7 / 72
◇雨男と雨女⑦
しおりを挟む
「へぇ、こんなに元気な雨女もいるんだ」
この空気をどうしたものかと考えていると、ポツリとそんな言葉が返ってきた。
私は言われた意味がわからなくて、ポカンとした間抜けな顔をしてしまう。
「……俺もね、実はそうなんだ。“雨男“でね」
それを聞いた瞬間、私は反射的に満面の笑みを浮かべた。
同じ種類の人と出逢えるなんて、こんな奇遇なことはない。
「本当ですか?!」
「ああ」
「私なんて、けっこう筋金入りですよ!」
「俺も負けないと思うけど」
やっと少し会話が繋がった。そう思うと嬉しくて笑顔を引っ込めることができなくなった。
しかし、目の前の男性はまったく笑っていない。
「雨男や雨女って暗い人間ばかりなのかと思ってた。俺も明るいほうじゃないから。こんなに元気で明るい雨女がいるなんて驚いたんだ」
驚いたのならもっとビックリした顔をしてもいいのにと思ったけれど、それはさすがに言えなかった。
自分と同じように雨に好かれている人に会うのは初めてだったから、私は自然とテンションが上がってしまう。
「もしかして子供のころ、急に遠足で雨が降ったりしましたか?」
「それは当然のように降った」
「私もです。同じ人がいてなんだかうれしいです! 私、“ひなた”って名前なのに雨女なんですよ。皮肉すぎますよね」
エヘヘと自虐的に笑うと、男性が視線を低くして私の胸元をじっと見つめた。
「梅宮……ひなた……」
どうやら左胸に付けている名札を確認したようだ。
なんの感情も乗せずに私のフルネームをつぶやくと、「たしかに皮肉だな」と納得していた。
「傘、どういうものがよろしいですか? いろいろ取り揃えてありますけど」
自分が雨に好かれていることもあって、私は店に配属されると共に雨具売り場の担当を希望した。
傘、レインコート、雨靴……
こうなればもう、雨具のスペシャリストになってやろう、と。
店長に相談しながらだけれど、今では私が良いと思った商品を少しずつ店に置かせてもらっている。
それをこうしてお客様に披露できることが、仕事のやりがいになっている。
「さほど変わらないと思っていた。男物の傘なんてどれもやぼったいだろう、って」
ごく一般的な意見を言う目の前の男性に、私はほほえみながらゆっくりとうなずいた。
「そう思われがちですが、色のバリエーションはもちろん、男性用でも洒落た柄のものもあります。あ、これなんて番傘ですし!」
ちょうど目の前にあった番傘を広げてみる。
昔の日本の和傘というのは、広げて見るだけで本当に綺麗だ。
「番傘ね。さすがにスーツには合わないな。重いし、普段使うなら実用的とは思えない」
「……ですよね」
私もそれには同意見だけれど、種類はいろいろとあるのだと見せたかっただけだ。本気で勧めようとしたわけではない。
「じゃあ、これはどうですか?」
私は番傘をしまって、今度は違う紺色の傘を広げた。
この空気をどうしたものかと考えていると、ポツリとそんな言葉が返ってきた。
私は言われた意味がわからなくて、ポカンとした間抜けな顔をしてしまう。
「……俺もね、実はそうなんだ。“雨男“でね」
それを聞いた瞬間、私は反射的に満面の笑みを浮かべた。
同じ種類の人と出逢えるなんて、こんな奇遇なことはない。
「本当ですか?!」
「ああ」
「私なんて、けっこう筋金入りですよ!」
「俺も負けないと思うけど」
やっと少し会話が繋がった。そう思うと嬉しくて笑顔を引っ込めることができなくなった。
しかし、目の前の男性はまったく笑っていない。
「雨男や雨女って暗い人間ばかりなのかと思ってた。俺も明るいほうじゃないから。こんなに元気で明るい雨女がいるなんて驚いたんだ」
驚いたのならもっとビックリした顔をしてもいいのにと思ったけれど、それはさすがに言えなかった。
自分と同じように雨に好かれている人に会うのは初めてだったから、私は自然とテンションが上がってしまう。
「もしかして子供のころ、急に遠足で雨が降ったりしましたか?」
「それは当然のように降った」
「私もです。同じ人がいてなんだかうれしいです! 私、“ひなた”って名前なのに雨女なんですよ。皮肉すぎますよね」
エヘヘと自虐的に笑うと、男性が視線を低くして私の胸元をじっと見つめた。
「梅宮……ひなた……」
どうやら左胸に付けている名札を確認したようだ。
なんの感情も乗せずに私のフルネームをつぶやくと、「たしかに皮肉だな」と納得していた。
「傘、どういうものがよろしいですか? いろいろ取り揃えてありますけど」
自分が雨に好かれていることもあって、私は店に配属されると共に雨具売り場の担当を希望した。
傘、レインコート、雨靴……
こうなればもう、雨具のスペシャリストになってやろう、と。
店長に相談しながらだけれど、今では私が良いと思った商品を少しずつ店に置かせてもらっている。
それをこうしてお客様に披露できることが、仕事のやりがいになっている。
「さほど変わらないと思っていた。男物の傘なんてどれもやぼったいだろう、って」
ごく一般的な意見を言う目の前の男性に、私はほほえみながらゆっくりとうなずいた。
「そう思われがちですが、色のバリエーションはもちろん、男性用でも洒落た柄のものもあります。あ、これなんて番傘ですし!」
ちょうど目の前にあった番傘を広げてみる。
昔の日本の和傘というのは、広げて見るだけで本当に綺麗だ。
「番傘ね。さすがにスーツには合わないな。重いし、普段使うなら実用的とは思えない」
「……ですよね」
私もそれには同意見だけれど、種類はいろいろとあるのだと見せたかっただけだ。本気で勧めようとしたわけではない。
「じゃあ、これはどうですか?」
私は番傘をしまって、今度は違う紺色の傘を広げた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる