30 / 120
第三章 鍛冶場の鋼と火事場の蝶(インゴット&イグニート)
第零話「プロローグ」
しおりを挟む
子供の頃の遊びを覚えているか?
ワシらはよく木の枝を拾っては、それを武器に見立てて遊んだもんだ。
素早く風をきり相手の急所を貫くレイピア。
その体躯を活かしあらゆるものを一刀両断するクレイモア。
あらゆる場所あらゆる方向から襲いくるスピア。
そして、全ての剣の原点、勇気と栄光を司る騎士の証ロングソード。
何でもない棒っきれは、子供の想像力でどんな得物にでも変化した。
そしてそこから物語が生まれる。
炎を吐くドラゴンを退治する勇者。
姫を悪の魔法使いから助ける騎士。
弱い物を悪政から解き放つ救世主。
全てはイメージすることから始まる。
鍛冶も同じなんだ。
火をくべ、鉄を打ち付ける時に大事なのは“イメージ”する事だ。
これがどんな武器になるのか、誰がその力を振るうのか、そしてどう朽ちていくのかをイメージする。
そして、そのイメージの先に辿り着いた瞬間に武器は完成する。
ワシは数多くの武器を作るとき、そう考え世に出してきた。
お前も同じだ。
愛しい我が子よ。
伝えられる事はこれで最後になるだろう。
ワシはお前に鍛冶の教え以外、親らしい事は何もしてこなかった。
だがそれが、それこそがワシがイメージするお前の到達点。
どの武器よりも熱く、そして激しく打ち付け生み出した最高傑作。
それがお前だ。
いいか、忘れるな。
武器の持つ本質をイメージしろ、そして物語を描くのだ。
生まれて、戦い、死していく武器の物語を……。
石レンガに囲まれた建物に鉄と鉄とがぶつかり合う音が響き合う。
一般的に家屋や倉庫等の建物は、そのコストと加工の自由度で木造を選択されることが多いが、この建物はその理に反して建てられていた。
その理由は建物の中央で眩いばかりの光と熱を放つ炎に由来している。
熱の持つ本来の暴力を体現したかの様な光の塊は木造の建物などいとも簡単に炭へと変えてしまう。。
石レンガは炎が建物を焼き尽くさない様に使われていた。
極限まで熱された鉄は、容赦なくハンマーで打ち付けられ、水によって急激に冷やされる。まるで生と死を強制的に繰り返されてるかのように。
先程まで火山の様な熱さを放つ鉄を打ち続けた主は、鉄が水で冷え固まる音を聞くとようやく落ち着きを見せた。
滴る汗を頭に巻いていた布でふき取り、水がめの水を浴びる様に飲む。
鋼鉄を扱うのに適した筋肉質な体は、長い手足にバランスよく付いていた。
唯一、その場に不似合いな程の豊満な女性の胸だけが、その者を“彼女”と特定できる。
それほどまでに、鉄を打つ姿は雄々しく力強かった。
汗をぬぐった布を水で浸し体を噴き上げる。
無造作に乱れた赤髪を鬱陶しそうにかき揚げ、疲れた体を床に放り出す。
-武器の持つ本質をイメージしろ、そして物語を描くのだ-
鉄を打つ時は必ずと言っていいほど、父が残した言葉が頭を支配する。
父は鍛冶に誇りを持っていた。
父は武器に希望を持っていた。
「くっだらない」
私から全てを奪った男。
母を捨て、家庭を捨て、私から女である事を奪い、ただの鉄打つ化物と変えた男。
それが父親。
恨んでも恨み切れない男。
それでも捨てられない家族としての唯一の絆、それが鉄と炎。
「武器は武器、所詮人殺しの道具じゃないか」
打たれた鉄は冷水で強制的に冷やされて固まっていった。
打ち続けた女性の心もまた、同じく冷たく固まっていった。
ワシらはよく木の枝を拾っては、それを武器に見立てて遊んだもんだ。
素早く風をきり相手の急所を貫くレイピア。
その体躯を活かしあらゆるものを一刀両断するクレイモア。
あらゆる場所あらゆる方向から襲いくるスピア。
そして、全ての剣の原点、勇気と栄光を司る騎士の証ロングソード。
何でもない棒っきれは、子供の想像力でどんな得物にでも変化した。
そしてそこから物語が生まれる。
炎を吐くドラゴンを退治する勇者。
姫を悪の魔法使いから助ける騎士。
弱い物を悪政から解き放つ救世主。
全てはイメージすることから始まる。
鍛冶も同じなんだ。
火をくべ、鉄を打ち付ける時に大事なのは“イメージ”する事だ。
これがどんな武器になるのか、誰がその力を振るうのか、そしてどう朽ちていくのかをイメージする。
そして、そのイメージの先に辿り着いた瞬間に武器は完成する。
ワシは数多くの武器を作るとき、そう考え世に出してきた。
お前も同じだ。
愛しい我が子よ。
伝えられる事はこれで最後になるだろう。
ワシはお前に鍛冶の教え以外、親らしい事は何もしてこなかった。
だがそれが、それこそがワシがイメージするお前の到達点。
どの武器よりも熱く、そして激しく打ち付け生み出した最高傑作。
それがお前だ。
いいか、忘れるな。
武器の持つ本質をイメージしろ、そして物語を描くのだ。
生まれて、戦い、死していく武器の物語を……。
石レンガに囲まれた建物に鉄と鉄とがぶつかり合う音が響き合う。
一般的に家屋や倉庫等の建物は、そのコストと加工の自由度で木造を選択されることが多いが、この建物はその理に反して建てられていた。
その理由は建物の中央で眩いばかりの光と熱を放つ炎に由来している。
熱の持つ本来の暴力を体現したかの様な光の塊は木造の建物などいとも簡単に炭へと変えてしまう。。
石レンガは炎が建物を焼き尽くさない様に使われていた。
極限まで熱された鉄は、容赦なくハンマーで打ち付けられ、水によって急激に冷やされる。まるで生と死を強制的に繰り返されてるかのように。
先程まで火山の様な熱さを放つ鉄を打ち続けた主は、鉄が水で冷え固まる音を聞くとようやく落ち着きを見せた。
滴る汗を頭に巻いていた布でふき取り、水がめの水を浴びる様に飲む。
鋼鉄を扱うのに適した筋肉質な体は、長い手足にバランスよく付いていた。
唯一、その場に不似合いな程の豊満な女性の胸だけが、その者を“彼女”と特定できる。
それほどまでに、鉄を打つ姿は雄々しく力強かった。
汗をぬぐった布を水で浸し体を噴き上げる。
無造作に乱れた赤髪を鬱陶しそうにかき揚げ、疲れた体を床に放り出す。
-武器の持つ本質をイメージしろ、そして物語を描くのだ-
鉄を打つ時は必ずと言っていいほど、父が残した言葉が頭を支配する。
父は鍛冶に誇りを持っていた。
父は武器に希望を持っていた。
「くっだらない」
私から全てを奪った男。
母を捨て、家庭を捨て、私から女である事を奪い、ただの鉄打つ化物と変えた男。
それが父親。
恨んでも恨み切れない男。
それでも捨てられない家族としての唯一の絆、それが鉄と炎。
「武器は武器、所詮人殺しの道具じゃないか」
打たれた鉄は冷水で強制的に冷やされて固まっていった。
打ち続けた女性の心もまた、同じく冷たく固まっていった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる