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◇雨男と雨女⑤
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丹沢さんのことは好きでも嫌いでもない。
逆に付き合ってほしいと告白されていたら、困っていたのではないかと思う。
私に脈がないと感じてほかの女性との結婚を決めたのだとしたら、それは正解だ。丹沢さんはなにも悪くない。
「ま、梅宮には次がいるもんな」
「……誰のこと言ってるんですか?」
「うわ、お前……それ聞いたらアイツ泣くぞ?」
再びアイツという言葉が出たが、今言ったのは丹沢さんのことではない。
誰なのか想像はつくものの、とぼけてごまかしておこう。
そんな中、「いらっしゃいませ~」という萌奈ちゃんのかわいらしい声が耳に届いて店の入り口に視線を移した。
「いらっしゃいませ」
走りこむようにして入って来た背の高い男性客を目にした途端、私はあわててポケットからハンカチを取り出した。
「あの、よろしかったら使ってください」
近寄って男性に差し出してみたけれど、ずっとポケットに入れていたからヨレヨレになっていないだろうかと心配になる。
ハッと気づいて手の中のものを確認すると、さほどヨレてはいなくてホッとした。
その男性客は傘を持っていなかったのか、突然降ってきた雨で頭や肩が濡れていたのだ。
しかも服装は高そうなスーツ。きっと仕事の途中だったのだろうと思うと気の毒になった。
だけど急に駆け寄った私の行動を奇妙に感じたのか、なかなかハンカチを受け取ってもらえない。
おそるおそる、男性の顔を伺うようにそっと見上げる。
その瞬間、自分でも驚くくらいドキンと心臓が跳ねた。
くっきりとした二重瞼と高い鼻筋の持ち主で、顔の輪郭はシャープで美しいラインを描いている。
元々少し癖がありそうな黒髪が雨に濡れ、ウェーブがかかっていてカッコいい。
要するにイケメンなのだけれど、こういうのを別の言い方でなんと言っただろう?
……あ、“眉目秀麗”だ。
来店したときには雨に濡れていることばかり気になって顔をよく見ていなかったけれど、あらためて目にするとカッコよすぎて驚いてしまった。
高身長でスーツが似合っている。年齢は同年代だろうか、三十歳前後に見えた。
男性なのに色気もあって、とにかく素敵な人。
「使っていいの?」
表情になにも感情を乗せないまま、男性は静かにそう尋ねた。発せられた声も低くて素敵だ。
「どうぞ。スーツやお鞄が濡れていらっしゃるので」
男性が手にしている高級そうなビジネスバッグにもびっしりと雨粒が付いている。
「ありがとう」
ポツリとつぶやくように言ったあと、男性はハンカチを受け取って額や髪についた水滴を拭った。
だがそのあとなぜか私の顔を無言でじっと見つめてくる。
さすがにこんなイケメンに視線を注がれ続けたら、恥ずかしくなってしまう。
「あ、あの……ハンカチ……」
使い終わったなら返してという意味で、私はそっと手を差し出した。けれど彼は渡そうとしてくれない。
「また今度洗って返すよ」
「え?! いえいえ、大丈夫ですから」
少し貸しただけだ。たいして汚れてもいないのに洗って返すのは大げさすぎる。
そのためにわざわざまた足を運ばせるだなんて、お客様にはさせられない。
逆に付き合ってほしいと告白されていたら、困っていたのではないかと思う。
私に脈がないと感じてほかの女性との結婚を決めたのだとしたら、それは正解だ。丹沢さんはなにも悪くない。
「ま、梅宮には次がいるもんな」
「……誰のこと言ってるんですか?」
「うわ、お前……それ聞いたらアイツ泣くぞ?」
再びアイツという言葉が出たが、今言ったのは丹沢さんのことではない。
誰なのか想像はつくものの、とぼけてごまかしておこう。
そんな中、「いらっしゃいませ~」という萌奈ちゃんのかわいらしい声が耳に届いて店の入り口に視線を移した。
「いらっしゃいませ」
走りこむようにして入って来た背の高い男性客を目にした途端、私はあわててポケットからハンカチを取り出した。
「あの、よろしかったら使ってください」
近寄って男性に差し出してみたけれど、ずっとポケットに入れていたからヨレヨレになっていないだろうかと心配になる。
ハッと気づいて手の中のものを確認すると、さほどヨレてはいなくてホッとした。
その男性客は傘を持っていなかったのか、突然降ってきた雨で頭や肩が濡れていたのだ。
しかも服装は高そうなスーツ。きっと仕事の途中だったのだろうと思うと気の毒になった。
だけど急に駆け寄った私の行動を奇妙に感じたのか、なかなかハンカチを受け取ってもらえない。
おそるおそる、男性の顔を伺うようにそっと見上げる。
その瞬間、自分でも驚くくらいドキンと心臓が跳ねた。
くっきりとした二重瞼と高い鼻筋の持ち主で、顔の輪郭はシャープで美しいラインを描いている。
元々少し癖がありそうな黒髪が雨に濡れ、ウェーブがかかっていてカッコいい。
要するにイケメンなのだけれど、こういうのを別の言い方でなんと言っただろう?
……あ、“眉目秀麗”だ。
来店したときには雨に濡れていることばかり気になって顔をよく見ていなかったけれど、あらためて目にするとカッコよすぎて驚いてしまった。
高身長でスーツが似合っている。年齢は同年代だろうか、三十歳前後に見えた。
男性なのに色気もあって、とにかく素敵な人。
「使っていいの?」
表情になにも感情を乗せないまま、男性は静かにそう尋ねた。発せられた声も低くて素敵だ。
「どうぞ。スーツやお鞄が濡れていらっしゃるので」
男性が手にしている高級そうなビジネスバッグにもびっしりと雨粒が付いている。
「ありがとう」
ポツリとつぶやくように言ったあと、男性はハンカチを受け取って額や髪についた水滴を拭った。
だがそのあとなぜか私の顔を無言でじっと見つめてくる。
さすがにこんなイケメンに視線を注がれ続けたら、恥ずかしくなってしまう。
「あ、あの……ハンカチ……」
使い終わったなら返してという意味で、私はそっと手を差し出した。けれど彼は渡そうとしてくれない。
「また今度洗って返すよ」
「え?! いえいえ、大丈夫ですから」
少し貸しただけだ。たいして汚れてもいないのに洗って返すのは大げさすぎる。
そのためにわざわざまた足を運ばせるだなんて、お客様にはさせられない。
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