赤髪の魔女の話

ゆーとき

文字の大きさ
上 下
3 / 4

ノーマの秘密

しおりを挟む
ウィルは朝起きたら大量の食糧があることに驚いた。

こんなにいっぱい。
魔法で出したのかな。違うな、魔法で出せるならイモリの干物のかゆの晩餐が出る事はないかも。
ノーマはまだ寝てる。昨日夜中に出て行ってこれだけ集めたんだ、凄いな!ノーマはやっぱり魔女だったんだ。
魔女ってほんとにいたんだ…僕のお母さんは魔女じゃなかったけど、ノーマは本物の魔女なんだ。

「ノーマ?」ウィルはベッドでまだグーグー眠っている魔女の所に行って真っ赤な髪に覆われた顔を覗き込んだ。

これが本物の魔女の顔かぁ。ウィルはノーマと出会ってからこんなにマジマジと顔を見た事がなかった。だって、いつもこの赤い髪の方に目を取られて、大きな長い鼻しか見えなかったから。長いまつ毛…肌はちょっと黄味かかった白い色。そばかすがちょっとある…よく見たら綺麗な顔立ちだけど、この鼻が凄いな。
魔女ってみんなこんなに鼻が長いのかな?シワシワの、木の皮みたいな鼻…

「う~ん。」

とノーマが鼻をボリボリと掻いて、寝返りを打った。ウィルはびっくりしてドキドキした。

ノーマが起きたのかな?というのもあったけど、寝返りを打った時にノーマの枕元に落ちた物を見て心臓が口から飛び出そうになったのだ。
何が驚いたかって、そこに落ちてたのはさっきまでウィルが見ていたノーマの鼻だったから。

ウィルは悲鳴をあげそうなのを堪えて寝室からそっと出て行って、小屋の外に出て井戸水をくんで顔を洗いながら考えた。何で鼻が取れたんだろう?僕何もしてないよね…ノーマ、大丈夫かな。

小屋に戻るとノーマが起きて来ていた。あの長い鼻がちゃんとついている。

「おはよう。」

お茶を飲みながらノーマが気だるそうに挨拶してきた。


「おはよう、ノーマ…大丈夫?」

「何がだい?」

「その、体が…」

「ああ~、夜中は走り周ったから、疲れちまったよ。」

鼻をこすりながらお茶を啜ってウィルにもテーブルにつくように手招きする。
テーブルの上にはお皿の上にペイストリ―が乗せてあった。

「昨日調達したんだよ。美味いよ、お食べ。」

「ありがとう。」

ウィルは久々のパンを美味しそうに食べた。今までに食べた事がない甘くて美味しいパン。

「美味しい!」目を輝かせて、喜んでペイストリ―を頬張っているウィルの顔を見ながら、ノーマも嬉しそうに微笑みながらお茶を啜っていた。そうして食事を済ますとウィルがジッと自分の鼻を見つめているのに気が付いて、ノーマもウィルの目を見つめて聞いた。

「なんだい、私の顔がおかしいのかい?」
「ううん、おかしくない。…でも、おかしい。」
「どこがおかしいんだい。」

ノーマの目が険しくなった。

「怒らない?」
「わからん。お前もやっぱり魔女が怖いのか。」

「そうじゃないよ。僕、ノーマの事好きだもの。」

「そうか、なら私に嘘をつくな。私は嘘が嫌いだからね。嘘をついたらお前を喰うことにするよ。」

ウィルは涙目になりながら言った。

「鼻。」

この言葉を聞いたノーマはバッと自分の鼻を両手で隠した。急に動揺してる。

「さっきノーマの寝顔見てたら、鼻がもげたの。」

「わっ、私の鼻は時々もげるんだよ!」

「…ほんとう?」

「ほんと‼」

「さっき、ノーマ…嘘が嫌いだって言ってたよね。」

ウィルがそう言った。

うーっとノーマは唸って、観念したように自分の鼻を左右に捻ってポンッと引き千切った。

「あー!」ウィルはその光景に驚いて座っていた椅子から転げ落ちた。

「レディの寝顔、勝手に見るんじゃないよ。おかげで私の秘密がバレちまったじゃないかい。」

ウィルを見下ろしたノーマは怒ってた。だけど、ちょっとほっとした優しい緑の目をしていた。
ノーマの鼻は作り物の鼻だった。作り物の鼻を取ったノーマの鼻はちょっと小さめのだけど鼻筋の通った綺麗な鼻だった。赤髪のこの魔女はとても美しい顔立ちをしていた。恐ろしい魔女のイメージとはほど遠い顔。

「ノーマ、どうしてそんな鼻つけてたの?」とウィルはドキドキしながら聞いてみた。

「え?だって、私の鼻は貧相でさ、先代の魔女はそりゃありっぱな魔女らしい鼻でね。この鼻は先代の魔女の鼻に似せて私が作ったんだ。魔女の風格ってのかね、強そうに見えるだろう?」

ウィルは思った。ノーマって、僕と同じ年くらいの精神年齢、いや、僕の方がノーマより成長してるのかも、と。

「お前と会う前は寝る時はこの鼻を外して寝てたんだけど、ずっとつけてると鼻が痒くてね。お前とは暫く暮らす事になるんだろうから、いつか外そうと思ってたんだ。もうこの秘密を知ってしまったからには、お前を人里に返す事はできなくなったよ。強い魔女じゃないってわかったら、人間が私を殺しにくるからね。」

魔女の素顔がこんなに綺麗だなんて。ウィルはこの時ノーマを本当に好きになった。

「僕がノーマを守るから。」そう自然と言葉にしていた。


ノーマはハハッと笑ってウィルに軽くデコピンをして、言った。

「アンタみたいなおチビさんに守られるほど私ゃ弱くないけどさ、頑張って大きくなりな。とりあえずは、何でも食べれるようにならんとね。」

その日の晩、ウィルはカエルシチューを食べさせられた。

「アンタが大きくなるまでは、私が守ってやるよ。」

その日からノーマはウィルの前ではあの強そうな魔女の鼻をつけずに素顔のままでいることにした。
ウィルが自分の顔を見るたび、よく笑うようになったからだ。


なんだか、楽しいねえ。とノーマは自分の顔も笑顔が増えていることには気づかないでいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...