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第2章 黒い宝石 13-

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昨夜、矢が飛んできた方向へしばらく進むと

一面焼け焦げた畑が広がっていた。


 
かぎ慣れない臭いをいぶかしむウバを傍目に

トーマスは何の臭いかすぐに気がついた。

人間の焼ける臭いだ。



「これは、何かの畑?」



ウバは小さな粒々の実がついた作物らしきものを

拾い上げると、遠くから拳銃を構えた白人が

近づいてくるのを発見した。



トーマスは何も知らない旅人を装い、


「やぁ、何があったんだい?」



天気でも聞くような軽い口調で

声をかけていた。



こう言った場合、沈黙が金ではない。


沈黙は緊張を呼び、緊張は事件の元だ。



「トウモロコシ畑が焼けてね、

所有者がいないから売りに出されるらしい。」



「どうだい、あんたいい身なりしてるが、

興味はないかい。」



ガンマンは、いかにもと言う感じの


ゴロツキだ。



「トウモロコシ?それはいったいなんですか。」


トーマスが聞いた。

ウバもはじめて聞く作物だ。


「あぁ、自由市民が食べるパンは畑で作るだろ、

だが畑で働く奴隷も食べるものが必要だ。

それがトウモロコシだよ。」



「向こうでオークションが開かれる。

もっとも、焼けてしまったので

売り物は奴隷が大半だがね。」



売り物は畑が焼ける前は、

この畑の所有者だったのだろう。

ひどいものだ。

金塊を黒人奴隷に食べさせて輸出する

ろくでなしと同類だ。



ウバもトーマスも、ボストンへ向かう旅人

買い物をする気などないが、

後学のため、オークションとやらのチケットを

購入した。



チケットは、1シリング 5000円ほどだ。

この畑から逃げてきたであろうマリーヤマトは

一人の少年を見ると騒ぎ出した。

息子らしい。

すると騒ぎに気がついた、

ごろつきのボスらしき輩がやってきてこう言った。



「こいつはこの畑から逃げ出した商品じゃないですか?

購入していただけるならけっこうですが、

それなりに金がかかりますぜ。」



明らかに足元を見ているが、

トーマスもこう言った輩には慣れているらしく、

こう切り返した。



「うちの馬車の前にこの女が飛び出してきてね、

馬車の一部が壊れてしまった、

この女の所有者があなただというなら、

その修理代金を支払っていただけるのでしょうね?」



それなりに高額な馬車を見たボスらしき男は



「いや、この女はうちの所有物じゃない。

支払う義理はないな。」


そう言うと、あきらめてオークション会場に戻っていった。



「荷物運び程度には使えるでしょう。

それに私は歳です。あなたに使える従者を

購入するのも将来のためには良いのでは?」


トーマスは同情や哀れみではなく、

ウバの未来を見据えて、母子を従者とすることを

進言した。


ウバは黙ってうなづくと、

マリーの息子を2ポンド、20万円くらいで購入した。


母子はトーマスに泣きながら感謝していた。


その子はマリーとナバホ族の男の間に生まれた

ハーフらしい。

マリーは白人の農場で飼われていたが、

インド人、いやナバホ族の襲撃で開放された後、

その男、夫の畑で手伝いをしていたらしい。



トーマスもこれからボストンに向けて旅をするために

原住民ナバホ族の言葉が話せ、

なおかつ恩を感じる原住民は役に立つと考えている

ようだ。


特に安全面において非常に役が立つ。

まだまだ、旅は続きそうだ。

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