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第1章 監獄の住人17-30
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しおりを挟むシオンは少し迷ったが隠す事でもない。
「そうですね。かつて薔薇戦争のランカスター側の武門の出自であった
後のヘンリー7世はヨーク側に裏切りました。彼はローマ教皇の仕立てた
王女エリザベスを妻に迎え、平民出身でありながら王となり
テューダーという王朝を作りました。」
「しかし、神聖ローマ皇帝及び教皇はこれを認めず、
王権の返還すら求めました。しかし反対勢力もおり
妨害され、国が纏まらない為、対策を講じる事ができませんでした。」
「そこで、あなたのような優秀な若者、一介の貿易商であった
初代ジョン・ラッセルに白羽の矢が立ったのです。かれは のろま
と言う名の船に乗り、世界最強のスペイン無敵艦隊の打倒を掲げ
反旗の狼煙を上げたのです。」
「当時オスマン帝国のペルギーネだった我が租ヨセフとグラツィアは
協力し、ユダヤ海賊スィナンや宮廷医ハモン、初代オスマン帝国海軍提督
バルバリア王ハイレディン、彼の部下モハメットシャルークらを集め
プレウェザの海戦にて、アンドレアドーリア率いるイタリアスペイン艦隊に勝利し、
地中海の制海権を握りました。」
「ロードス島を落とし、セウタ海峡を勝ち取り、ウィーン包囲にいたりました。
背後ではグラツィアがネーデルランド独立に莫大な支援をして、独立させます。
フッガー家は多額の借財を負わせ、免罪符の乱発で兵站を破綻させ、
民衆の心は離れました。その結果、初代ラッセルは救国の英雄となり、
一代で伯爵になり、その子、フランシスはアマンダ海戦でスペイン無敵艦隊を
壊走させました。その結果、大英帝国が成立、世界の植民地を手に入たのです。」
「まあ、ラッセル公は我が家に大恩があると言う事です。」
そういうと、公女殿下はティーカップを置かれ
お菓子を食べ終えた。
ハイヤーハムシェルはあまりの規模の大きさに驚いていた。
それと同時にこの方はやはり、我々の正統王家なのだとも感じた。
感心仕切りのハイヤーハムシェルがまだ隠し事をしている。
油断したハイヤーハムシェルを見ながら、
そう感じたシオンは問いかけた。
「何か心配事でもおありですか。」
ハイヤーハムシェルは少し考えたが、我々では数年もの間、解決できなかった。
そもそも、ギデオン家やハッペンハイム家の主人である。
隠していても仕方が無いし、ユダヤ人への襲撃事件を話さなければ
発覚したとき、殿下は本当に私を殺すだろう。
ハイヤーハムシェルは今まであった事件の経過を知る限り
シオン公女殿下に伝えた。
「なるほど、しかし、オスマンはおろかヨーロッパでも
聞かない話ですね。その事件が起こったのは大英帝国だけなのですか。」
もう大抵のところは調べた。
「いまのところ打つ手はなし、お手上げです。」
シオンはハイヤーハムシェルに慇懃に振舞ってもらう必要を感じなかった。
かつて、オスマンの大貴族だったヨセフやグラツィアは
ジョンラッセルを単なる一介の騎士、平民として接したのだろうか。
おそらく違う。対等に扱ったはずだ、だから、ラッセルは大英帝国で
必死の努力をして、ユダヤ人が安心して暮らせる世界を目指したのだろう。
シオンは心を決めた。
「シオンと呼んでください。ハイヤーさん。」
ハイヤーは固まった。
「え。」
「あのう、どういうことですか。」
シオンは自然体にもどりたかった、友人でありたかった。
同胞のことを心から心配し憂慮する、年下の接待人に。
「かつてのジョンラッセルは平民でしたが、
我が祖グラツィアに平伏して従ったのでしょうか。
友人だったから、この国ができた、そう思います。」
「あ、そうそう。大航海時代で思い出したのですが、経度を測るのに
正確な時計が必要で、王家の身代金と同額がかけられていたとか。」
「今周囲の労働者も、時計を持っていますね。工場で働くので
他の国に比べて、時間に正確だとか。」
シオンがそう発言したとき、ちょうど労働者が歩いており
スリに懐中時計をすられたところだった。
運悪くそのスリの子供は、時計を落としてしまい
しかもさらに運の悪いことに捕まってしまった。
この時代5シリング7ペンス以上の窃盗は死刑であり
子供であっても容赦はない。
だがハイヤーハムシェルは、落ちた時計から零れた
あるものに目が行くと固まってしまった。
ルビーだ。
ハイヤーは気が付いた。
何気ない言葉だが、異邦人の視点も馬鹿にはできない。
そもそもオスマンには懐中時計など無いのだろう。
懐中時計には宝石が軸受けとして使われている。
しかも質屋で高額で換金できる。
カルテルも鑑定していないはずだ。
「シオン、そのラッセル公の片腕、ギデオン卿に会わねばなりません。
今すぐに、ご同行願いますか。」
「それと、そのハーブのマスクを外す事をお勧めします。」
マイヤーは笑いながら言った。
「それは遠慮しておきますわ」
シオンは答えた。
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