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第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)
第十五話「エピローグ」
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そこは暗い場所だった。
暗く、まるですべてのよどみが澱のように堆積した場所……。
人が足を決して踏み入れるべきでない場所……。
だが、そこには以前とは違う空気が若干漂っていた。
そこに、ひとりの男が立っていた。
灰色のロ-ブを頭からすっぽりと被り、見るものもいないその場所ですら、すべてからその身を隠すように……。
「おやおや、いつまでも騒ぎが起こらないと思えば、こんな事になっていたのか。やっぱり、魔物は魔物か。物の役にも立たなかったな。せっかくあの時、テューポーンから奪っておいたのにな」
以前、男が地面に突き刺した錫杖はその場所から消え失せていた。
そして、男がかけていた保険のひとつ、キマイラが倒されていた事に男は驚きを隠せなかった。
「どんなにランクが高かろうが、普通の人間にはどうすることも出来ないはずなんだが、なっと!」
そして保険の二つ目は、壁面に埋め込まれた魔石にあった。
その埋め込まれた魔石を引き抜き、男は自身の魔力をその魔石に込め始める。
「んっ!?これは……なるほど、そういう事か。やっぱり生きてたんだな。アスタロト……」
そう呟いた男は光の加護に包まれ大軍の指揮を最前線で執った同胞を思い出していた。
かつての同胞に思いを馳せていた男は、しかし次の瞬間には既にその場で姿を見ることはかなわなかった。
残されたその場所には、これまで長く続いてきたものと同じ静寂が落ちていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『まぁ、今回は何かが動いてるって事が分かっただけでも良しとするか』
そうお気楽に話す黒猫の主人に答えて、
「そうですね。いくらタロ様でも巧妙に仕組まれては対処が難しくなるかもしれませんし。」
『おいおい、今は只の猫なんだから、あんまり期待するなよ』
そう謙遜しながらも、アリスの言葉に悪い気はしないタロだった。
『しかし、今回はアリスのわがままに付き合って良かったって事で、結果オーライだな』
そう言ったタロの言葉を聞いたアリスは、すっかり忘れていたある事を思い出した。
「あっ」
『ん?どうした、アリス?』
「……食べてない……」
『え?食べてない?』
「モリーユ茸食べてないです……」
『えっ……あぁ、そう言えば食べてる暇なかったな……』
アリスに言われ、タロもその事実に気づいた。まさか、町に戻ることも無く、そのまま旅に出るとは想定していなかったのでそれは不可抗力なのだが、それをアリスが納得するかはまた別問題であった。
「タロ様、すぐに町に戻りますよ」
『いや、もう無理だから。今更、町には戻れないから、今回はあきらめろ。来年、また行けばいいじゃないか』
今、モリーユの町に戻っては、更にどんなトラブルに巻き込まれるかわかったもんじゃないタロは、必死にアリスを説得する。
「私のモリーユ茸が……すべてタロ様のせいです!」
『えぇ~、俺のせい!?』
いきなり矛先が向いた事に驚きを隠せないタロは、仕方なかったことを強調してアリスのご機嫌伺をするのである。
「あんな依頼受けなければ良かったのに」
『それは……仕方ないんじゃないの?』
「いえ!タロ様のせいなんです!今夜はご飯抜きです!」
『嘘だろ!?』
従者のとんでもない発言に目を見開く黒猫だった。
「……ふぇ~、私のモリーユ茸~」
『そこまで好きなのかよ』
若干引き気味につぶやくタロをしり目に、アリスの嘆きはこだまするのであった。
【冒険者ギルドと神々の遺産 ~完~ 】
暗く、まるですべてのよどみが澱のように堆積した場所……。
人が足を決して踏み入れるべきでない場所……。
だが、そこには以前とは違う空気が若干漂っていた。
そこに、ひとりの男が立っていた。
灰色のロ-ブを頭からすっぽりと被り、見るものもいないその場所ですら、すべてからその身を隠すように……。
「おやおや、いつまでも騒ぎが起こらないと思えば、こんな事になっていたのか。やっぱり、魔物は魔物か。物の役にも立たなかったな。せっかくあの時、テューポーンから奪っておいたのにな」
以前、男が地面に突き刺した錫杖はその場所から消え失せていた。
そして、男がかけていた保険のひとつ、キマイラが倒されていた事に男は驚きを隠せなかった。
「どんなにランクが高かろうが、普通の人間にはどうすることも出来ないはずなんだが、なっと!」
そして保険の二つ目は、壁面に埋め込まれた魔石にあった。
その埋め込まれた魔石を引き抜き、男は自身の魔力をその魔石に込め始める。
「んっ!?これは……なるほど、そういう事か。やっぱり生きてたんだな。アスタロト……」
そう呟いた男は光の加護に包まれ大軍の指揮を最前線で執った同胞を思い出していた。
かつての同胞に思いを馳せていた男は、しかし次の瞬間には既にその場で姿を見ることはかなわなかった。
残されたその場所には、これまで長く続いてきたものと同じ静寂が落ちていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『まぁ、今回は何かが動いてるって事が分かっただけでも良しとするか』
そうお気楽に話す黒猫の主人に答えて、
「そうですね。いくらタロ様でも巧妙に仕組まれては対処が難しくなるかもしれませんし。」
『おいおい、今は只の猫なんだから、あんまり期待するなよ』
そう謙遜しながらも、アリスの言葉に悪い気はしないタロだった。
『しかし、今回はアリスのわがままに付き合って良かったって事で、結果オーライだな』
そう言ったタロの言葉を聞いたアリスは、すっかり忘れていたある事を思い出した。
「あっ」
『ん?どうした、アリス?』
「……食べてない……」
『え?食べてない?』
「モリーユ茸食べてないです……」
『えっ……あぁ、そう言えば食べてる暇なかったな……』
アリスに言われ、タロもその事実に気づいた。まさか、町に戻ることも無く、そのまま旅に出るとは想定していなかったのでそれは不可抗力なのだが、それをアリスが納得するかはまた別問題であった。
「タロ様、すぐに町に戻りますよ」
『いや、もう無理だから。今更、町には戻れないから、今回はあきらめろ。来年、また行けばいいじゃないか』
今、モリーユの町に戻っては、更にどんなトラブルに巻き込まれるかわかったもんじゃないタロは、必死にアリスを説得する。
「私のモリーユ茸が……すべてタロ様のせいです!」
『えぇ~、俺のせい!?』
いきなり矛先が向いた事に驚きを隠せないタロは、仕方なかったことを強調してアリスのご機嫌伺をするのである。
「あんな依頼受けなければ良かったのに」
『それは……仕方ないんじゃないの?』
「いえ!タロ様のせいなんです!今夜はご飯抜きです!」
『嘘だろ!?』
従者のとんでもない発言に目を見開く黒猫だった。
「……ふぇ~、私のモリーユ茸~」
『そこまで好きなのかよ』
若干引き気味につぶやくタロをしり目に、アリスの嘆きはこだまするのであった。
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