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◇雨男と雨女④
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「明日も……雨降るんですかねぇ?」
「ん? 明日なにかあるのか?」
そっと私がつぶやくと、窪田さんが降ったらまずいのかと不思議そうな表情で尋ねた。
「明日はほら、丹沢さんの結婚式じゃなかったでしたっけ?」
――― 丹沢さん。
その人物の名前を出したのが気に入らなかったのか、窪田さんからは軽い舌打ちが返ってきた。
「梅宮、お前はお人よしだな。あんなヤツの結婚式なんて雨が降りゃいいんだ! 土砂降りの、ザーザーの、雷ゴロッゴロの!」
「……そこまで言わなくても」
こんなに窪田さんが憤慨するなら名前を出さなければよかった。
苦笑いでたしなめると、フンっと鼻をならしたあと、窪田さんも言葉を飲み込んでくれた。
丹沢さんは本社所属の店舗アドバイザーで、以前にうちの地区を担当していた人だ。
売り場のディスプレイや売れ筋のアドバイスをしてくれていた丹沢さんは、熱心にうちの店舗に来てくれていた。
「アイツ、お前を口説きまくってたくせに、コロッと違う女と結婚するとか、ありえねぇ」
丹沢さんは窪田さんより年上で先輩なのに、あんなヤツとかアイツ呼ばわりしてひどい言いようだ。
「別に……口説いてたつもりはなかったんじゃ……」
「なに言ってんだよ! ずっとお前にくっついて離れなかっただろ」
ここまで窪田さんが憤慨している理由はひとつだ。
丹沢さんはたしかに私にはやさしく丁寧に指導してくれていた。きっと、萌奈ちゃんやほかのスタッフよりも。
彼が頻繁にこの店舗を訪れる中で、私は何度か個人的に食事に誘われた。
ふたりで行こうと言われたので、そこには明確な好意があったと思う。
だけど半年ほど前、担当地区が変わってうちの店舗から外れるのと、彼が結婚するという情報を私たちは突然知ることになったのだ。
「お前を狙ってたくせに、上司の娘と結婚だってよ!」
「丹沢さんって三十七歳でしたっけ。年齢的に結婚したかったんじゃないですかね」
「出世に目がくらんだだけだろ。お前は二股かけられてたんだぞ。悔しくないのかよ?!」
たしかに、からかわれていただけだったのかな、と少し悲しい気持ちはある。
私を女として見てくれて、興味を持ってくれたのかと思っていたから。
だけど私と窪田さんは付き合っていたわけではない。
「二股は言いすぎですよ。くどいようですけど付き合ってはいませんでしたから。悔しくはないです」
好きだとか付き合って欲しいとか、その類の言葉は一切言われていない。
肩を抱かれたり手を繋ぐという身体的接触もなかった。当然ながらキスもしていない。
だから窪田さんが憤慨してくれるのはありがたいけれど、弄ばれて捨てられたかのように言われるのは少し違う。
「窪田さん、元々ひなたさんは丹沢さんなんかに興味なかったんですよ~」
萌奈ちゃんが私の真似をして、むぅっと唇を突き出して言うから笑ってしまった。
でも彼女の言うとおりだ。正直、私は丹沢さんに対して恋愛感情はなかった。
なので上司の娘と結婚が決まったという情報が耳に入ってきても、驚くだけで別になにも思わなかった。
つらいとか裏切られたとか、そういう気持ちはまったく湧いてこなかったのだ。
「ん? 明日なにかあるのか?」
そっと私がつぶやくと、窪田さんが降ったらまずいのかと不思議そうな表情で尋ねた。
「明日はほら、丹沢さんの結婚式じゃなかったでしたっけ?」
――― 丹沢さん。
その人物の名前を出したのが気に入らなかったのか、窪田さんからは軽い舌打ちが返ってきた。
「梅宮、お前はお人よしだな。あんなヤツの結婚式なんて雨が降りゃいいんだ! 土砂降りの、ザーザーの、雷ゴロッゴロの!」
「……そこまで言わなくても」
こんなに窪田さんが憤慨するなら名前を出さなければよかった。
苦笑いでたしなめると、フンっと鼻をならしたあと、窪田さんも言葉を飲み込んでくれた。
丹沢さんは本社所属の店舗アドバイザーで、以前にうちの地区を担当していた人だ。
売り場のディスプレイや売れ筋のアドバイスをしてくれていた丹沢さんは、熱心にうちの店舗に来てくれていた。
「アイツ、お前を口説きまくってたくせに、コロッと違う女と結婚するとか、ありえねぇ」
丹沢さんは窪田さんより年上で先輩なのに、あんなヤツとかアイツ呼ばわりしてひどい言いようだ。
「別に……口説いてたつもりはなかったんじゃ……」
「なに言ってんだよ! ずっとお前にくっついて離れなかっただろ」
ここまで窪田さんが憤慨している理由はひとつだ。
丹沢さんはたしかに私にはやさしく丁寧に指導してくれていた。きっと、萌奈ちゃんやほかのスタッフよりも。
彼が頻繁にこの店舗を訪れる中で、私は何度か個人的に食事に誘われた。
ふたりで行こうと言われたので、そこには明確な好意があったと思う。
だけど半年ほど前、担当地区が変わってうちの店舗から外れるのと、彼が結婚するという情報を私たちは突然知ることになったのだ。
「お前を狙ってたくせに、上司の娘と結婚だってよ!」
「丹沢さんって三十七歳でしたっけ。年齢的に結婚したかったんじゃないですかね」
「出世に目がくらんだだけだろ。お前は二股かけられてたんだぞ。悔しくないのかよ?!」
たしかに、からかわれていただけだったのかな、と少し悲しい気持ちはある。
私を女として見てくれて、興味を持ってくれたのかと思っていたから。
だけど私と窪田さんは付き合っていたわけではない。
「二股は言いすぎですよ。くどいようですけど付き合ってはいませんでしたから。悔しくはないです」
好きだとか付き合って欲しいとか、その類の言葉は一切言われていない。
肩を抱かれたり手を繋ぐという身体的接触もなかった。当然ながらキスもしていない。
だから窪田さんが憤慨してくれるのはありがたいけれど、弄ばれて捨てられたかのように言われるのは少し違う。
「窪田さん、元々ひなたさんは丹沢さんなんかに興味なかったんですよ~」
萌奈ちゃんが私の真似をして、むぅっと唇を突き出して言うから笑ってしまった。
でも彼女の言うとおりだ。正直、私は丹沢さんに対して恋愛感情はなかった。
なので上司の娘と結婚が決まったという情報が耳に入ってきても、驚くだけで別になにも思わなかった。
つらいとか裏切られたとか、そういう気持ちはまったく湧いてこなかったのだ。
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