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◇雨男と雨女①
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ぽかぽか陽気の四月は私の大好きな季節だ。
桜が咲く頃にはまだ肌寒いものの、日が経つにつれてどんどん暖かくなっていく。
だけど春は花粉症の季節でもある。
ゴールデンウィークあたりまで私はその症状に悩まされ、毎日アレルギーの薬を服用している。
それでも、私は春が好きだ。
「萌奈ちゃん、アレはどこだっけ?」
「アレじゃ、わかんないですよ~」
職場の同僚で後輩の寺沢 萌奈ちゃんが、今日もかわいらしい声で私をほっこりとさせてくれる。
そんな彼女は癒しの存在であり、心許せる仕事仲間だ。
「ほら、窓をグイ~~っとやる、アレ!」
「ああ、スクイージーですかぁ?」
「そう!」
萌奈ちゃんの言うとおり、スクイージーという名前だったのを思い出した。
金属ブレードに平らなゴムが装着されていて、反対側には黄色いスポンジがついている窓用の掃除用具だ。
「スクイージーなら事務所の掃除用具入れの隅に置きましたよ。もしかして、今から窓掃除をする気ですか?」
小首をかしげる萌奈ちゃんに、私は笑みをたたえつつ首を縦に振った。
私の名は梅宮 ひなた。
年齢は二十七歳で、インテリア雑貨の専門店を営む会社に就職して今年で六年目になる。
仕事の内容は店舗勤務での販売員だ。
接客はもちろんのこと、商品がより良く見えるようにディスプレイを考えたりしている。だから店舗の掃除も立派な仕事なのだ。
わりと肉体労働が多いので大変そうに思われるけれど、私はこの仕事がしたくて今の会社に入った。
希望の店舗に配属され、とても充実した毎日を送っている。不満はなにもない。
「今日はすごくお日様の光が綺麗なのよ。だから窓ガラスもピカピカにしたくなっちゃったの」
三月に入ってから雨が多い。
内側の窓は天候が雨だとしても拭くことはできるけど、外側は晴れの日にしか掃除できないからタイミングが大事だ。
「それに今ならお客様もたいしていらっしゃらないし」
私が働いている店舗は少しだけ郊外にある。
なので平日の午前中からお客様が大勢押し寄せることはほとんどない。
「ひなたさんって、けっこう掃除が好きですよね」
「そうかな?」
「きっといい奥さんになれますよ」
「あはは。まず結婚相手……その前に、彼氏を探さなくちゃね」
今日も萌奈ちゃんとゆるい会話を楽しみながら雑巾や脚立を準備していく。
お世辞なのだろうけれど、萌奈ちゃんは気が早いにもほどがある。
恋人もいない私が、その先の結婚のことを考えられるわけがないのに。
思わず自虐的にフフフと笑みがこぼれた。
桜が咲く頃にはまだ肌寒いものの、日が経つにつれてどんどん暖かくなっていく。
だけど春は花粉症の季節でもある。
ゴールデンウィークあたりまで私はその症状に悩まされ、毎日アレルギーの薬を服用している。
それでも、私は春が好きだ。
「萌奈ちゃん、アレはどこだっけ?」
「アレじゃ、わかんないですよ~」
職場の同僚で後輩の寺沢 萌奈ちゃんが、今日もかわいらしい声で私をほっこりとさせてくれる。
そんな彼女は癒しの存在であり、心許せる仕事仲間だ。
「ほら、窓をグイ~~っとやる、アレ!」
「ああ、スクイージーですかぁ?」
「そう!」
萌奈ちゃんの言うとおり、スクイージーという名前だったのを思い出した。
金属ブレードに平らなゴムが装着されていて、反対側には黄色いスポンジがついている窓用の掃除用具だ。
「スクイージーなら事務所の掃除用具入れの隅に置きましたよ。もしかして、今から窓掃除をする気ですか?」
小首をかしげる萌奈ちゃんに、私は笑みをたたえつつ首を縦に振った。
私の名は梅宮 ひなた。
年齢は二十七歳で、インテリア雑貨の専門店を営む会社に就職して今年で六年目になる。
仕事の内容は店舗勤務での販売員だ。
接客はもちろんのこと、商品がより良く見えるようにディスプレイを考えたりしている。だから店舗の掃除も立派な仕事なのだ。
わりと肉体労働が多いので大変そうに思われるけれど、私はこの仕事がしたくて今の会社に入った。
希望の店舗に配属され、とても充実した毎日を送っている。不満はなにもない。
「今日はすごくお日様の光が綺麗なのよ。だから窓ガラスもピカピカにしたくなっちゃったの」
三月に入ってから雨が多い。
内側の窓は天候が雨だとしても拭くことはできるけど、外側は晴れの日にしか掃除できないからタイミングが大事だ。
「それに今ならお客様もたいしていらっしゃらないし」
私が働いている店舗は少しだけ郊外にある。
なので平日の午前中からお客様が大勢押し寄せることはほとんどない。
「ひなたさんって、けっこう掃除が好きですよね」
「そうかな?」
「きっといい奥さんになれますよ」
「あはは。まず結婚相手……その前に、彼氏を探さなくちゃね」
今日も萌奈ちゃんとゆるい会話を楽しみながら雑巾や脚立を準備していく。
お世辞なのだろうけれど、萌奈ちゃんは気が早いにもほどがある。
恋人もいない私が、その先の結婚のことを考えられるわけがないのに。
思わず自虐的にフフフと笑みがこぼれた。
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