【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

文字の大きさ
上 下
8 / 72

◇雨男と雨女⑧

しおりを挟む
「普通の傘のように見えますけど、よく見ると薄っすらと柄が入っているんです」
「……本当だ」
あさ葉紋はもんという和柄なんですよ。上品ですよね」

 ドットやチェックなどは男性にはかわいすぎるので、私はこれを勧めるようにしている。
 しかもこの柄はよく見ないとわからないくらい薄っすらとしていて上品だ。
 地味かもしれないがセンスはいいので、気に入ってもらえそうだという自信はある。

「へぇ、珍しいね」
「柄が粋ですよね。骨も二十四本ありますから風の強い日でも大丈夫ですよ?」
「じゃあ、それにするよ」
「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げ、お客様をレジへと誘導する。
 お会計が終わり、すぐに使えるようにして傘を差し出すと、男性は会釈をしながら受け取った。
 そのすべての振る舞いがとてもスマートで、久しぶりに男性をカッコいいと思ってしまった。

「じゃあ、また来週にでも」
「……え?」
「ハンカチ、返しにね」
「あ、あぁ……急ぎませんので、お気遣いなく」

 入り口付近でお見送りのおじぎをすると、男性は軽く手を上げて去って行った。

「ひなたさぁ~ん。めちゃくちゃカッコいい人でしたね!」
「うん、素敵だった」

 ほかにお客さんがいないのをいいことに、萌奈ちゃんが目をキラキラとさせて先ほどの男性を評価し始める。彼女は自称イケメン評論家だ。

「ひなたさんが同意するなんて、珍しいですね」
「え?」
「私がイケメンを見つけても、なかなかうなずいてくれないじゃないですか~」

 ……そうだったかな?
 萌奈ちゃんがこうしてイケメンだと騒ぐのはいつものことだ。
 だけど先ほどの男性については、非の打ち所がないので私も素直にうなずいた。
 表情が乏しい人だったけれど、イケメンで素敵な男性だったと思う。

「だけど私……以前あの人をどこかで見た気がするんだよね」

 なんとなく顔に見覚えがあるような……。でもどこで見たのかは思い出せない。

「ひなたさんの知り合い、とか?」
「ううん。違うと思う」

 “知り合い”というレベルなら、会ったことがあるかないかくらいは思い出せる。名前だってそうだ。
 だけど先ほどの男性は名前どころか、以前に会っているかどうかさえも記憶があやふやなのだ。
 でもなぜか初めて見る顔ではない気がした。それが不思議で仕方ない。あんなイケメンと出会っていたとしたら、忘れるだろうか?

「実はな、俺もどこかで見た気がするんだよ、さっきの客」

 私だけではなく、窪田さんまで首を捻ってそんなことを言い出した。

「えぇ~、窪田さんも? じゃあ、前にも来てくれたお客様なんじゃないですか? もしかしたらこの近所に住んでるのかもしれませんね!」

 ……なるほど。萌奈ちゃんの言うとおりなのかもしれない。
 近所に住んでいる人なら、以前に来店していてもおかしくはない。

 急な雨だったけれど、ここなら傘が買えるとわかっていたのかもしれない。
 またこの辺りに来ることがあると言っていたのも、それならうなずける。

 だけど本当にまた来店する気はあるのだろうか。
 ハンカチを返しにわざわざ、だなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...