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◇大恋愛がしたいのに⑥
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「逆に、家まで送るだけってなんなんだよ」
たしかにそれには私も少し違和感を覚えた。
同僚のみんなで飲みに行ったときも、帰りに家まで送っていくと言われたことは今まで一度もなかったのに。
しかも今日はほかに用事がない中で、わざわざ送るためにだけ来るだなんておかしい。
いったいどうしたというのだろう。私は首をかしげて棚野さんの顔をうかがった。
「ほら、家の近くに不審者がいるようなことをひなたちゃんから聞いたからさ。遅番だと時間も遅くなるし危ないよ」
棚野さんがそう口にした途端、窪田さんも萌奈ちゃんも一気に心配そうな面持ちに変わる。
「今の、本当か?」と確認をしてくる窪田さんに、私は苦笑いでコクリとうなずいた。
「実は……アパートの近くで不審な人がいたんですけど、どうも後をつけられている気がして気持ち悪くて…」
ニヘラと笑ってみせたけれど、どうやら私の話は笑い飛ばせるものではないみたいで、場の空気が一気に凍り付いてしまった。
「変態か? それともお前、ストーカーされてんのか?」
「どっちでしょうね。わからないです」
最寄駅から私の住むアパートまでは、徒歩で十分の距離がある。
先日、仕事を終えて駅からアパートまで歩いて帰って来ると、途中から背後に怪しい人影を感じた。
近所での不審者情報などは耳にしていなかったため、最初は気のせいだと思いたかった。
だけど気配を感じて私が振り返ると、その男も物陰に身を隠すという恐ろしい行動を取ったのだ。
全速力で走って帰ったので何事もなかったのだけれど、さすがにあのときは怖くて仕方なかった。
「いつから?」
「ちょっと前からです。実はつけられた感覚は二度ありました」
たった二度……そう思われるかもしれないが、同じことが二度起こると怖さが倍増する。無差別行為ではなく狙われている気がするから。
先日棚野さんに会ったとき、そのことをポロリと話してしまったのだ。
「ごめんね。あのとき俺が送っていればそんな目に合わずに済んだのに……」
申し訳なさそうに棚野さんが眉尻を下げる。
というのも、二度目は棚野さんと食事をした日だったからだ。
その日、私たちは別々に電車で帰った。
送ってくれなかったせいで不審者につけられたわけではないのに、棚野さんはまるで自分を責めるように気にしてくれている。
「警察には行ったのか?」
窪田さんが真剣な表情で尋ねた。冗談を口にしていた先ほどまでの顔は完全に消えてしまった。
「アパートの管理人さんには言いましたけど、警察にはまだです」
なんとなくだけれど、わざわざ警察に言いに行くには決定的な事柄が足りない気がして二の足を踏んでいる。
アパートの前で待ち伏せされているだとか、家に侵入されただとか、不審者が私自身を狙っている決定的な証拠が必要ではないのかな?
だけどそれを今ここで言ったら、窪田さんからたっぷりお説教されそうだ。
「次になにあったら、絶対警察に行きますから」
大丈夫だとたしなめると、窪田さんはまだまだ言い足りなさそうな顔をしながらも渋々言葉を飲み込んでくれた。
こういうところは本当に兄貴気質で、困っている後輩を放ってはおけない性分の人なのだ。
たしかにそれには私も少し違和感を覚えた。
同僚のみんなで飲みに行ったときも、帰りに家まで送っていくと言われたことは今まで一度もなかったのに。
しかも今日はほかに用事がない中で、わざわざ送るためにだけ来るだなんておかしい。
いったいどうしたというのだろう。私は首をかしげて棚野さんの顔をうかがった。
「ほら、家の近くに不審者がいるようなことをひなたちゃんから聞いたからさ。遅番だと時間も遅くなるし危ないよ」
棚野さんがそう口にした途端、窪田さんも萌奈ちゃんも一気に心配そうな面持ちに変わる。
「今の、本当か?」と確認をしてくる窪田さんに、私は苦笑いでコクリとうなずいた。
「実は……アパートの近くで不審な人がいたんですけど、どうも後をつけられている気がして気持ち悪くて…」
ニヘラと笑ってみせたけれど、どうやら私の話は笑い飛ばせるものではないみたいで、場の空気が一気に凍り付いてしまった。
「変態か? それともお前、ストーカーされてんのか?」
「どっちでしょうね。わからないです」
最寄駅から私の住むアパートまでは、徒歩で十分の距離がある。
先日、仕事を終えて駅からアパートまで歩いて帰って来ると、途中から背後に怪しい人影を感じた。
近所での不審者情報などは耳にしていなかったため、最初は気のせいだと思いたかった。
だけど気配を感じて私が振り返ると、その男も物陰に身を隠すという恐ろしい行動を取ったのだ。
全速力で走って帰ったので何事もなかったのだけれど、さすがにあのときは怖くて仕方なかった。
「いつから?」
「ちょっと前からです。実はつけられた感覚は二度ありました」
たった二度……そう思われるかもしれないが、同じことが二度起こると怖さが倍増する。無差別行為ではなく狙われている気がするから。
先日棚野さんに会ったとき、そのことをポロリと話してしまったのだ。
「ごめんね。あのとき俺が送っていればそんな目に合わずに済んだのに……」
申し訳なさそうに棚野さんが眉尻を下げる。
というのも、二度目は棚野さんと食事をした日だったからだ。
その日、私たちは別々に電車で帰った。
送ってくれなかったせいで不審者につけられたわけではないのに、棚野さんはまるで自分を責めるように気にしてくれている。
「警察には行ったのか?」
窪田さんが真剣な表情で尋ねた。冗談を口にしていた先ほどまでの顔は完全に消えてしまった。
「アパートの管理人さんには言いましたけど、警察にはまだです」
なんとなくだけれど、わざわざ警察に言いに行くには決定的な事柄が足りない気がして二の足を踏んでいる。
アパートの前で待ち伏せされているだとか、家に侵入されただとか、不審者が私自身を狙っている決定的な証拠が必要ではないのかな?
だけどそれを今ここで言ったら、窪田さんからたっぷりお説教されそうだ。
「次になにあったら、絶対警察に行きますから」
大丈夫だとたしなめると、窪田さんはまだまだ言い足りなさそうな顔をしながらも渋々言葉を飲み込んでくれた。
こういうところは本当に兄貴気質で、困っている後輩を放ってはおけない性分の人なのだ。
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