産業創世記 ギデオン(休載中)

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第1章 監獄の住人1-16

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窓の外を見ていると、急速に景色が移り変わる。

御者も理解しているのか、すさまじい速度だ。

「誰かをひき殺してなどしていないだろうか。」


本気で心配だ。


もっとも農民や商人をひき殺したところで、彼を処罰など

出来はしないだろうが。

轢き殺した相手が、たとえ「騎士」であっても

「乗っていたのは別人だ。」

と言う主張が100%まかり通るだろう。

そういった意味では安全である。



やがて、馬車は速度を落としていた。

「ふぅ、やっと都市部に入ったか。」

彼は半日の遅れを

なんと言い訳すれば言いか考えあぐねていた。



やがてマンチェスターの街並みが見えてきた。

古代ローマのように、下水道が整備されていないため

街の住民たちはトイレの中身を路に向かって毎日投げつける。

そのため道路は汚物であふれており普段から鼻のひん曲がりそうな

悪臭が漂っている。

こんな路を歩くなど真っ平ごめんだ。



この街は大英帝国の中央よりやや南西に所在があり、

植民地から、大量に運ばれてくる、

綿花から大規模な工場で布製品にすることで、栄えている。

作り出された布生地から様々な服、帽子、ズボンやチョッキ

などが職人の手により作られていた。そのため、かなり供給過剰であり

綿製品の販売価格は非常に低く抑えられていた。

ゆえに商人たちは、ここで綿製品を買い入れ、

ヨーロッパ大陸全土に

せっせと海を渡って、商品を運び利益を出していた。

と言えば聞こえはいいが、

「ヨーロッパ大陸全土の布製品が暴落し、諸列強が大損害を受けている。」

と言うのが正しいのだろうか。

布製品と関係の無い職業の人々は安くなって大喜びだろう。

まあ、それも彼らにとっては 

「明日はわが身」

であるのだが。


商品が下がれば通貨は上がる。

買うためにはポンドが必要だが、

売って手に入るのはポンド以外だ。

当然ポンドの価値が上がる。というのが、

ハッペンハイム銀行の方針だ。



もっとも、真の目的は他にあるのだが、

守秘義務があるので

若輩の私が話すことは、

今は出来ない。残念だが。




大英帝国、特に我々にとって最も怖いのが、

実力行使、軍事力だ。
いくら金を貸そうが、彼らの通貨が下がろうが、

戦争に負ければ終りだ。


だが、7つの海を支配する世界一の大帝国は、

四方を海に囲まれている。

陸上戦力による侵略は不可能であり、

世界最強の海軍である

ロイヤルネイビーを撃破できる存在など、どこにもいない。

幸い、ユダヤコミュニティーのヒューミント

(人的諜報)は史上最強、死角はない。



ハッペンハイム家の使用人である彼は、

懐から懐中時計を取り出し、

時間を見るのだった。

すでに10時間以上遅れている計算になる。


ふと、馬車の窓から外を見ると、

働いている工場から我が家に帰る途中の

薄汚い格好をした、

労働者階級の人間が急ぎ足で歩く姿が見られた。

紳士の一人が傘をさしながら、

懐中時計を見るとまた歩き出した。

「ふう、こんなものが無ければ、ちょっとは言い訳できるんだけどね。」

ハッペンハイムの使用人はそう独り言を言うと、懐中時計をじっと見つめた。



元々、大航海時代に正確な経度を測るために開発競争をしていたのが、

時計の由来で、

「国王の身代金」

と同額の賞金がかけられていた。

もっともいまは、大量生産され、

工場での労働管理に使われているが。
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