黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

文字の大きさ
上 下
25 / 120
第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第十二話「ダンジョン~雷鳴~」

しおりを挟む
 次の挙動に移っているアリスには回避する術は無く、そのまま毒蛇の餌食になるかと思われたその刹那……。

 ドンッ!

 アリスは何かに突き飛ばされ、地面に倒れこんだ。

 慌てて振り返ったアリスが目にしたものは、毒蛇の一撃を受けて崩折れるラルフの姿だった。

「ラルフー!!」

 倒れたラルフに駆け寄ろうとするクラークへ、キマイラの攻撃が加えられ、クラークも吹き飛ばされる。

「ぐはっ!」

 鋭い鉤爪を打ち付けられたクラークも背中を切り裂かれ、少なくない出血を起こした。持ち前のタフさでヨロヨロと立ち上がるが、既に戦える余力はあるようには見えなかった。

 いち早くラルフのもとへ駆け寄ったレイシャが治癒魔法をかけているが、

「ダメ!ハイキュアもハイヒールも効かない!このままじゃ、ラルフが死んじゃうわ!!」

 それを聞いたアリスは、
「エルミアさん!申し訳ないんですが、少しだけ時間を稼いでください!」
と、少し離れたところでキマイラをけん制しているエルミアに叫びながら、ラルフの元へ駆け出した。

「あんまり頑張れないから、急いで!」

 アリスの動きを察知したキマイラの気を引くため、エルミアがサンダーランスを打ち込みながら展開する。

ラルフの元にたどり着いたアリスは、
「少しどいてください」
 とレイシャと入れ替わり、ラルフの胸に手をかざした。ラルフの顔色はどんどん青ざめていくようだった。

 アリスの手が触れたところから一瞬眩い光が溢れたが、それはすぐに収束した。

「レイシャさん、もう一度ハイヒールをお願いします」

 そう言われたレイシャはすぐにハイヒールをラルフにかけた。すると、まるで死人のように白い顔をしていたラルフの顔に、わずかながら生気が戻った。

「体に入った毒性はとりあえず消えたはずです。ただ、まわりの早い毒だったようです。今のところは大丈夫ですが、早めに高位の治癒魔法をかけないと危険です」

「あたしは中級のハイヒールまでしか使えないから、急いで町まで戻らないとまずいって事ね」

 状況を正しく理解したレイシャは表情を引き締めると、
「とにかく、あいつを何とかしないとどうにもならない!アリスちゃん、何か方法は無いの?」
 そう言ってアリスを見たレイシャだったが、次の瞬間、言葉を失った。

 これまで見てきたアリスと明らかに雰囲気が違う事に気づいたのだ。

「クラークさんの様子も見ておいてください。」

 そう言ったアリスは、レイシャに近づくと耳元で何事か囁いた。

「……分かった。何とかやってみる」

「お願いしますよ」

 アリスはおもむろに立ち上がると、エルミアの近くへ移動した。キマイラは、先ほどから翼を使って、中空に浮いていた。

「ラルフの様子は?」

 キマイラを睨みつけながらエルミアはアリスに聞いた。

「あまり芳しくありません。とりあえず、早めに高位の治癒魔法をかける必要があります。」
 そう言うアリスもキマイラを睨みながら、

「少し耳を貸してください」
 と言うと、エルミアに近づき小声で何かを話した。

 それを聞いたエルミアは驚いた表情を浮かべたが、次の瞬間には表情を引き締め、
「分かった。アリスに任せるよ」

 そう言って、アリスから距離を取った。

 自分への明らかな敵意を強くしたアリスに対して、キマイラは地上に降り、睥睨するようにアリスをねめつけた。そのアリスの肩口にタロが飛び乗った。

『どうやるんだ?』

 聞いた主人に、

「昔、タロ様に聞いた方法を使おうかと思います。」

 アリスはそう答えた。それを聞いたタロは、

『そうか、だが危険だぞ。十分注意しろよ』

 そう言って再び地面へと飛び降り、後方へ飛び退った。

 タロが肩口に乗っていた際に魔力を受け取ったアリスは、その両手にファイアボールを作り出していた。キマイラは特に気にした様子も見せず、アリスの方へ近づいた。次の瞬間、アリスは作り出したファイアボールをキマイラにでは無く目の前の地面に向かって投げつけた。爆発が起こり、当たりには白い煙が立ち上った。キマイラが自分を見失っている隙に側面からの攻撃をしようと、目の前の煙を迂回するように右に回ったアリスだったが、魔物もそれを読んだように出現地点で迎え、獲物が自身の目の前に現れるやブレスを吐くために口を大きく開けた。

 その瞬間。

「今です!」

「分かってるよ!」

 叫んだアリスに呼応するように、アリスの背後からレイシャが渾身の力で投げたショートソードがキマイラの顔めがけて飛んだ。

 アリスが陰になって気づくのが遅れたキマイラの口に深々とショートソードが突き刺さった。

「グルァァァァ!」

 叫び声をあげるキマイラを横目にアリスが叫びをあげる。

「エルミアさん!」

「サンダーボルト!」

 その声に合わせ、エルミアが詠唱を終わらせていた魔法を発動する。サンダーボルトは中級雷系魔法だが、その特徴はふたつ。ひとつは、速さ。発動して目標への到達速度は全魔法中最速と言って良かった。

 そしてもうひとつは、込める魔力で威力を調節できる事だった。少ない魔力で発動すれば、相手も痺れさせることも可能だが、多くの魔力を込めることで、相手をまさに黒焦げにする事も可能だった。数ある攻撃系魔法の中で唯一そのような特性を持った魔法を、かつてのエルミアは自身の戦いの切り札として使っていた。そして今、サンダーボルトはまごうかたなくキマイラに突き刺さったショートソードに命中し、その威力を魔物の体内へと送り込んだ。エルミアの今持てる最大魔力を込めた攻撃を。

「ギャァァァ!!……」

 断末魔の叫びをあげたキマイラは、大きな音と共にその場にその体を倒し、その後動くことは無かった。

「やっ……た?」

 しばしの沈黙の後、レイシャの呟きを聞いた面々は、ようやく魔物を倒した事を知った。

 死闘を制した面々だったが、その場で休息する時間は無かった。

 ラルフの容体は一刻を争う状況だったうえに、クラークも重傷を負い、エルミアやレイシャにも疲労の色は濃かった。

 少しでも早く地上に出て、町を目指す必要のあった調査隊の面々は、アリスがクラークに肩を貸し、エルミアとレイシャがラルフを抱える形で、転移魔法陣のある次の部屋へ移動するのだった。

 魔法陣のある場所は、次の16階層へ向かう通路の途中だったのだが、地上へ向かう為の魔力をレイシャが流した刹那、エルミア、レイシャ、アリス、タロはそれを目にした。自分たちを見つめる無数の赤い目が遠く16階層から自分たちを見ている事を。その光景にエルミアは、一刻も早く討伐隊を編成しなければならないと決意し、地上へと帰還した。

 地上へ帰還したエルミアは、早速その場にいたギルド職員に急ぎのメッセージを渡し、一足先にレイモンドへの報告に走らせていた。また、ラルフの為にも早く町に戻る必要があるため、馬車の手配を急がせていた。

 そんな中、アリスはここでまた旅に戻る事をエルミアとレイシャに伝えたのだった。

「この後は、本格的な討伐ですよね?さすがにそれには参加できませんし、かえってお邪魔になるといけませんから、今年はこれで失礼します」

 そう言うアリスに聞きたいことが山のようにあるエルミアではあったが、アリスの事は詮索しないと約束した手前、ぐっと飲みこむのであった。そしてこう告げた。

「アリスがいてくれて本当に良かった。私たちが生きて帰ってこられたのも、アリスのおかげだわ。本当に感謝している」

 そう告げられたアリスもまた、エルミアに言葉を返した。

「いえ、こちらこそありがとうございました。特にラルフさんには助けられました。感謝していたと伝えてください」

「わかった、伝えておくわ」

 そう言って、馬車に眠る若者に二人は視線を送った。

「次に会った時には、あたしの訓練に付き合ってよね?約束だよ、アリスちゃん!」

 そう笑いながらレイシャも馬車に乗り込んでいき、またクラークも自分の未熟さを知ったと言い、次に会う時までにはもっと自分を高めていくと誓っていた。

 想像以上に過酷な調査となったが、その結果は十分に意義のあるものになると実感できるものだった。
その成果を取りこぼさないようにするためにも、今は急ぎ町へ戻るエルミア達を一匹と一人は、その馬車が見えなくなるまで見送った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

処理中です...