黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第十四話「エルミアの報告書」

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 それから四日後。

 領都軍を含む、およそ三百名の討伐隊がモリーユのダンジョンに到着した。

 討伐隊を率いるのは、冒険者ギルドのマスター、レイモンドだった。本来、軍と冒険者は別物であり、ギルドマスターとは言え軍属に対して命令など出来る立場では無いのだが、こと魔物討伐に関しては、スペシャリストである冒険者がイニシアチブを取ることが慣例となっていた。特にスタンピードのような災害クラスの事案に対しては、軍も積極的に協力する姿勢を見せていた。

 今回の調査でエルミアにより報告された内容は驚愕に値するものだった。魔法に対する強力な耐性を持った未知の魔物の存在、魔物が魔物を襲うという状況、そして最終5階層が今回未確認であるという事実……早急に事態を収束させるためにも一刻も早く対処することが望まれたが、最短での手配を整えてもこの日数がかかった事に歯噛みしたエルミアだった。

 今回の調査で負傷したラルフとクラークは、この討伐には参加できなかった。特に、ラルフに至っては一時生命の危険もあったが、アリスの施した応急処置が功を奏し、今は容体が安定していた。
あの時アリスが居なければ、今頃はラルフはもちろん、調査隊は全滅の憂き目にあっていたかもしれなかった。そう考えると、自分たちは運が良かったと感じざるを得ないエルミアであった。
ともあれ、迫り来るであろう危機を排除する為、討伐隊はダンジョンへと侵攻するのであった。

 討伐隊が目にしたのは、何もない空間だった。

 ダンジョン二十階層。

 あの時、エルミアは地上へ転送される直前、確かに無数に光る赤い魔物の目を見た。だからこそ、急いでここへ戻る事を望んだのだ。だが、そこには何も無かった。

 正確には、既に何も無かった、という方が正しかったかもしれない。

 討伐隊が下層の十六階層から目にしていたのは、明らかに何らかの戦闘があった痕跡だけだった。それも、ごく近い時期に激しい戦闘が行われた痕跡を。強力な魔法が使われた痕跡を。多くの魔物が倒された痕跡を、随所に垣間見た。

 討伐隊参加者の表情には、いつの間にか畏怖の表情が現れていた。

 二十階層のダンジョンマスターの部屋まで確認した討伐隊は、再度各階層の状況を確認しながら、地上へ戻る逆ルートでの帰還が決定し、即時実行に移された。

 軍属組のトップとして参加していた騎士はレイモンドに近寄り、そっとつぶやいた。

「どこの誰かは知らんが、礼を言うべきなんだろうな?」

「我々もこれは想定外だった。誰がやったかも皆目見当がつかんよ」

「……まぁ、そういう事にしておくさ。町に被害が出なければそれが一番いいんだからな、どんな手段を使っても、な」

 そう言うと、騎士はレイモンドから離れ、自分の部隊へと戻っていく。

 それを見送るレイモンドにエルミアは話しかけた。

「これ、アリスだと思う?」

「このタイミングで、アリス以外に誰がいると思うか?」

「そうよね……私、すごいの引き当てちゃった?」

「まぁ……聖が出るか邪が出るかはまだ分からんが、とりあえず今回の事は関係者に箝口令をしいといてくれ。下手な詮索をして、アリスとの関係を壊したくないからな」

「そうね。私たちも知らぬふりをしておきましょうか」
そう言うと、エルミアは楽し気に笑った。

「どうした、急に笑い出して」

「いえ、ちょっと思い出しちゃって。あの子、たぶん忘れてたわよね」

 そう言って、エルミアは銀髪の少女に思いを馳せた。

 その後、討伐隊の捜索によりダンジョンの安全が宣言されると同時に、ダンジョンへの立ち入り制限は解除されたのだった。


 その頃、冒険者ギルドの救護室で、ようやく目覚めたラルフは、

「……知らない天井だ……」
 と呟いた。

 次の瞬間、
「……って、えっ?あれっ!?……いってー!」
 反射的に飛び起きようとして、猛烈な痛みと倦怠感でベッドに崩折れた。

「ラルフ!目を覚ましたのか?良かった。…ちょっと待ってろ」

 近くに座っていたクラークが、慌ててラルフをベッドに寝かしつけた。

「悪い、クラーク。ここ、何処だ?」

「ここはギルドの救護室だ。お前、三日間も目を覚まさなかったんだぞ」

「三日!?」

 目が覚めたばかりでまだ状況を把握しきれていないラルフにクラークが言った。

「あとちょっと戻って来るのが遅かったら、命は助かっても障害が残ったかもしれないって治癒術師のばあちゃんが言ってた。あと、事前に解毒がされてたから何とかなったけど、それがなかったら死んでたって話だ」

 クラークの話を聞いて若干顔を引きつらせながら、

「あ~ぁ、せっかくいいとこあの娘に見せられると思ったのに、結局見せ場なしかよ……」
とラルフは嘆いた。

「……あの場でそんなこと考えてるお前、ある意味尊敬するよ」
そんな朋友のブレない思考を呆れながらも、何があっても変わらない逞しさを喜んだクラークだった。

「だって可愛い子だっただろ?」
 ラルフはそう言いながら、

「次にあの子に会う時はさ、Sランクとかになってて、絶対あの娘のハートをつかんでやるぜ!」
 そう誓うのだった。

「お前には負けるよ」

 苦笑しながら返すクラークだが、ラルフが無事に生還できた事に安堵するのだった。

 後年、このふたりがSランク冒険者としてアリスの窮地を救うことになるのだが、それはまた別のお話。
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