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◇大恋愛がしたいのに①
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***
「なかなか来ないですね~」
午後のレジ締めを私と一緒にしていた萌奈ちゃんが突然ポツリとつぶやいた。
「……ん? なんの話?」
お釣りの小銭は大丈夫だろうかとレジの中を確認しながら返事をする。
すると萌奈ちゃんはニヤリと意味ありげに笑って私の顔を覗き見た。
「もちろん、例の男性ですよ~。イケメンの!」
「あ、あぁ……」
「なんですか、その薄い反応は! もしひなたさんがお休みの日に来店したら、私が丁重にハンカチを受け取っておきますからね~。ついでに私とひなたさんの連絡先も伝えちゃおうかな」
どういうついでなのかと思わず突っ込みそうになった。萌奈ちゃんには交際中の彼氏がいるのに。
いつも陽気なキャラの彼女からパワーをもらっていて、それに救われてもいるのだけれど、色恋のこととなると彼女はよりいっそう元気になる。
そのやる気を仕事にも分配したらどうかと、窪田さんにいつも嫌味を言われているくらいだ。
ハンカチを貸した男性客が来た雨の日から、気づけば一週間が経過していた。
私よりも萌奈ちゃんのほうが、その男性が来るのを待っている気がするのだけれど、なかなか現れてはくれない。
私は萌奈ちゃんとは違って、毎日黙々と仕事をするだけだ。
もう一度会えるだろうかとか、縁が出来たらいいなとか、そんな過度な期待はしていない。
また来るとは言っていたものの、面倒だと思えばもう来ないかもしれないし、ひょっこり忘れたころに現れるかもしれない。
こちらからどうすることもできないわけだから、毎日気にかけながら過ごすのは非現実的だ。
「おい、双子! そんなに喋りながらよくレジが締められるな。で、ちゃんと合ったのかよ」
ぶっきらぼうに声をかけてくる窪田さんは、先ほどの萌奈ちゃんの発言にどうやら呆れているようだ。
商品が入ったダンボールの中身を片付けながら、私たちに対して小さく溜め息を吐く。
「合いました」
「そうか。それならいいんだけどな。あ、そうそう! お前らの噂の的の男だけど。誰だかわかったぞ?」
私と萌奈ちゃんはその言葉を聞き、瞬時にうつむていた顔を上げて窪田さんを凝視した。
「リアクションが一緒すぎて怖い」と言われてもめげないくらい興味津々だ。
私はあの日、家に帰ってからもずっと彼のことを思い出そうとしていたけれど、結局無理だった。
どこかで見た顔なのに……と、今も気持ち悪さが残ったままになっている。
なにかをド忘れをして、思い出せそうなのに出てこないあの感覚に似ている。
「誰だったんですか?!」と意気込んで萌奈ちゃんが尋ねると、窪田さんは「ちょっと待ってろ」と一旦奥の事務所のほうへ消えた。
そしてなにかの雑誌を手にした状態ですぐに戻ってきた。
「これだよ、ほら」
窪田さんはとあるページを開き、レジカウンターにいる私たちに差し出してくる。
「あ、本当だ。この人ですね」
萌奈ちゃんの言葉に私も瞬時にうなずく。
それはいつも窪田さんが休憩のときに読んでいるビジネス雑誌だった。
「なかなか来ないですね~」
午後のレジ締めを私と一緒にしていた萌奈ちゃんが突然ポツリとつぶやいた。
「……ん? なんの話?」
お釣りの小銭は大丈夫だろうかとレジの中を確認しながら返事をする。
すると萌奈ちゃんはニヤリと意味ありげに笑って私の顔を覗き見た。
「もちろん、例の男性ですよ~。イケメンの!」
「あ、あぁ……」
「なんですか、その薄い反応は! もしひなたさんがお休みの日に来店したら、私が丁重にハンカチを受け取っておきますからね~。ついでに私とひなたさんの連絡先も伝えちゃおうかな」
どういうついでなのかと思わず突っ込みそうになった。萌奈ちゃんには交際中の彼氏がいるのに。
いつも陽気なキャラの彼女からパワーをもらっていて、それに救われてもいるのだけれど、色恋のこととなると彼女はよりいっそう元気になる。
そのやる気を仕事にも分配したらどうかと、窪田さんにいつも嫌味を言われているくらいだ。
ハンカチを貸した男性客が来た雨の日から、気づけば一週間が経過していた。
私よりも萌奈ちゃんのほうが、その男性が来るのを待っている気がするのだけれど、なかなか現れてはくれない。
私は萌奈ちゃんとは違って、毎日黙々と仕事をするだけだ。
もう一度会えるだろうかとか、縁が出来たらいいなとか、そんな過度な期待はしていない。
また来るとは言っていたものの、面倒だと思えばもう来ないかもしれないし、ひょっこり忘れたころに現れるかもしれない。
こちらからどうすることもできないわけだから、毎日気にかけながら過ごすのは非現実的だ。
「おい、双子! そんなに喋りながらよくレジが締められるな。で、ちゃんと合ったのかよ」
ぶっきらぼうに声をかけてくる窪田さんは、先ほどの萌奈ちゃんの発言にどうやら呆れているようだ。
商品が入ったダンボールの中身を片付けながら、私たちに対して小さく溜め息を吐く。
「合いました」
「そうか。それならいいんだけどな。あ、そうそう! お前らの噂の的の男だけど。誰だかわかったぞ?」
私と萌奈ちゃんはその言葉を聞き、瞬時にうつむていた顔を上げて窪田さんを凝視した。
「リアクションが一緒すぎて怖い」と言われてもめげないくらい興味津々だ。
私はあの日、家に帰ってからもずっと彼のことを思い出そうとしていたけれど、結局無理だった。
どこかで見た顔なのに……と、今も気持ち悪さが残ったままになっている。
なにかをド忘れをして、思い出せそうなのに出てこないあの感覚に似ている。
「誰だったんですか?!」と意気込んで萌奈ちゃんが尋ねると、窪田さんは「ちょっと待ってろ」と一旦奥の事務所のほうへ消えた。
そしてなにかの雑誌を手にした状態ですぐに戻ってきた。
「これだよ、ほら」
窪田さんはとあるページを開き、レジカウンターにいる私たちに差し出してくる。
「あ、本当だ。この人ですね」
萌奈ちゃんの言葉に私も瞬時にうなずく。
それはいつも窪田さんが休憩のときに読んでいるビジネス雑誌だった。
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