【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

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◇彼の正体と土砂降りの雨③

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 再び目の前にある雑誌の写真を見つめる。
 なにかを期待しているわけではないと口にしていたけれど、本当はなにか起こらないかと心の片隅では期待していたのかもしれない。
 おろかでバカな夢を見たものだと、自分で自分が嫌になる。

「…………あ」
「え、どうしたんですか?」
「ううん。なんでもない」

 プロフィールを見ていて今日が特別な日だと気づいたのだけれど、日下さんとはもう二度と会わないのだからどうすることもできない。
 フッと息を短く溜め息を吐いて、残りのサンドイッチを口の中に押し込んだ。


「雨、どしゃぶりですよ~」

 萌奈ちゃんがレジカウンターの掃除をしながら、窓の外を見て言った。
 今日は朝からずっと雨だ。
 しとしと降っていた雨が夕方近くになるとさらに強くなってきて、今は土砂降りになっている。

「窪田さん、休日なのに雨なんて最悪ですね」
「たしかにね」

 部屋の掃除をするにしても、どこかへ出かけるにしても、雨が降るとテンションが下がる。この雨量なら洗濯は無理そうだ。
 せっかくの休日なのだから晴れてほしかったに違いない。
 げんなりする窪田さんを想像して笑いそうになったけれど、他人事ではない。
 私だってもうすぐ仕事が終わる時間だ。いくら傘を持っているとはいえ、この土砂降りの中、自宅まで帰らなくてはいけない。

「こんな天気じゃお客さんなんて来ませんよね~」

 これはどこも同じだと思うが、雨だと客足が鈍る。土砂降りなら尚更だ。
 萌奈ちゃんの言葉に耳を傾けつつ商品の陳列を整えていると、突然入り口の自動ドアが開いた。

「あぁ、良かった。会えた」
「いらっ……しゃいませ」

 毎日言い慣れた『いらっしゃいませ』という言葉を、思わず噛みそうになる。
 もう二度とここには来ないだろうと思っていた人物が突然現れたからだ。

「あ。王子様……」

 レジカウンターから萌奈ちゃんがポツリと小さな声でつぶやいた。
 そんな言葉を気にする様子もなく、日下さんは売り場にいる私をめがけてずんずんと近づいてくる。

「君から借りていたものを返さなきゃならないんだが……」

 以前に来店したときは表情を崩さなかった彼の整った顔が、少しだけ申し訳なさそうに沈んでいる。
 なかなか来られなかったことを、ずっと気にしていたのだろうか。そんなに罪悪感を感じる必要などないのに。

 もう会えないと思っていた日下さんが突然現れ、彼の姿を目にした途端、私の心臓はうるさいくらいにドキドキとし始めた。
 その眉目秀麗な顔をもう少し引っ込めてくださいと言いたくなるほど、なぜか距離が近い。

「あ、あぁ……ハンカチ、ですよね」
「すまない。それが……」

 言い辛そうにしながら彼がそのまま口を噤み、私の目をじっと見つめる。
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