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第1章 監獄の住人1-16
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そもそもここに来るのは、同胞の富裕層か、
こういう馬鹿な勘違いか訳ありの貧乏人だ。
どうせお金など持っていないだろう。
どう追い返そうか思案をめぐらせながら、ランプに灯を点すと、
アデルは、部屋のドアを開け廊下に出た、そして階段を降りて行った。
ドア越しに話しかけることにした。まずは代金の確認だ。
そう考え、「お代はお支払いいただけるのでしょうか?」
アデルはお金は持っていなさそうだなと思いながら返事を待った。
「救貧院か教会にいかれてはどうですか?」
そう言うと、
青年はやつれてボロボロの少女を抱えて必死に声を絞り上げた。
「お、お金はありません。」
(ああ、そう)しかし叫ばれるのは迷惑だ。
この類は、学習能力も無く叫ぶだろう。
しかも、少女が死んだら恨みそうだ。困った。
ドアの中ほどにある覗き穴をじっと覗きながら
アデルは兄妹の様子を注視していた。
すると青年は、アデルが想定していない言葉を吐いた。
「あ、あのう、宝石ではダメでしょうか?おそらく
ダイヤモンド、それにルビー、サファイヤ。」
青年は怯えながらそう言った。
「えっ!」
さすがのアデルも驚いて思わず、声を出してしまった。
動揺を悟られないように口に手を当て、深呼吸をする。
金持ちやユダヤ人ならともかく、こんな浮浪者が
闇医者に宝石を持ってくる。ただ事ではない。
反応の無いアデルに向かって、青年は何かを悟ったらしく
こう付け加えた。
「知人に宝石商がいまして、財産を持ち運びできるように
宝石に交換して、ウェールズからマンチェスターに出てきたんです。」
ライアンもこんな嘘が通用するとはまったく思っていなかった。
だが妹を助けたい。
「お願いします。」
意識が遠のき
体が崩れ落ちる瞬間、ドアの鍵が開く音を、聞いた気がした。
アデルはいぶがった。なんて馬鹿な男だい。
盗品だと言っているようなモンだよ。
なんで、こんなに宝石を持っているんだい。
不自然だねえ。放って置くわけには行かないねえ。
アデルは一大決心をした。すごい演技をするぞと気合を入れた。
できるだけ、慈愛に満ちて心配する、優しいお姉さんに見えるように。
「そうだねえ、まあいいわ。どんとまかせな。」
「いま先生を呼んであげる。」
ドアを開けると、喜んだその兄妹をそそくさと招きいれた。
絶対に逃がさないように。
こういう馬鹿な勘違いか訳ありの貧乏人だ。
どうせお金など持っていないだろう。
どう追い返そうか思案をめぐらせながら、ランプに灯を点すと、
アデルは、部屋のドアを開け廊下に出た、そして階段を降りて行った。
ドア越しに話しかけることにした。まずは代金の確認だ。
そう考え、「お代はお支払いいただけるのでしょうか?」
アデルはお金は持っていなさそうだなと思いながら返事を待った。
「救貧院か教会にいかれてはどうですか?」
そう言うと、
青年はやつれてボロボロの少女を抱えて必死に声を絞り上げた。
「お、お金はありません。」
(ああ、そう)しかし叫ばれるのは迷惑だ。
この類は、学習能力も無く叫ぶだろう。
しかも、少女が死んだら恨みそうだ。困った。
ドアの中ほどにある覗き穴をじっと覗きながら
アデルは兄妹の様子を注視していた。
すると青年は、アデルが想定していない言葉を吐いた。
「あ、あのう、宝石ではダメでしょうか?おそらく
ダイヤモンド、それにルビー、サファイヤ。」
青年は怯えながらそう言った。
「えっ!」
さすがのアデルも驚いて思わず、声を出してしまった。
動揺を悟られないように口に手を当て、深呼吸をする。
金持ちやユダヤ人ならともかく、こんな浮浪者が
闇医者に宝石を持ってくる。ただ事ではない。
反応の無いアデルに向かって、青年は何かを悟ったらしく
こう付け加えた。
「知人に宝石商がいまして、財産を持ち運びできるように
宝石に交換して、ウェールズからマンチェスターに出てきたんです。」
ライアンもこんな嘘が通用するとはまったく思っていなかった。
だが妹を助けたい。
「お願いします。」
意識が遠のき
体が崩れ落ちる瞬間、ドアの鍵が開く音を、聞いた気がした。
アデルはいぶがった。なんて馬鹿な男だい。
盗品だと言っているようなモンだよ。
なんで、こんなに宝石を持っているんだい。
不自然だねえ。放って置くわけには行かないねえ。
アデルは一大決心をした。すごい演技をするぞと気合を入れた。
できるだけ、慈愛に満ちて心配する、優しいお姉さんに見えるように。
「そうだねえ、まあいいわ。どんとまかせな。」
「いま先生を呼んであげる。」
ドアを開けると、喜んだその兄妹をそそくさと招きいれた。
絶対に逃がさないように。
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