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◇大恋愛がしたいのに⑤
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「こんなのはな、俺の女になれってはっきり言えばいいんだよ。強引だろうがなんだろうが」
ストレートすぎる窪田さんの提案には、私のほうが若干引いてしまった。
その偉そうな言い方はかなり時代錯誤だ。
アハハと棚野さんも笑い飛ばしてはいるが、正直困っていると思う。
「じゃあ、先輩のアドバイスどおりに」
そう言って、今度は棚野さんがニコニコとしながら私の顔を見つめてくる。
窪田さんを真似して今にも古くさいセリフを口にしそうだ。
「ちょっと、窪田さん!」
「なんだよ。俺に抗議するな」
私は棚野さんの視線から逃げ、わざとらしく口を尖らせて窪田さんを睨む。
抗議するなと言われてもしたくなるに決まっている。すべては窪田さんが焚きつけるからだ。
「先輩、彼女はどう見ても迷惑そうですよ?」
クスクスとおかしそうに笑いながら、今度は棚野さんが窪田さんに抗議をしている。
どうやらふたりして私をからかっているらしい。
「梅宮、お前は断るな」
「なんで命令するんですか」
どんな権限があってそんな圧力をかけるのかと言いたくなってしまう。
職場の先輩だからといって、プライベートにまで口を挟まないでもらいたい。今のご時世ではセクハラとパワハラに値する。
「お前はずっと恋人がいないだろ? 寂しくないのかよ。そのままだとカラカラに枯れちまうぞ?」
当たっているし、心配してくれているのかもしれないけれど、大きなお世話だ。
「まさか白馬に乗った王子様がそのうち現れるとか、非現実的なことを夢見てるんじゃないだろうな」
「さすがに思ってませんよ」
厳密に言えば、そんなことは人生において二度は起こらないと思っている。
ずいぶん昔だが、私の前に一度現れたのだ。
あの人が私にとって、白馬の王子様だったのと思う。
その男性の名前も素性も知らないまま二度と会えてはいないし、もう十年も前のことだから、今ではどんな顔だったのかすら忘れそうな出来事になりつつあるのだけれど。
「白馬の王子様なら現れたじゃないですか~」
萌奈ちゃんがニヤリと笑って、いまだ開かれたままの雑誌を指でトントンと叩いて示した。
それは誰なのかと棚野さんが食い入るように話題の人物の写真を覗き込む。
「この人が先週突然やって来たんですよ~」と萌奈ちゃんが説明を始めた。
単にお客様として来店したというだけの出来事だから、棚野さんも「へぇ~」という反応しかできずにニコニコするしかないみたいだ。
日下さんは白馬の王子様にしては無表情で愛想のない人だった。
しかも雨男だ。王子様が雨の中で白馬に乗っている姿は……悪いが想像できない。
燦燦と日の光が降り注ぐ中、颯爽と現れるのが王子様らしいのに。
「ひなたちゃん、今日は早番? それとも遅番?」
いろいろと頭の中で妄想を繰り広げていると、棚野さんが私のシフトを尋ねてきた。
「遅番です」
「じゃあ、終わるころにまた来る。家まで送ってあげるよ」
遅番だと二十時過ぎには上がれる予定だが、現在の時刻は十五時を過ぎたばかりだ。
「送ってあげる、じゃないだろ。棚野、メシくらい誘えよ」
やはり窪田さんは、私と棚野さんをくっつけようと企んでいる。
当の本人である棚野さんが消極的に思えるのか、援護射撃をしようとしているのが丸わかりだ。
私にとっては大きなお世話でしかないのだけれど。
「そりゃあ誘いたいですけどね。あんまりグイグイ迫ると引かれるじゃないですか」
困り顔で柔和に笑う棚野さんは、本当に人が良い。
先輩である窪田さんの無理難題をサラリと受け流す技術まで持ち合わせている。
「なにを悠長なこと言ってるんだよ。誰だってメシは食うんだからな? だったらふたりで一緒に食えばいいじゃないか」
「まぁ……そうですね」
窪田さんは店にお客様がいないのをいいことに、矢継ぎ早に棚野さんに言葉をかけて説き伏せている。
まるでお説教でもされているかのように棚野さんは苦笑いだ。
ストレートすぎる窪田さんの提案には、私のほうが若干引いてしまった。
その偉そうな言い方はかなり時代錯誤だ。
アハハと棚野さんも笑い飛ばしてはいるが、正直困っていると思う。
「じゃあ、先輩のアドバイスどおりに」
そう言って、今度は棚野さんがニコニコとしながら私の顔を見つめてくる。
窪田さんを真似して今にも古くさいセリフを口にしそうだ。
「ちょっと、窪田さん!」
「なんだよ。俺に抗議するな」
私は棚野さんの視線から逃げ、わざとらしく口を尖らせて窪田さんを睨む。
抗議するなと言われてもしたくなるに決まっている。すべては窪田さんが焚きつけるからだ。
「先輩、彼女はどう見ても迷惑そうですよ?」
クスクスとおかしそうに笑いながら、今度は棚野さんが窪田さんに抗議をしている。
どうやらふたりして私をからかっているらしい。
「梅宮、お前は断るな」
「なんで命令するんですか」
どんな権限があってそんな圧力をかけるのかと言いたくなってしまう。
職場の先輩だからといって、プライベートにまで口を挟まないでもらいたい。今のご時世ではセクハラとパワハラに値する。
「お前はずっと恋人がいないだろ? 寂しくないのかよ。そのままだとカラカラに枯れちまうぞ?」
当たっているし、心配してくれているのかもしれないけれど、大きなお世話だ。
「まさか白馬に乗った王子様がそのうち現れるとか、非現実的なことを夢見てるんじゃないだろうな」
「さすがに思ってませんよ」
厳密に言えば、そんなことは人生において二度は起こらないと思っている。
ずいぶん昔だが、私の前に一度現れたのだ。
あの人が私にとって、白馬の王子様だったのと思う。
その男性の名前も素性も知らないまま二度と会えてはいないし、もう十年も前のことだから、今ではどんな顔だったのかすら忘れそうな出来事になりつつあるのだけれど。
「白馬の王子様なら現れたじゃないですか~」
萌奈ちゃんがニヤリと笑って、いまだ開かれたままの雑誌を指でトントンと叩いて示した。
それは誰なのかと棚野さんが食い入るように話題の人物の写真を覗き込む。
「この人が先週突然やって来たんですよ~」と萌奈ちゃんが説明を始めた。
単にお客様として来店したというだけの出来事だから、棚野さんも「へぇ~」という反応しかできずにニコニコするしかないみたいだ。
日下さんは白馬の王子様にしては無表情で愛想のない人だった。
しかも雨男だ。王子様が雨の中で白馬に乗っている姿は……悪いが想像できない。
燦燦と日の光が降り注ぐ中、颯爽と現れるのが王子様らしいのに。
「ひなたちゃん、今日は早番? それとも遅番?」
いろいろと頭の中で妄想を繰り広げていると、棚野さんが私のシフトを尋ねてきた。
「遅番です」
「じゃあ、終わるころにまた来る。家まで送ってあげるよ」
遅番だと二十時過ぎには上がれる予定だが、現在の時刻は十五時を過ぎたばかりだ。
「送ってあげる、じゃないだろ。棚野、メシくらい誘えよ」
やはり窪田さんは、私と棚野さんをくっつけようと企んでいる。
当の本人である棚野さんが消極的に思えるのか、援護射撃をしようとしているのが丸わかりだ。
私にとっては大きなお世話でしかないのだけれど。
「そりゃあ誘いたいですけどね。あんまりグイグイ迫ると引かれるじゃないですか」
困り顔で柔和に笑う棚野さんは、本当に人が良い。
先輩である窪田さんの無理難題をサラリと受け流す技術まで持ち合わせている。
「なにを悠長なこと言ってるんだよ。誰だってメシは食うんだからな? だったらふたりで一緒に食えばいいじゃないか」
「まぁ……そうですね」
窪田さんは店にお客様がいないのをいいことに、矢継ぎ早に棚野さんに言葉をかけて説き伏せている。
まるでお説教でもされているかのように棚野さんは苦笑いだ。
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