黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第十三話「後始末」

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 エルミア達調査隊を見送った後、おもむろにタロが口を開いた。

『さて、それじゃ行ってみようか』

「はい、ご主人様」

 そう言うと、アリスが肩口の黒猫から受け取った魔力を使って転移魔法を発動した次の瞬間、先ほどまでいた十六階層へと進む通路に立っていた。

「先ほど見たので、間違いなくこの先にいますね」

 アリスはそう言うと、改めて探知系の魔法を発動させ、これから自分たちが進むべき方向を確認した。

『そうだな。それに、何だ?この空気に練りこまれたような禍々しいオーラは……』
 タロは自身の周囲に漂う空気に警戒した視線を送る。

『……で、どうなんだ?』

 そう問いかける主人に

「とりあえず強力なのを叩きこんでから進むのが得策ですね。正直、数えたくありません」

『えっ!?そんなに??』

「数もそうですけど、恐らく変異種が多数存在しますね。エルミアさんがそんな報告があるのに、変異種を見なかったと言ってましたから。探知でも、通常よりも明らかに魔力量が尋常では無い個体が散見されます」

 と、淡々と答えるアリスだった。

『数がそんなに多いのなら、得物も大きめのものを使った方が良いかもな』

「はい、今回はこれを使おうと思います」

 アリスがそう言うと、手元に光の粒子が集まり形を作り出し始めた。そして一際輝いた次の瞬間、アリスの手元には巨大なハルバートが握られていた。槍の部分だけでもアリスの身長の1.5倍程の長さがあり、そこに装備された斧は通常のそれの優に十倍はあろうかという巨大さだった。

『久々に見るな、それ』
 というタロの問いかけに、

「この格好では、これを使うと目立ちすぎますしね」
と返すアリス。

 アリスの手元に握られた巨大な得物は、とてもその少女に扱えるとは思えなかったが、片手で軽々と扱う自分の従者をみて、タロはうなった。

『エルミアたちには、とてもじゃないが見せるわけにはいかんな』

「ご主人様の貧相な〇〇よりはましだと思いますが?」

『いっぺん、お前の頭の中を見せてみろ!誰がこの瞬間にそんな卑猥な話をするか!そもそも俺のはそんなに貧相ではないわ!!』

 悪態をつきながら、調子の戻ってきた従者に若干の安堵を覚えるタロである。

 タロは軽く深呼吸をするとアリスに話しかける。

『とりあえず、やる事やっとくか』

「……ここでですか?」

『……お前が考えてることは想像つくが、そのピンク色の発想はしばらく置いとけ。先に進むぞ』

「ご主人様は恥ずかしがり屋ですね」

『そういう事じゃないよね!?』

「何わめいているんですか?置いていきますよ?」

『あー!もう!』

 いつもの調子が出てきた主従は16階層へと足を進め、その目に多数の魔物の群れを捉えた。その中には、アリスが探知した通り、通常種と明らかに違う個体が存在した。

『ああ、確かに変異種がいるなぁ。真っ黒いゴブリンなんか初めて見たわ』

 ご主人様の呑気な感想を聞きながら、アリスは準備を整えると主人に告げた。

「じゃ、行きますよ」

 ダンジョン深層部に降り立った時、タロとアリスは若干のダメージを負っていた。如何に強力な武器を使おうと、いかに強力な魔法を使おうと、数という暴力をすべて抑えることは難しいのだ。もっとも、他のものであれば絶対に突破することが叶わない状況を突破して、タロの被害が少し毛を焦がした程度、アリスの被害が若干の打撲と出血を伴う傷が数か所程度というのは、ほぼ無傷と言っても過言では無かった。

 そして、二十階層のフロアマスターの部屋で二人をを待っていたのは一体のオーガであった。しかしその姿は通常のソレとは余りにもかけ離れていた。本来赤黒い表皮は完全に黒くなり、体を覆う筋肉も通常の倍ほどにも見えるように分厚く体を包み込んでいた。体高はゆうにアリスの3倍はあった。

『どうやら、こいつが最終関門らしいが、なかなか骨が折れる相手だな』

「そのようですね。それにあのオーガを覆う禍々しいオーラ、何かありますね」

 タロの言葉にアリスが同意する。

『とりあえずこいつを始末しないと話が進まんな。それに、どうやらこいつ自身が結界の起動装置になってるようだな』

 タロは明確にこのオーガの役割を看破していた。

『たぶん、ここに今回の元凶があるんだろうな。アリス、あいつを倒せ』

「はい、ご主人様」

 手に持ったハルバートは、既にここに至るまでの戦闘で、赤く染まっていた。いったん、手にしたハルバートを地面に突き立て、黒猫の魔力を自らに取り込んだアリスは雷の槍を二本その手に掴んでいた。
おもむろに二本の雷を目の前のオーガに投げつけると、激しい爆発とともに爆音と土煙が辺りを覆った。

 その土煙が晴れるのを待たず、突然オーガの太い腕がアリスが居たあたりへと突き出される。

「まぁ、そう簡単にはいきませんよね」

 そう言いながら、既に場所を移動していたアリスは、改めて手にしたハルバートで伸びてきたオーガの
腕を切り落とすべく振り下ろす。

ガン!

 だが、攻撃を受けたその腕は固い反響音を立ててハルバートをはじき返した。

「……まったく、無駄に硬いですね」

 特に気にした風もなく呟いたアリスを、土煙が晴れて見えるようになったオーガの顔が馬鹿にして笑っているのが見えた。

「少し、癪に障りました。」

 そう言ったアリスは、ハルバートに手をかざして二言三言呟くと、

「あなたが思うほど頑丈ではない事をおしえてあげますよ」

 そう言って、再びハルバートを今度は横なぎにオーガの足へ叩きつけた。
この武器では自分に傷をつけることは出来ないとタカを括ったオーガは特によけるそぶりも見せず、相手の攻撃が止まった瞬間を狙って身構えた。

ブシュッ!

 ハルバートが当たった瞬間、打ちつけられたその左足が切り落とされ、オーガは苦痛の叫びをあげる。

「ギャァァァ!!」

 片足を失いその場に倒れこんだオーガは、自らの不利を察してその場からとっさに撥ね退けようとしたが、時すでに遅しだった。片足を切り落としたアリスは、そのまま倒れるオーガの首を切り落とすべく動いていたのだ。オーガがその事に気づいた時には、既にその頭部と体は切り離された後だった。

『……なんか、最後呆気なかったんだけど……』

「ご主人様、何かご不満でも?」

『……いや、何もないです』

 若干、釈然としないものを感じながら、当たりを見渡していたタロは、その部屋のある部分から紫の魔力のようなものが漏れ出しているのに気づいた。

『アリス、ここから魔力のようなものが漏れ出している。どうも、これが元凶のように思えるんだが、どこから来てるんだ?』

 そう言ってその周辺を探っていたタロは、ふと地面に埋まったあるものに目を引かれた。

 それは、なんでもない普通の石に見えた。しかし、タロがその石に魔力を流すと、青い光を放って暫く光り、また元の石に戻った。そしてその後には、壁にそれまで無かった入り口が口を開けているのだった。

「タロ様、これは?」

『昔な、人に見られたくないものや見せるわけにはいかないものを自分しか入れない場所へ保管して、そこに入るためのカギとしてこういう物を作った奴がいたんだよ。魔力は使うものによって、それぞれ違うからな。自分の魔力を通すことで、そこへの扉を開く、という事なんだが…なんでこれがここにあるのかが問題だ』

「……つまり?」

『これは俺のものだ』

「……ご主人様、ここにそんな人にも見せられないような如何わしいものを保管してらっしゃったんですか?」

『ちがう!如何わしいものなんか誰が保管するか!ここにも初めて来たわ!てか、今問題なのはそこじゃない!!』

「ご主人様、何をさっきから叫んでるんですか?先に中に入りますよ?」

『……お前としゃべってると疲れるよ……』

 そんな下らないやり取りの後、二人は入り口の奥へと足を進めるのだった。




 そこは、あまり大きくない部屋が二つ繋がっている構造の部屋だった。奥側の部屋の中央には、このダンジョンのコアが鈍い光を放っていた。

『つまりこれがこのダンジョンのコアって事か』

 そう呟きながら、視線の先にあるコアを見やると、タロはすぐに手前に広がる若干広めの空間を見渡した。

 何もない空間。しかし、その中央付近から先ほど感じた禍々しい魔力が滲み出ている事を感じた。

 素早く四隅に視線を投げると、

『アリス、その角の四角い石柱のようなものをすべて破壊しろ』
 そう、アリスに命じた。

「はい、タロ様。お待ちください」

 主人の命に従って、自身の膝丈ほどしかない四角い石の塊をすべて破壊すると、それまで何も無かった部屋の中央に、禍々しいオーラを放つ一本の錫杖が現れた。

『これは……!?』

 それを見たタロは険しい表情を面に浮かべた。

「タロ様、これは何ですか?」

 主の表情から、これが天界に関係するものである事を察したアリスは、主に問うた。

『これは簡単に言えば神の加護を与えるものさ。あの戦いの折、この錫杖の力によって力の強化を行ったり、精神力を高めたりしてたのさ。この錫杖が出す音が、戦うものに力を与えたから、戦いの部隊長が常にその手に持っていたのを憶えているよ』

「それではこれは……」

『言ってみれば、神の遺物と言えるな。だが、今、これから発せられている禍々しいオーラは、あの時のものとは全く違うものだ』

 そう言って、苦々しい表情を作ると、

『おそらく、あの変異種たちは、この錫杖から発せられるこのオーラの力によって、あのような変化を遂げたんだろう。俺達には影響はないが、普通の人族や亜人であれば、魔物と同じような影響がある可能性が高いから、こいつをこのまま放置しておくわけにはいかんのだが……さて、どうしたもんか』

 そう言って考え込んだ主に

「破壊すればよいのであれば、私がやりますが?」

 そう答えたアリスに、黒猫は困ったように答えた。

『一応、これは神器だから、ちょっとやそっとの事では破壊できないな。仕方がないから、厳重に封印してしばらく保管しておくことにするか』

 そう言う主の言葉を聞き、アリスが答える。

「また、ご主人様の人には見せられないコレクションが増えるんですね?」

『だから、その言い方。止めて?ほんと……泣くから』

「私がご主人様をしっかり慰めますから泣いても大丈夫ですよ」

『いや、そもそもの原因はお前だから』

 また、話が脱線しかけたが、取り合えず、やるべきことを先に済まそうと、

『アリス、このままではお前はこの錫杖を手にすることは出来ん。聖魔法で浄化しいったん封印してくれ』

「承知しました。性魔法でいったん浄化ですね」

『ちょっと言葉に違和感を持ったんだが、分かってるんだよね!?』

「あなたの従者が信じられないのですか?」

『いや、そうじゃないんだけど……』

 そんなやり取りをしながら、アリスが浄化された錫杖に手触れると、次の瞬間には光の粒子に変わり、その場から消え失せた。

『錫杖は当面、このままだな。後は……』

 タロはそう言うと、

『アリス、さっきの入り口から外に出るぞ』

 そう言って、アリスと共に先ほどのフロアマスターの部屋に戻ると、先ほどまであったダンジョンコアの部屋へ通じる入り口は、跡形もなく消え失せた。

『やっぱり、機能はそのまま残ってるな』
 と納得していた。これは、入る時に使った石の封印の基本的な機能で、その部屋から出ると自動でまたロックされる仕組みになっていたのだった。

『まぁ、もうしばらくこのダンジョンのコア部屋については、内緒にしとけだな。色々考えるべきことはあるが、一つだけはっきりしている事があるな』

「はっきりしている事?」

 タロの言葉に疑問を返すアリスにタロは答えた。

『間違いなく、俺たちの関係者が後ろに潜んでいる』
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