハンカチが入っていた。
返せなくなった私のハンカチの代わりに、わざわざどこかでこれを購入してきたようだ。
「すみません、逆にお気遣いいただいてなんだか申し訳ないです」
「いや、俺が悪いんだ。すまない。洗って返すだなんて言っておきながら、こんなことになるとは……」
日下さんに渡したのは、本当になんの思い入れもないただの普通のハンカチだった。
だけど代わりにと渡されたハンカチをよく見ると有名なブランドの名前が書いてあり、こちらのほうが遥かに高級品だ。
「貰ってしまっていいんでしょうか」
「ああ。もちろん。そうしてもらわないと俺の気が済まない」
そこは絶対に折れない。彼から熱意のようなものが伝わってくる。
私は新しいハンカチをありがたく受け取ることにした。
「それと。この傘、すごく気に入ったよ」
彼が左手に持っているのは、以前来店したときに私が勧めて購入していった傘だ。
今日も土砂降りの雨だからこれを差して来たのだろう。気に入ってもらえたのならなによりだ。
「使い勝手もいい。柄も洒落てるし」
「それは良かったです」
「色違いもあったよね。追加で十本ほど購入するよ」
「え?!」
驚きすぎて思わず変な声が出た。
あわてて両手で自分の口を覆ったがもう遅い。
追加で買うって……十本も必要なのだろうか。
いくら色違いが欲しくなったとはいえ、数が多すぎると思うけれど。
「十本も……ですか?」
おそるおそるもう一度確認をすると、彼はそうだと首を縦に振った。
「会社で使おうと思って」
「ああ、会社用に」
なるほど。会社のスタッフに配ったりするのだろうか。
それとも……ホテルの来客用にするつもりなのか。
「もしかしてサンシャイングループのホテルで使われるのですか?」
街の雑貨店で買った傘をホテルで採用するわけがないと思いつつも、一応聞いてみようと口にした言葉だったのだが。
今日もずっと無表情だったの彼の目が、驚いた拍子にわずかに見開かれた。
「……は?」
「申し訳ない」
それっていったい、どんな状態だろうか。
洗濯で色落ちしたか、それとも破れたのか。
すごく気にはなるが、彼があまりに申し訳なさそうにするのでそれ以上事の詳細を聞けなくなった。
「いいんですよ。ただのハンカチですから」
「そういうわけにもいかないと思って、同じような物を探した」
「え?」
「まったく同じではないけど、これで許してもらいたい」
そう言って、彼が上品なビジネスバッグからなにか取り出して私に渡してくる。
私はとまどいながらも簡易包装されている薄い袋をそっと開けて見てみると、中には洒落た柄の女性用のハンカチが入っていた。
返せなくなった私のハンカチの代わりに、わざわざどこかでこれを購入してきたようだ。
「すみません、逆にお気遣いいただいてなんだか申し訳ないです」
「いや、俺が悪いんだ。すまない。洗って返すだなんて言っておきながら、こんなことになるとは……」
日下さんに渡したのは、本当になんの思い入れもないただの普通のハンカチだった。
だけど代わりにと渡されたハンカチをよく見ると有名なブランドの名前が書いてあり、こちらのほうが遥かに高級品だ。
「貰ってしまっていいんでしょうか」
「ああ。もちろん。そうしてもらわないと俺の気が済まない」
そこは絶対に折れない。彼から熱意のようなものが伝わってくる。
私は新しいハンカチをありがたく受け取ることにした。
「それと。この傘、すごく気に入ったよ」
彼が左手に持っているのは、以前来店したときに私が勧めて購入していった傘だ。
今日も土砂降りの雨だからこれを差して来たのだろう。気に入ってもらえたのならなによりだ。
「使い勝手もいい。柄も洒落てるし」
「それは良かったです」
「色違いもあったよね。追加で十本ほど購入するよ」
「え?!」
驚きすぎて思わず変な声が出た。
あわてて両手で自分の口を覆ったがもう遅い。
追加で買うって……十本も必要なのだろうか。
いくら色違いが欲しくなったとはいえ、数が多すぎると思うけれど。
「十本も……ですか?」
おそるおそるもう一度確認をすると、彼はそうだと首を縦に振った。
「会社で使おうと思って」
「ああ、会社用に」
なるほど。会社のスタッフに配ったりするのだろうか。
それとも……ホテルの来客用にするつもりなのか。
「もしかしてサンシャイングループのホテルで使われるのですか?」
街の雑貨店で買った傘をホテルで採用するわけがないと思いつつも、一応聞いてみようと口にした言葉だったのだが。
今日もずっと無表情だったの彼の目が、驚いた拍子にわずかに見開かれた。
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