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第三章 鍛冶場の鋼と火事場の蝶(インゴット&イグニート)
第五話「女子会(?)」
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「ほんっっっっとうに申し訳ない!!」
カフェテラスで小一時間程双子と過ごしたアリスは、そろそろ大丈夫とラインが連れてきた鍛冶師に突然の謝罪責めにあっていた。
先程工房で見た殺気にも似た気迫と美しさを併せ持つ人物とは思えない程、物腰の柔らかい好印象の女性がペコペコ頭を下げている。
こうして立った姿を見ると筋肉質な体に高い身長、胸や顔立ち等の女性的な部分を除けば一流の戦士並みの体つきをしている。
作業中、布で覆われていた赤髪はボサボサになっており、それを指で無造作に整えていた。
「ははっ、姉御は一度工房に入るとずっとあの調子なのさ」
ライラはアッサムティーを軽く口に含むと、再度姉御と呼んだ専属の鍛冶師をフォローする。
四人はひとつのテーブルを囲み商談を行う運びとなった、鍛冶師が席に着くや否や、ラインが注文した冷えたラガーが運ばれてくる。
その場の空気を読みとるライラと常に周囲への気配りを欠かさないラインの連係プレイが、先程とは違う和やかな雰囲気を作りだす。
「いやいや、誠に失敬した。私の名は“エリクト”。気軽に“エル”と呼んでほしい」
「私の名はアリス、占い師をしております。こちらの黒猫はタロ」
「へえ、占い師か。街の女どもが食いつきそうだが……私にそんな乙女チックなものは似合わないなー」
エルは両手を頭の後ろで組み、目の前の占い師から目を背ける様にテラスから見える街並みを見下ろした。
そこに案の定ラインからのお節介が入る。
「そんなことありませんよ姉御!姉御だってすごく美人なんですから、女を捨ててるような言い方はしないでください!」
「ははっ、そうだぜ姉御。試しに何か占ってもらいなよ。もしかすると姉御にも天使が舞い降りるかもしれないぜ?」
いじるのを面白がるように双子が占いを薦める中、とんでもないと一生懸命手を振るエルの顔は赤くなっていた。
少年の様に笑う笑顔と、少女の様に恥じらう頬が双子の好奇心をより一層くすぐる。
「では代金は僕ら双子が準備しよう」
そういってライラは拳に乗せた大銅貨一枚を親指で強くはじく。
激しい回転と共に宙に舞った大銅貨は、四人の頭上に孤の字を描き、それをアリスは片手で受け止める。
「ははっ、それで足りるかい?」
アリスは大銅貨が収まっているはずの拳をパッとひらくと中から光が透き通る程の透明な水晶が表れた。
「おーっ」とエルとラインから拍手が起こる。
ライラは何故だか自慢げに腕を組んでいる。
「ではエル様、どちらの手でも構いません、私の持つ水晶に触れてください」
アリスは目を閉じ、自分の手のひらにある水晶をエルへ差し出す。いつの間にか黒猫がアリスの肩からエルを覗いていた。ライラは誘導する様に片手をアリスにかざし、ラインは両手を祈るように組み二人の様子を伺う。
「痛くしない?」
エルは少し顔をひきつりながら恐る恐る手を差し出す。
「誰にだって初めてはあるんですよ?」
アリスは少し笑いながらエルの手を掴んだ。
エルは子供が医者にかかる時のように強く目を閉じ、何かを我慢しているように見えた。
その様子を双子はニヤニヤと眺めている。
恐らく双子は、この体系に似合わず乙女な鍛冶師をこうやって毎回いじっては楽しんでいるのだろう。
アリスは少し不思議そうな顔をし、改めてエルの全身を見直してから言葉を発した。
「エル様は人間ではありませんね?」
エルは慌ててアリスの手を振りほどき、瞬間眼光が鋭くなった後、悲しい目をして視線を落とした。
双子も同じく、それまでのにやけ顔を止めアリスの方を注視していた。
「これは当たりなのかしらね、兄様」
「ははっ、ひょっとしたらハズレなのかも、姉様」
和やかな午後のお茶会は一瞬にして空気が変わる。
誰と言わず言葉を発送とした瞬間、黒猫がテーブルに飛び降り、その長い尻尾がアリスの頬を小突いた。
アリスは深く入り込む。入り込んでしまう。
水晶を媒介にしてタロの魔力を相手に送り込む技は、ありとあらゆる体内の状態を判別してしまう。
もちろん何の知識もない状態であれば、単なる違和感でしかないがアリスはありとあらゆる知識を書物から得ている。
人と亜人の違いも然りであった。
占いを行う上でアリスは故意に相手のデリケートな部分に触れることがある。
相手は選ぶが、「私は占い師ですよ?」とメッセージを送る。
それに対し、好意であれ悪意であれアリスは相手を試すクセがある。
「また悪い癖がでた」と黒猫は周囲に気付かれないように、ちょっとしたお仕置きをしたのだった。
「失言でした……私が言いたかったのは、人間以外の血が混ざっていると・・・・・・言いたかったのです」
エルは緊張を解いて顔を上げた後、軽く手を振り双子に警戒を解かした。
「確かに……私は半分亜人……ドワーフの血を引いているよ」
神々の争いから長い年月が経ち、地上には人のみならず、エルフやドワーフといった亜人種も数多く存在する。
種族間には今のところ大きな争いは無く、それぞれがある程度の関わり合いをもって暮らしているが、中には純潔種を尊ぶ思想も存在し二種類の血を交わって出来た子を“忌み子”として差別と偏見の対象とする者も少なくない。
それほど“ハーフ”はデリケートな問題なのだ。
「鍛冶の技において一般的な人より長けた力を持つドワーフの血を中途半端に継いでいるからね、私はどっちの鍛冶職人にも印象が悪い」
エルはそう言うと自嘲気味に笑い、ラガーを一気に飲み干す。
「アリスちゃん……姉御の腕は一流なの。でも“血”のことでトラブルになることも多くて……」
「ははっ、そのほとんどが姉御の腕を妬んだ奴らのやっかみなんだけどね」
鍛冶の聖地と呼ばれるこの街で、必死にしのぎを削ってきたであろう目の前の鍛冶師は、その腕前故に出生の面であらぬ差別を受ける事があったことは容易に想像できた。
恐らくその度に目の前の双子は鍛冶師を庇い、元気付け今日までその信頼関係を築いているのだろう。
「少し踏み込みすぎではないのか?」
と心配する黒猫にアリスは「自己紹介は終わりました」と撫でながら答えた。
「しかし、占いとはそんなことまで言い当ててしまうのだな。いやはや恐れ入ったよ」
緊張はいつの間にか緩和され、エルの顔には先ほどの無邪気な笑顔が戻る。
同時に双子もお茶やお菓子を口に入れ和やかに笑う。
「あんたが腕のいい占い師だというのは分かったよ。これなら見せてくれる素材ってのにも期待が出来そうだ」
レアな素材は発見そのものが難しいだけに、それにどれほどの効力があるのか?どの程度の価値がつけられるのか?は鍛冶ギルドが判断する。
もちろん価値を付けるには、実際に武器として精製し効果を見定めた後になるのでやたらと時間がかかる。
なので、その手順をすっとばして直接鍛冶師に売り込む輩も珍しくない。
間違いなくレアな素材ならば良いのだが、中には過去に出現したレア素材のレプリカを売りつける詐欺も発生しており鍛冶師は売り込みに来る冒険者を値踏みする必要がある。
知ってか知らずかアリスの踏み込んだ占いは、エルの興味を引くには十分な力量を示したことになった。
「本当かよ……」
半信半疑の黒猫がそっと従者の顔を見上げると、かすかにどや顔のアリスが見下ろしていた。
アリスはカバンから布に包まれた石を取り出し、テーブルの上に広げて見せた。
「神話に出てくる魔獣、キマイラのコアです」
エルは石を手に取りしばらく眺めてこう呟いた。
「燃え盛る炎と……毒……」
鍛冶師は目を閉じ思考に耽る。
石の感触を確かめながら、頭の中で想像上のキマイラが空をかけ、毒の牙で戦士を引き裂き、火炎が鎧をも燃えつくす。
獰猛な魔獣は自分の力に絶対の自信があったはずだ……だが倒された。
冒険者の力が、知恵が、勇気が。
それらが一瞬でもキマイラを上回った。
そしてその力はこの石と姿を変え、次の一生を待ち続ける。
猛々しい怒りの炎、粛々と浸食する毒の行進。
鍛冶師は静かに目を開け、イメージの水底から浮上する。
「この素材を買い取らせてもらうよ」
その言葉を聞いた瞬間、ラインとライラの双子は共に目を輝かせて鍛冶師に詰め寄る。
「ははっ、ということは姉御!」
「ようやく決まったのですね、姉御!」
アリスと黒猫はきょとんとした目で三人の様子を眺めていた。
「これを使って鍛冶神祭へ奉納する武器を作る」
メロウリンクの鍛冶師は年に一回、鍛冶神の祭りに奉納する一振りの剣を作る。だが、それは全ての武器を収めるのではなく、数多くの武器の中からギルドが毎年選ぶようになっている。
美しさ、切れ味、そして付加価値。
昔は刀身の美しさと切れ味が優先されて評価されていたが、近年は何かの属性に基づく付加価値が選考基準の多くを占める様になったという。
「中々素材が決まらなかった……いや決めきれなかったんだ……」
エルは石を眺めながら自分の弱さを呟く。そして先ほど見えた炎と毒のイメージを繰り返し頭に叩き込んでいた。
「まずは前金として金貨三枚。残りは完成してからでいいかな?」
アリスとエルはその場で硬く握手を交わし、双子もその二人を温かい眼差しで見つめていた。
「ちなみにアリスちゃん、姉御の占いはさっきので終わり?」
ラインは人差し指を顎に当て思い出したかのうように催促した。
アリスは改めて水晶を握りしめ、深く瞳を閉じながらエルに向かって語り掛けた。
「近々あなたの運命を変える出会いがあります。天使かどうかは分かりませんが……」
カフェテラスで小一時間程双子と過ごしたアリスは、そろそろ大丈夫とラインが連れてきた鍛冶師に突然の謝罪責めにあっていた。
先程工房で見た殺気にも似た気迫と美しさを併せ持つ人物とは思えない程、物腰の柔らかい好印象の女性がペコペコ頭を下げている。
こうして立った姿を見ると筋肉質な体に高い身長、胸や顔立ち等の女性的な部分を除けば一流の戦士並みの体つきをしている。
作業中、布で覆われていた赤髪はボサボサになっており、それを指で無造作に整えていた。
「ははっ、姉御は一度工房に入るとずっとあの調子なのさ」
ライラはアッサムティーを軽く口に含むと、再度姉御と呼んだ専属の鍛冶師をフォローする。
四人はひとつのテーブルを囲み商談を行う運びとなった、鍛冶師が席に着くや否や、ラインが注文した冷えたラガーが運ばれてくる。
その場の空気を読みとるライラと常に周囲への気配りを欠かさないラインの連係プレイが、先程とは違う和やかな雰囲気を作りだす。
「いやいや、誠に失敬した。私の名は“エリクト”。気軽に“エル”と呼んでほしい」
「私の名はアリス、占い師をしております。こちらの黒猫はタロ」
「へえ、占い師か。街の女どもが食いつきそうだが……私にそんな乙女チックなものは似合わないなー」
エルは両手を頭の後ろで組み、目の前の占い師から目を背ける様にテラスから見える街並みを見下ろした。
そこに案の定ラインからのお節介が入る。
「そんなことありませんよ姉御!姉御だってすごく美人なんですから、女を捨ててるような言い方はしないでください!」
「ははっ、そうだぜ姉御。試しに何か占ってもらいなよ。もしかすると姉御にも天使が舞い降りるかもしれないぜ?」
いじるのを面白がるように双子が占いを薦める中、とんでもないと一生懸命手を振るエルの顔は赤くなっていた。
少年の様に笑う笑顔と、少女の様に恥じらう頬が双子の好奇心をより一層くすぐる。
「では代金は僕ら双子が準備しよう」
そういってライラは拳に乗せた大銅貨一枚を親指で強くはじく。
激しい回転と共に宙に舞った大銅貨は、四人の頭上に孤の字を描き、それをアリスは片手で受け止める。
「ははっ、それで足りるかい?」
アリスは大銅貨が収まっているはずの拳をパッとひらくと中から光が透き通る程の透明な水晶が表れた。
「おーっ」とエルとラインから拍手が起こる。
ライラは何故だか自慢げに腕を組んでいる。
「ではエル様、どちらの手でも構いません、私の持つ水晶に触れてください」
アリスは目を閉じ、自分の手のひらにある水晶をエルへ差し出す。いつの間にか黒猫がアリスの肩からエルを覗いていた。ライラは誘導する様に片手をアリスにかざし、ラインは両手を祈るように組み二人の様子を伺う。
「痛くしない?」
エルは少し顔をひきつりながら恐る恐る手を差し出す。
「誰にだって初めてはあるんですよ?」
アリスは少し笑いながらエルの手を掴んだ。
エルは子供が医者にかかる時のように強く目を閉じ、何かを我慢しているように見えた。
その様子を双子はニヤニヤと眺めている。
恐らく双子は、この体系に似合わず乙女な鍛冶師をこうやって毎回いじっては楽しんでいるのだろう。
アリスは少し不思議そうな顔をし、改めてエルの全身を見直してから言葉を発した。
「エル様は人間ではありませんね?」
エルは慌ててアリスの手を振りほどき、瞬間眼光が鋭くなった後、悲しい目をして視線を落とした。
双子も同じく、それまでのにやけ顔を止めアリスの方を注視していた。
「これは当たりなのかしらね、兄様」
「ははっ、ひょっとしたらハズレなのかも、姉様」
和やかな午後のお茶会は一瞬にして空気が変わる。
誰と言わず言葉を発送とした瞬間、黒猫がテーブルに飛び降り、その長い尻尾がアリスの頬を小突いた。
アリスは深く入り込む。入り込んでしまう。
水晶を媒介にしてタロの魔力を相手に送り込む技は、ありとあらゆる体内の状態を判別してしまう。
もちろん何の知識もない状態であれば、単なる違和感でしかないがアリスはありとあらゆる知識を書物から得ている。
人と亜人の違いも然りであった。
占いを行う上でアリスは故意に相手のデリケートな部分に触れることがある。
相手は選ぶが、「私は占い師ですよ?」とメッセージを送る。
それに対し、好意であれ悪意であれアリスは相手を試すクセがある。
「また悪い癖がでた」と黒猫は周囲に気付かれないように、ちょっとしたお仕置きをしたのだった。
「失言でした……私が言いたかったのは、人間以外の血が混ざっていると・・・・・・言いたかったのです」
エルは緊張を解いて顔を上げた後、軽く手を振り双子に警戒を解かした。
「確かに……私は半分亜人……ドワーフの血を引いているよ」
神々の争いから長い年月が経ち、地上には人のみならず、エルフやドワーフといった亜人種も数多く存在する。
種族間には今のところ大きな争いは無く、それぞれがある程度の関わり合いをもって暮らしているが、中には純潔種を尊ぶ思想も存在し二種類の血を交わって出来た子を“忌み子”として差別と偏見の対象とする者も少なくない。
それほど“ハーフ”はデリケートな問題なのだ。
「鍛冶の技において一般的な人より長けた力を持つドワーフの血を中途半端に継いでいるからね、私はどっちの鍛冶職人にも印象が悪い」
エルはそう言うと自嘲気味に笑い、ラガーを一気に飲み干す。
「アリスちゃん……姉御の腕は一流なの。でも“血”のことでトラブルになることも多くて……」
「ははっ、そのほとんどが姉御の腕を妬んだ奴らのやっかみなんだけどね」
鍛冶の聖地と呼ばれるこの街で、必死にしのぎを削ってきたであろう目の前の鍛冶師は、その腕前故に出生の面であらぬ差別を受ける事があったことは容易に想像できた。
恐らくその度に目の前の双子は鍛冶師を庇い、元気付け今日までその信頼関係を築いているのだろう。
「少し踏み込みすぎではないのか?」
と心配する黒猫にアリスは「自己紹介は終わりました」と撫でながら答えた。
「しかし、占いとはそんなことまで言い当ててしまうのだな。いやはや恐れ入ったよ」
緊張はいつの間にか緩和され、エルの顔には先ほどの無邪気な笑顔が戻る。
同時に双子もお茶やお菓子を口に入れ和やかに笑う。
「あんたが腕のいい占い師だというのは分かったよ。これなら見せてくれる素材ってのにも期待が出来そうだ」
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もちろん価値を付けるには、実際に武器として精製し効果を見定めた後になるのでやたらと時間がかかる。
なので、その手順をすっとばして直接鍛冶師に売り込む輩も珍しくない。
間違いなくレアな素材ならば良いのだが、中には過去に出現したレア素材のレプリカを売りつける詐欺も発生しており鍛冶師は売り込みに来る冒険者を値踏みする必要がある。
知ってか知らずかアリスの踏み込んだ占いは、エルの興味を引くには十分な力量を示したことになった。
「本当かよ……」
半信半疑の黒猫がそっと従者の顔を見上げると、かすかにどや顔のアリスが見下ろしていた。
アリスはカバンから布に包まれた石を取り出し、テーブルの上に広げて見せた。
「神話に出てくる魔獣、キマイラのコアです」
エルは石を手に取りしばらく眺めてこう呟いた。
「燃え盛る炎と……毒……」
鍛冶師は目を閉じ思考に耽る。
石の感触を確かめながら、頭の中で想像上のキマイラが空をかけ、毒の牙で戦士を引き裂き、火炎が鎧をも燃えつくす。
獰猛な魔獣は自分の力に絶対の自信があったはずだ……だが倒された。
冒険者の力が、知恵が、勇気が。
それらが一瞬でもキマイラを上回った。
そしてその力はこの石と姿を変え、次の一生を待ち続ける。
猛々しい怒りの炎、粛々と浸食する毒の行進。
鍛冶師は静かに目を開け、イメージの水底から浮上する。
「この素材を買い取らせてもらうよ」
その言葉を聞いた瞬間、ラインとライラの双子は共に目を輝かせて鍛冶師に詰め寄る。
「ははっ、ということは姉御!」
「ようやく決まったのですね、姉御!」
アリスと黒猫はきょとんとした目で三人の様子を眺めていた。
「これを使って鍛冶神祭へ奉納する武器を作る」
メロウリンクの鍛冶師は年に一回、鍛冶神の祭りに奉納する一振りの剣を作る。だが、それは全ての武器を収めるのではなく、数多くの武器の中からギルドが毎年選ぶようになっている。
美しさ、切れ味、そして付加価値。
昔は刀身の美しさと切れ味が優先されて評価されていたが、近年は何かの属性に基づく付加価値が選考基準の多くを占める様になったという。
「中々素材が決まらなかった……いや決めきれなかったんだ……」
エルは石を眺めながら自分の弱さを呟く。そして先ほど見えた炎と毒のイメージを繰り返し頭に叩き込んでいた。
「まずは前金として金貨三枚。残りは完成してからでいいかな?」
アリスとエルはその場で硬く握手を交わし、双子もその二人を温かい眼差しで見つめていた。
「ちなみにアリスちゃん、姉御の占いはさっきので終わり?」
ラインは人差し指を顎に当て思い出したかのうように催促した。
アリスは改めて水晶を握りしめ、深く瞳を閉じながらエルに向かって語り掛けた。
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