21 / 120
第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)
第八話「ダンジョン~幕間~」
しおりを挟む
その後、数回の魔物の集団との遭遇があったが、四階層で遭ったほどの数の集団は無く、危なげない対処でその集団を殲滅していった。
それらの魔物の集団にも多くの魔物に抉れた傷があった他、中には足や手を食いちぎられたような傷もあり、また火傷のようなもの負った魔物も存在した。いよいよ魔物を襲う何かが居る可能性が高まったのだった。
調査隊は十階層フロアマスターの部屋へとたどり着いていた。
「とりあえず、今日はここで野営しましょうか」
エルミアがそう告げると、各々分担して野営の準備が行われた。
部屋の中央に焚火を用意すると、それを囲むように調査隊のメンバーは腰を下ろした。
今日の食事は携行用の干し肉と固いパン、そして焚火の火を使って暖められた簡素なスープであった。
「アリス、あなた彼方此方を旅しているなら、今回のような事をどこかで聞いていない?」
食事をしながらエルミアはアリスに今回の異常と似たことを聞いた事が無いか尋ねた。
「スミマセンが聞いたことないです。冒険者では無いのでダンジョンの事に詳しいわけでは無いですが、
立ち寄る町でそのような事があれば何かの情報は耳に入るものです。特に、占い師の耳にはお客様のいろんな情報が入ってくものですからね」
「そうよね。私も長く冒険者をやっていたけど、聞いたことないわ」
そう呟くエルミアに続いて、レイシャも疑問の声を上げる。
「でもさ、あの傷ってなんの魔物の傷なんだろうねぇ?あたしもいろんな魔物を狩ってきたけど、あの大きさであんなに抉れる爪と牙とか持ってる魔物って思いつかないんだよね。しかも、なんか火傷してるのとかいるし、火を吐く魔物なんかドラゴン以外思いつかないんだけど?」
「それ、おとぎ話の話ですよね?」
レイシャのつぶやきにラルフが返す。
この世界にもドラゴンは存在する。ただし、人間とは接触しないよう、海の彼方にドラゴンだけが住まう孤島が存在すると語られるだけで、実際にドラゴンを見たものはいない。現在の常識では、ドラゴンは物語の中にだけ存在する最強の魔物であった。
他の面々もあんな傷をつける魔物に心当たりはなく、謎は深まるばかりだった…1匹と一人を除いては。
おもむろに立ち上がるアリスにレイシャが何気に話しかける。
「アリスちゃん、どうした?お花摘みに行くの~?」
とにやけ顔で聞くレイシャに
「そんな事、人前で言わないでください」
と、若干低いトーンで話し、その場を離れる。
「何ですか?お花摘みって?」
と不思議な言い回しをするレイシャに尋ねるラルフとレイシャ本人をたしなめるエルミアの声を後ろに聞きながら、アリスとタロは皆の視線から隠れる小さな岩の陰にかがみこんだ。
「あの傷、やっぱりアレですよね?」
そうアリスが黒猫に問うと、
『ほぼ間違いなくアレだな。ただ、普通には生まれないし、この世界にはいないはずだがな』
そう主人は答えた。
かつての神々の戦いでも投入された生物兵器と言っても過言ではない強力な魔物。その口からは強力な火炎が吐き出され、辺り一面を焼き尽くす死への導き手。あらゆる魔法に対する耐性をもち、強靭な肉体で敵を打ち倒す力を宿すもの。
その名は『キマイラ』。
肉食獣の頭と前足、山羊の胴体と毒蛇のしっぽを持ち、グリフォンの翼を身につけていた。
タロとアリスでも、通常の方法では倒すのがかなり骨の折れる相手ではあった。ましてや、普通の人族やハーフエルフでどうにか出来る相手では無かった…キマイラであれば。
『どちらにしろ、現物を見んことには始まらんな』
「どうしますか?みんなを連れて戦うのは難しいと思いますが……?」
しばし黙考した黒猫はおもむろにアリスを見やると、
『あまり俺たちの力を見られるわけにもいかないが、エルミアもとりあえずここで帰るとは言わんだろう。ここまで何かがある証左があるんだから、何かの確証が得られなければ帰る事もかなわんだろうしな。行けるところまでこのパーティーで行こう。その後は少し考えがあるから、それまで待て』
「分かりました、タロ様」
そう言っておもむろに立ち上がり、皆のもとへ戻ろうとしたアリスに
『少し長くなったから、レイシャに勘違いされるかもしれんな』
とタロは笑いながら何気ない感じで話したが、
「……乙女に対して言うことが下品すぎますよ。この腐れ黒猫が」
「……スミマセンでした」
汚物を見るような視線を浴びせられたタロは反論の余地なく謝罪の言葉を口にするのだった。
それらの魔物の集団にも多くの魔物に抉れた傷があった他、中には足や手を食いちぎられたような傷もあり、また火傷のようなもの負った魔物も存在した。いよいよ魔物を襲う何かが居る可能性が高まったのだった。
調査隊は十階層フロアマスターの部屋へとたどり着いていた。
「とりあえず、今日はここで野営しましょうか」
エルミアがそう告げると、各々分担して野営の準備が行われた。
部屋の中央に焚火を用意すると、それを囲むように調査隊のメンバーは腰を下ろした。
今日の食事は携行用の干し肉と固いパン、そして焚火の火を使って暖められた簡素なスープであった。
「アリス、あなた彼方此方を旅しているなら、今回のような事をどこかで聞いていない?」
食事をしながらエルミアはアリスに今回の異常と似たことを聞いた事が無いか尋ねた。
「スミマセンが聞いたことないです。冒険者では無いのでダンジョンの事に詳しいわけでは無いですが、
立ち寄る町でそのような事があれば何かの情報は耳に入るものです。特に、占い師の耳にはお客様のいろんな情報が入ってくものですからね」
「そうよね。私も長く冒険者をやっていたけど、聞いたことないわ」
そう呟くエルミアに続いて、レイシャも疑問の声を上げる。
「でもさ、あの傷ってなんの魔物の傷なんだろうねぇ?あたしもいろんな魔物を狩ってきたけど、あの大きさであんなに抉れる爪と牙とか持ってる魔物って思いつかないんだよね。しかも、なんか火傷してるのとかいるし、火を吐く魔物なんかドラゴン以外思いつかないんだけど?」
「それ、おとぎ話の話ですよね?」
レイシャのつぶやきにラルフが返す。
この世界にもドラゴンは存在する。ただし、人間とは接触しないよう、海の彼方にドラゴンだけが住まう孤島が存在すると語られるだけで、実際にドラゴンを見たものはいない。現在の常識では、ドラゴンは物語の中にだけ存在する最強の魔物であった。
他の面々もあんな傷をつける魔物に心当たりはなく、謎は深まるばかりだった…1匹と一人を除いては。
おもむろに立ち上がるアリスにレイシャが何気に話しかける。
「アリスちゃん、どうした?お花摘みに行くの~?」
とにやけ顔で聞くレイシャに
「そんな事、人前で言わないでください」
と、若干低いトーンで話し、その場を離れる。
「何ですか?お花摘みって?」
と不思議な言い回しをするレイシャに尋ねるラルフとレイシャ本人をたしなめるエルミアの声を後ろに聞きながら、アリスとタロは皆の視線から隠れる小さな岩の陰にかがみこんだ。
「あの傷、やっぱりアレですよね?」
そうアリスが黒猫に問うと、
『ほぼ間違いなくアレだな。ただ、普通には生まれないし、この世界にはいないはずだがな』
そう主人は答えた。
かつての神々の戦いでも投入された生物兵器と言っても過言ではない強力な魔物。その口からは強力な火炎が吐き出され、辺り一面を焼き尽くす死への導き手。あらゆる魔法に対する耐性をもち、強靭な肉体で敵を打ち倒す力を宿すもの。
その名は『キマイラ』。
肉食獣の頭と前足、山羊の胴体と毒蛇のしっぽを持ち、グリフォンの翼を身につけていた。
タロとアリスでも、通常の方法では倒すのがかなり骨の折れる相手ではあった。ましてや、普通の人族やハーフエルフでどうにか出来る相手では無かった…キマイラであれば。
『どちらにしろ、現物を見んことには始まらんな』
「どうしますか?みんなを連れて戦うのは難しいと思いますが……?」
しばし黙考した黒猫はおもむろにアリスを見やると、
『あまり俺たちの力を見られるわけにもいかないが、エルミアもとりあえずここで帰るとは言わんだろう。ここまで何かがある証左があるんだから、何かの確証が得られなければ帰る事もかなわんだろうしな。行けるところまでこのパーティーで行こう。その後は少し考えがあるから、それまで待て』
「分かりました、タロ様」
そう言っておもむろに立ち上がり、皆のもとへ戻ろうとしたアリスに
『少し長くなったから、レイシャに勘違いされるかもしれんな』
とタロは笑いながら何気ない感じで話したが、
「……乙女に対して言うことが下品すぎますよ。この腐れ黒猫が」
「……スミマセンでした」
汚物を見るような視線を浴びせられたタロは反論の余地なく謝罪の言葉を口にするのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる