【完結】MIRACLE 雨の日の陽だまり~副社長との運命の再会~

夏目若葉

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◇雨男と雨女⑥

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「またこの辺りに来る予定があるんだ。だからそのときに、ここに寄ってちゃんと返すから」

 それではダメなのかと聞かれたら、ダメではない。
 別にそのハンカチがないと困るわけでもないのだから。

 仕事でこの地域に来る用事があるのなら、ついでに立ち寄るくらいは彼にとってなんでもないことなのだろうか。
 私としては、ハンカチは返してもえなくてもかまわないのだけれど。
 ……いや、この人も処分するのは気が引けるし、女性物のハンカチをずっと持っているのも変か。

「……すみません。逆に申し訳ないです」

 私が咄嗟にハンカチなんて差し出したから、余計な気を遣わせたのかもしれない。
 もしかしたら、彼は自分のハンカチを持っていたかもしれないのに。

「どうして謝るの?」
「……へ?」
「君、なにも悪いことはしてないよね」

 あきれるでも笑うでもなく、無表情でそう言われると私もどう反応していいかわからなくなる。
 先ほどからこの男性になにか違和感を感じていたのだが、今、その正体がわかった。

 ――― ポーカーフェイス

 この人はせっかく整った顔をしているのに、ほとんど表情が変わらないのだ。こうして会話をしている最中でも。

 普通は愛想笑いをしてみたり、あせったり困ったり……
 人間にはいろいろな感情があるからその都度表情が変わるものなのに。彼は眉ひとつ動かない。
 単に雑貨店の店員である初対面の私相手に、愛想笑いは必要ないと思ってるだけかもしれないけれど。

「傘、置いてるよね?」
「……ああ、はい」
「買いたいんだ。見せて?」

 表情に変化がないな、などと観察していたから、話しかけられたのに反応が遅れた。
 ぼうっとするなよと、あとで窪田さんに叱られそうだ。
 イケメンだったからですか~?と、萌奈ちゃんにも突っ込まれるに違いない。

「こちらです。ちなみに私、雨具の担当なんですよ!」

 意気揚々と声を発しておきながら、なにがだと自分でも思う。
 接客を挽回しようとすればするほど空回っていく自分がいた。

「どうして私が担当なのかと言いますと、雨女だからなんです!」
「……雨女?」
「はい。私がいるとしょっちゅう天気予報が外れて雨が降るんですよ」

 クスリとでも笑ってくれていないだろうか。
 喋りながらも男性をうかがい見ると、見事にその希望は打ち砕かれた。やはり無表情なままだ。

 接客の場でお客様との会話は、互いに笑顔でいないと……という気持ちは多分にある。そのほうが場の空気も柔らかくなるから。
 だけど今は私だけがヘラヘラと笑っていて、どうにもバランスが悪い。
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