【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

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◇雨男と雨女⑦

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「へぇ、こんなに元気な雨女もいるんだ」

 この空気をどうしたものかと考えていると、ポツリとそんな言葉が返ってきた。
 私は言われた意味がわからなくて、ポカンとした間抜けな顔をしてしまう。

「……俺もね、実はそうなんだ。“雨男“でね」

 それを聞いた瞬間、私は反射的に満面の笑みを浮かべた。
 同じ種類の人と出逢えるなんて、こんな奇遇なことはない。

「本当ですか?!」
「ああ」
「私なんて、けっこう筋金入りですよ!」
「俺も負けないと思うけど」

 やっと少し会話が繋がった。そう思うと嬉しくて笑顔を引っ込めることができなくなった。
 しかし、目の前の男性はまったく笑っていない。

「雨男や雨女って暗い人間ばかりなのかと思ってた。俺も明るいほうじゃないから。こんなに元気で明るい雨女がいるなんて驚いたんだ」

 驚いたのならもっとビックリした顔をしてもいいのにと思ったけれど、それはさすがに言えなかった。
 自分と同じように雨に好かれている人に会うのは初めてだったから、私は自然とテンションが上がってしまう。

「もしかして子供のころ、急に遠足で雨が降ったりしましたか?」
「それは当然のように降った」
「私もです。同じ人がいてなんだかうれしいです! 私、“ひなた”って名前なのに雨女なんですよ。皮肉すぎますよね」

 エヘヘと自虐的に笑うと、男性が視線を低くして私の胸元をじっと見つめた。

「梅宮……ひなた……」

 どうやら左胸に付けている名札を確認したようだ。
 なんの感情も乗せずに私のフルネームをつぶやくと、「たしかに皮肉だな」と納得していた。

「傘、どういうものがよろしいですか? いろいろ取り揃えてありますけど」

 自分が雨に好かれていることもあって、私は店に配属されると共に雨具売り場の担当を希望した。
 傘、レインコート、雨靴……
 こうなればもう、雨具のスペシャリストになってやろう、と。

 店長に相談しながらだけれど、今では私が良いと思った商品を少しずつ店に置かせてもらっている。
 それをこうしてお客様に披露できることが、仕事のやりがいになっている。

「さほど変わらないと思っていた。男物の傘なんてどれもやぼったいだろう、って」

 ごく一般的な意見を言う目の前の男性に、私はほほえみながらゆっくりとうなずいた。

「そう思われがちですが、色のバリエーションはもちろん、男性用でも洒落た柄のものもあります。あ、これなんて番傘ですし!」

 ちょうど目の前にあった番傘を広げてみる。
 昔の日本の和傘というのは、広げて見るだけで本当に綺麗だ。

「番傘ね。さすがにスーツには合わないな。重いし、普段使うなら実用的とは思えない」
「……ですよね」

 私もそれには同意見だけれど、種類はいろいろとあるのだと見せたかっただけだ。本気で勧めようとしたわけではない。

「じゃあ、これはどうですか?」

 私は番傘をしまって、今度は違う紺色の傘を広げた。
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