赤髪の魔女の話

ゆーとき

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ノーマの秘密

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ウィルは朝起きたら大量の食糧があることに驚いた。

こんなにいっぱい。
魔法で出したのかな。違うな、魔法で出せるならイモリの干物のかゆの晩餐が出る事はないかも。
ノーマはまだ寝てる。昨日夜中に出て行ってこれだけ集めたんだ、凄いな!ノーマはやっぱり魔女だったんだ。
魔女ってほんとにいたんだ…僕のお母さんは魔女じゃなかったけど、ノーマは本物の魔女なんだ。

「ノーマ?」ウィルはベッドでまだグーグー眠っている魔女の所に行って真っ赤な髪に覆われた顔を覗き込んだ。

これが本物の魔女の顔かぁ。ウィルはノーマと出会ってからこんなにマジマジと顔を見た事がなかった。だって、いつもこの赤い髪の方に目を取られて、大きな長い鼻しか見えなかったから。長いまつ毛…肌はちょっと黄味かかった白い色。そばかすがちょっとある…よく見たら綺麗な顔立ちだけど、この鼻が凄いな。
魔女ってみんなこんなに鼻が長いのかな?シワシワの、木の皮みたいな鼻…

「う~ん。」

とノーマが鼻をボリボリと掻いて、寝返りを打った。ウィルはびっくりしてドキドキした。

ノーマが起きたのかな?というのもあったけど、寝返りを打った時にノーマの枕元に落ちた物を見て心臓が口から飛び出そうになったのだ。
何が驚いたかって、そこに落ちてたのはさっきまでウィルが見ていたノーマの鼻だったから。

ウィルは悲鳴をあげそうなのを堪えて寝室からそっと出て行って、小屋の外に出て井戸水をくんで顔を洗いながら考えた。何で鼻が取れたんだろう?僕何もしてないよね…ノーマ、大丈夫かな。

小屋に戻るとノーマが起きて来ていた。あの長い鼻がちゃんとついている。

「おはよう。」

お茶を飲みながらノーマが気だるそうに挨拶してきた。


「おはよう、ノーマ…大丈夫?」

「何がだい?」

「その、体が…」

「ああ~、夜中は走り周ったから、疲れちまったよ。」

鼻をこすりながらお茶を啜ってウィルにもテーブルにつくように手招きする。
テーブルの上にはお皿の上にペイストリ―が乗せてあった。

「昨日調達したんだよ。美味いよ、お食べ。」

「ありがとう。」

ウィルは久々のパンを美味しそうに食べた。今までに食べた事がない甘くて美味しいパン。

「美味しい!」目を輝かせて、喜んでペイストリ―を頬張っているウィルの顔を見ながら、ノーマも嬉しそうに微笑みながらお茶を啜っていた。そうして食事を済ますとウィルがジッと自分の鼻を見つめているのに気が付いて、ノーマもウィルの目を見つめて聞いた。

「なんだい、私の顔がおかしいのかい?」
「ううん、おかしくない。…でも、おかしい。」
「どこがおかしいんだい。」

ノーマの目が険しくなった。

「怒らない?」
「わからん。お前もやっぱり魔女が怖いのか。」

「そうじゃないよ。僕、ノーマの事好きだもの。」

「そうか、なら私に嘘をつくな。私は嘘が嫌いだからね。嘘をついたらお前を喰うことにするよ。」

ウィルは涙目になりながら言った。

「鼻。」

この言葉を聞いたノーマはバッと自分の鼻を両手で隠した。急に動揺してる。

「さっきノーマの寝顔見てたら、鼻がもげたの。」

「わっ、私の鼻は時々もげるんだよ!」

「…ほんとう?」

「ほんと‼」

「さっき、ノーマ…嘘が嫌いだって言ってたよね。」

ウィルがそう言った。

うーっとノーマは唸って、観念したように自分の鼻を左右に捻ってポンッと引き千切った。

「あー!」ウィルはその光景に驚いて座っていた椅子から転げ落ちた。

「レディの寝顔、勝手に見るんじゃないよ。おかげで私の秘密がバレちまったじゃないかい。」

ウィルを見下ろしたノーマは怒ってた。だけど、ちょっとほっとした優しい緑の目をしていた。
ノーマの鼻は作り物の鼻だった。作り物の鼻を取ったノーマの鼻はちょっと小さめのだけど鼻筋の通った綺麗な鼻だった。赤髪のこの魔女はとても美しい顔立ちをしていた。恐ろしい魔女のイメージとはほど遠い顔。

「ノーマ、どうしてそんな鼻つけてたの?」とウィルはドキドキしながら聞いてみた。

「え?だって、私の鼻は貧相でさ、先代の魔女はそりゃありっぱな魔女らしい鼻でね。この鼻は先代の魔女の鼻に似せて私が作ったんだ。魔女の風格ってのかね、強そうに見えるだろう?」

ウィルは思った。ノーマって、僕と同じ年くらいの精神年齢、いや、僕の方がノーマより成長してるのかも、と。

「お前と会う前は寝る時はこの鼻を外して寝てたんだけど、ずっとつけてると鼻が痒くてね。お前とは暫く暮らす事になるんだろうから、いつか外そうと思ってたんだ。もうこの秘密を知ってしまったからには、お前を人里に返す事はできなくなったよ。強い魔女じゃないってわかったら、人間が私を殺しにくるからね。」

魔女の素顔がこんなに綺麗だなんて。ウィルはこの時ノーマを本当に好きになった。

「僕がノーマを守るから。」そう自然と言葉にしていた。


ノーマはハハッと笑ってウィルに軽くデコピンをして、言った。

「アンタみたいなおチビさんに守られるほど私ゃ弱くないけどさ、頑張って大きくなりな。とりあえずは、何でも食べれるようにならんとね。」

その日の晩、ウィルはカエルシチューを食べさせられた。

「アンタが大きくなるまでは、私が守ってやるよ。」

その日からノーマはウィルの前ではあの強そうな魔女の鼻をつけずに素顔のままでいることにした。
ウィルが自分の顔を見るたび、よく笑うようになったからだ。


なんだか、楽しいねえ。とノーマは自分の顔も笑顔が増えていることには気づかないでいた。


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