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魔女の食料調達
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赤髪の魔女の名前はノーマ。月夜の晩に拾った男の子の名前はウィルと言った。
ウィルは大人しくて聞き分けが良く、あまり魔女を煩わせることはなかった。
子供ってのはうるさくて騒がしい生き物だと思っていたのになんだか拍子抜けだねぇ、とノーマは思った。
ウィルは魔女の手伝いをするのが好きなようで、水汲みから薪拾いと自分ができそうなものは何でも自分から率先して手伝った。まだ5歳か6歳くらいの子なのにとても機転のきく子だった。
「ノーマ、今晩は何作るの?」と薪を拾ってきたウィルが言った。
ノーマは長い鼻の先を指で押し上げる様にして「そうだねぇ。」と考え込んだ。そして溜息をつきながら
「イモリの干物と大麦のかゆ」と言った。
ウィルはちょっと嫌な顔をしたが、うんと頷いて鍋に入れる水を汲みに行った。
さて、食料がなくなってきたね。とノーマは溜息をついた。
私は何でも食べれるが、あの子にはもうちょっとマシな物食べさせてあげたいねぇ…。
ウィルは「僕は大丈夫だよ、森の木の実や魚で十分、ただ、イモリがちょっと苦手…。」とスプーンで大麦を粗くつぶしたかゆに浮かんでいる黒く焼けたイモリを突きながら言った。ノーマはそのイモリを奪ってガジガジかじりながら言った。
「イモリは滋養強壮にいいんだよ。まあ子供にはちょっと苦いかな?じゃあ,明日は蛙にしようか?」
「蛙の方が好きかな…。」ちょっと嬉しそうにウィルが言った。
深夜、ウィルが寝入った後にノーマは箒を持って小屋から出た。
今夜は新月、ちょうど食料調達に都合の良い闇夜だった。
普通の人の眼なら月もない真っ暗な夜の森を灯りも持たずに歩くことさえできないが、ノーマは夜目がきいた。
これが魔女の力かといえばそうでもない。生まれつき真っ暗な中でも見えていた。嗅覚も犬並みに鋭かった。
赤い髪と同じく持って生まれたものだった。
人間だった頃からそう、他の人もこれが当たり前なのだと思っていた頃が懐かしい、と森の中から人里まで行くまでに、目についた獲物を捕まえては魔法で眠らせて麻袋に入れていった。
森に潜む夜行性の狼も熊も、この魔女にだけは牙を向けない。
歯向かったら最後、魔女の食材にされてしまうのを知っているからだった。
ノーマは狼は食べない。不味いからだ。
熊も人間がこの森に気安く入り込まない様にする為には必要だから、食べない。
野豚や野ネズミ、兎や鳥を必要最小限獲っていた。
(よし大分獲れた。あとは…)
ノーマは獲物を入れた麻袋を箒の端にくくりつけて、箒を肩に担ぎ、凄いスピードで走りだした。
そのスピードは狼たちよりも速い、風のように速い、まるで地上スレスレを高速で飛んでいる様だった。闇夜に走るノーマの姿は誰にも見えない。
(あの子に、美味しい物持って帰ってやろう。)
魔女は人里に入り、その先の領主の屋敷の料理番の部屋に行き、眠っている料理番の男に囁きかけた。
「大麦とライ麦と、あと何か少しもらって行くよ。代わりに豚を一頭置いていくから。」
料理番はむにゃむにゃと眠りながら返事をした。
「ああー、いつも良い肉をありがとう。好きなだけ持ってきな。」
ノーマは屋敷の食糧庫に行って大麦とライ麦の粉を小さめの麻袋に小分けして数袋入れ、自分の大きな麻袋からは大きな野豚を一頭、食糧庫に置いて行った。小麦が欲しかったが、小麦は領主の屋敷でも貴重な物だし、減っていたら他の人間に気づかれるかもしれないと思っていつも持って行かない。
台所で少量の調味料と野菜を少々袋に詰めていたら、台の上にペイストリーが置いてあった。
ペイストリ―とは砂糖やバターを使って焼いた甘いパンで、金持ち以外はめったに食べれない。
「これを少し貰って行こう。」ノーマはナイフでそれを一切れ切って袋に入れ、屋敷を出た。
料理番はいつも寝ているけれど、魔女と取引をした事は覚えているので、翌朝食糧庫に豚が転がっているのを見ても驚かない。取引き相手は魔女だとは思っておらず、深夜にくる訳ありの行商人だと思っているのは、ノーマの魔法なのだけど。ノーマはほくほく顔でまた疾風の様に森に向かって走っている。
「ウィル、喜ぶだろうね。」飛ぶように走るノーマは箒に乗って飛べない。箒を担いで飛ぶように走る。
先代の魔女には免許皆伝をもらってる。
魔女だからって全ての魔女が箒で空を飛べるわけじゃないって、先代の魔女は言ってた。
「箒で空を飛ぶこと」以外は全てできるようになった。先代の魔女は言ってた。
「本当は飛ぶのは簡単な事。でもそれより難しい事がお前にはできる。本当の魔女にだって得手不得手があるんだよ。だけどいつかお前も飛べる日がくると思うよ。魔女が空を飛ぶにはね、お前が守護者を決めた時なんだ。」
と言っていた。
ノーマは走りながら守護者なんかいらないさ、と思った。
私は一人で生きていく、とウィルの事を思い出した。
小さなウィル、あれは私が守ってやる。あ、そうだ。
「蛙も獲って帰ろ!」
赤髪の疾風の魔女は楽しそうに笑っていた。
ウィルは大人しくて聞き分けが良く、あまり魔女を煩わせることはなかった。
子供ってのはうるさくて騒がしい生き物だと思っていたのになんだか拍子抜けだねぇ、とノーマは思った。
ウィルは魔女の手伝いをするのが好きなようで、水汲みから薪拾いと自分ができそうなものは何でも自分から率先して手伝った。まだ5歳か6歳くらいの子なのにとても機転のきく子だった。
「ノーマ、今晩は何作るの?」と薪を拾ってきたウィルが言った。
ノーマは長い鼻の先を指で押し上げる様にして「そうだねぇ。」と考え込んだ。そして溜息をつきながら
「イモリの干物と大麦のかゆ」と言った。
ウィルはちょっと嫌な顔をしたが、うんと頷いて鍋に入れる水を汲みに行った。
さて、食料がなくなってきたね。とノーマは溜息をついた。
私は何でも食べれるが、あの子にはもうちょっとマシな物食べさせてあげたいねぇ…。
ウィルは「僕は大丈夫だよ、森の木の実や魚で十分、ただ、イモリがちょっと苦手…。」とスプーンで大麦を粗くつぶしたかゆに浮かんでいる黒く焼けたイモリを突きながら言った。ノーマはそのイモリを奪ってガジガジかじりながら言った。
「イモリは滋養強壮にいいんだよ。まあ子供にはちょっと苦いかな?じゃあ,明日は蛙にしようか?」
「蛙の方が好きかな…。」ちょっと嬉しそうにウィルが言った。
深夜、ウィルが寝入った後にノーマは箒を持って小屋から出た。
今夜は新月、ちょうど食料調達に都合の良い闇夜だった。
普通の人の眼なら月もない真っ暗な夜の森を灯りも持たずに歩くことさえできないが、ノーマは夜目がきいた。
これが魔女の力かといえばそうでもない。生まれつき真っ暗な中でも見えていた。嗅覚も犬並みに鋭かった。
赤い髪と同じく持って生まれたものだった。
人間だった頃からそう、他の人もこれが当たり前なのだと思っていた頃が懐かしい、と森の中から人里まで行くまでに、目についた獲物を捕まえては魔法で眠らせて麻袋に入れていった。
森に潜む夜行性の狼も熊も、この魔女にだけは牙を向けない。
歯向かったら最後、魔女の食材にされてしまうのを知っているからだった。
ノーマは狼は食べない。不味いからだ。
熊も人間がこの森に気安く入り込まない様にする為には必要だから、食べない。
野豚や野ネズミ、兎や鳥を必要最小限獲っていた。
(よし大分獲れた。あとは…)
ノーマは獲物を入れた麻袋を箒の端にくくりつけて、箒を肩に担ぎ、凄いスピードで走りだした。
そのスピードは狼たちよりも速い、風のように速い、まるで地上スレスレを高速で飛んでいる様だった。闇夜に走るノーマの姿は誰にも見えない。
(あの子に、美味しい物持って帰ってやろう。)
魔女は人里に入り、その先の領主の屋敷の料理番の部屋に行き、眠っている料理番の男に囁きかけた。
「大麦とライ麦と、あと何か少しもらって行くよ。代わりに豚を一頭置いていくから。」
料理番はむにゃむにゃと眠りながら返事をした。
「ああー、いつも良い肉をありがとう。好きなだけ持ってきな。」
ノーマは屋敷の食糧庫に行って大麦とライ麦の粉を小さめの麻袋に小分けして数袋入れ、自分の大きな麻袋からは大きな野豚を一頭、食糧庫に置いて行った。小麦が欲しかったが、小麦は領主の屋敷でも貴重な物だし、減っていたら他の人間に気づかれるかもしれないと思っていつも持って行かない。
台所で少量の調味料と野菜を少々袋に詰めていたら、台の上にペイストリーが置いてあった。
ペイストリ―とは砂糖やバターを使って焼いた甘いパンで、金持ち以外はめったに食べれない。
「これを少し貰って行こう。」ノーマはナイフでそれを一切れ切って袋に入れ、屋敷を出た。
料理番はいつも寝ているけれど、魔女と取引をした事は覚えているので、翌朝食糧庫に豚が転がっているのを見ても驚かない。取引き相手は魔女だとは思っておらず、深夜にくる訳ありの行商人だと思っているのは、ノーマの魔法なのだけど。ノーマはほくほく顔でまた疾風の様に森に向かって走っている。
「ウィル、喜ぶだろうね。」飛ぶように走るノーマは箒に乗って飛べない。箒を担いで飛ぶように走る。
先代の魔女には免許皆伝をもらってる。
魔女だからって全ての魔女が箒で空を飛べるわけじゃないって、先代の魔女は言ってた。
「箒で空を飛ぶこと」以外は全てできるようになった。先代の魔女は言ってた。
「本当は飛ぶのは簡単な事。でもそれより難しい事がお前にはできる。本当の魔女にだって得手不得手があるんだよ。だけどいつかお前も飛べる日がくると思うよ。魔女が空を飛ぶにはね、お前が守護者を決めた時なんだ。」
と言っていた。
ノーマは走りながら守護者なんかいらないさ、と思った。
私は一人で生きていく、とウィルの事を思い出した。
小さなウィル、あれは私が守ってやる。あ、そうだ。
「蛙も獲って帰ろ!」
赤髪の疾風の魔女は楽しそうに笑っていた。
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