黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第五話「まさかの若葉」

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 ギルドマスターであるレイモンドには5歳年上の姉がいた。

 レイモンドとは似ても似つかず、近所でも評判の美女だった。
 レイモンドは、その美しい姉が大好きだった。
 姉もレイモンドの事をとても可愛がった。
 姉が結婚した時は、ホントに嬉しかったが、涙が止まらなかった。当時のレイモンドは13歳だった。
 長く子供が出来なかった姉夫婦だったが、結婚して10年目に待望の男の子が生まれた。
 レイモンドも両手を挙げて喜び、毎日のように姉夫婦の家に遊びに行っては、甥っ子の寝顔を眺めた。

 悲劇は突然訪れた。

 甥っ子が3歳の時、夫婦で領都へ出かけていった姉夫婦が、野盗に襲われ命を落としたのだ。
 姉は散々慰み者にされた挙句に殺されたと聞いた。
 不思議と涙は出なかった。
 その頃、既にAランク冒険者になっていたレイモンドは、ギルドの依頼で募集された野党討伐に参加した。
 その時のレイモンドの戦いぶりは、同じ討伐隊に参加した別の冒険者から人のそれでは無かったと語られた。

 残された甥っ子はレイモンドの両親、祖父母の手によって育てられた。
 今後、どうやってこの子が身を立てていくのか?そう考えた時には、既にレイモンドの考えは決まっていた。
 自分の大事なものを守るためには力が必要な世界だった。それなら、それを守る力をこの子に与えてやりたい。
 決して、姉のように理不尽な暴力に蹂躙されない人生を送らせてやりたい。だから、物心ついた時から、レイモンドは甥っ子を鍛えた。
 自分の父母にはやりすぎではないかと何度も言われたが、自分の考えを押し通した。
 もう二度と、姉の時のような悲しみを味わいたくないから。

 そう思っていたのに……。

 黒いメイド服の少女を見て固まっていたラルフだったが、はっとして自分の叔父に詰め寄った。

「お、おじ…いや、マスター、この女、いったい誰なんですか!?」

「今回の調査に同行してもらうアリスだ。俺やエルミアとも旧知の仲だ」
 と言葉を返しながら、甥っ子の様子を訝し気に見つつ、アリスに問いかけた。

「お前たち、知り合いだったのか?」

「知り合いましたよ、今朝。」

 そう答え汚物を見るような視線を2人に投げかけるアリスと、青ざめた顔でアリスを見つめる2人を見た瞬間、レイモンドは事情を察した。そしてドスの利いた声で入り口にたたずむ2人にこう告げた。

「お前たち、とりあえず扉を閉めて中に入れ。そして、そこに正座しろ」

 当の二人は、アリスの射貫くような視線にさらされ、更にレイモンドの怒りを含んだ声に促され、抗う事も出来ずに扉を閉めるとその場に正座した。

「ばっかもんがー!!」

一連の事情をアリスに聞かされたレイモンドの第一声はこれだった。こめかみの青筋がピクピクとうごめいている。

 説教しているレイモンドと説教を食らっている二人を横目に見ながら、しかしアリスは全く別の事を主人と小声で話していた。

「二人とも同い年とは思いませんでした。しかも18歳だなんて」

『うん。特にクラークには同情を禁じ得んな』

 そんな二人のやり取り、というよりアリスの独り言を聞いたエルミアがアリスの言葉をたしなめる。

「アリス、悪いわよ。いくらおっさんに見えるからって、18歳には見えないとか言っちゃあ」

「エルミアさん、私そこまで直接的に言ってませんが?」

何気にひどいエルミアである。

「「大変、申し訳ありませんでした!!」」

 どうでも良かったが、盛大に2人に謝罪され、とりあえず全てを水に流すことにしたアリスだった。

「重ね重ね申し訳ない、アリス。この通りだ」

「レイモンドさん、ギルドマスターが何度も頭を下げてはいけませんよ。私はもう気にしてませんから、顔を上げてください」

 当事者二人だけでは無く、自分も頭を下げるあたり、面倒見の良いマスターであることはうかがえるが、若干甥っ子に甘い所も感じるアリスだった。

 結局、当事者の二人には、今回の報酬はなし・調査隊での働き次第で冒険者資格をどうするか決定するという厳しいギルドマスター裁定が下った。いきなり崖っぷちに立たされた二人の若者は、硬い表情を浮かべたまま下を向いていた。

 冒険者ランクの詐称など、明るみになれば、即座に冒険者資格剥奪でもおかしくなかったのだが、まだ若い二人に立ち直る機会を与えたのは、レイモンドの温情裁定と言えた。

 それはそれとして、早急に出発しなければ事態が悪化する懸念があるため、若干の混乱はあったものの一行は早々にギルドを後にするのだった。

 モリーユのダンジョンは町から少し離れたところに位置し、徒歩では時間がかかるため、五人はギルドの準備した馬車で目的地へ急いだ。ある程度の階層を降りなければならないと考えられたため、野営の装備はギルドが準備を行った。調査の期間は最大でも三日間と通常よりかなりタイトなスケジュールだったが、事案の緊急性がその猶予を持たせなかった。

「あの、アリス……さん」

 その車中、ラルフは恐る恐るアリスに声をかける。

「何ですか?」

「その……黒猫も一緒に行くんですか?」

「そうですが、何か?」

「いえ、いいんですが、その……防具とか付けなくていいんですか?てか、なんでメイド服なんですか?」

「これが私の戦闘服だからですよ」

 問うた側からすれば取り付く島もないといったやり取りである。
 アリスからすれば当然のことを聞かれたのでありのままに答えただけ……なのだが、傍から見ていたエルミアに突っ込まれる。

「アリス、気持ちは分かるけど、もう許してあげて。ラルフ達も反省してるんだから」

「別に、もう怒ってもいませんよ。事実を言ったまでです」

「それはそうかもしれないけど……まぁ、いいわ。ラルフ達も、アリスはちょっとぶっきらぼうな所があるけど、別に怒ってるわけじゃないから、気にしなくていいわよ」

「なんか、若干気にかかる言い方でしたけど?」

「はい、細かいことは気にしない!」

 強引に会話を締めくくるエルミアであった。

『なんか、エルミアって見た目と違って中身は大雑把な感じがするな。まぁ、でもそこは大人の鷹揚さという事なのかな』

 というタロのつぶやきにアリスは、
「タロ様、エルミアさんのような大人の女がお好みなんですか?全く、油断も隙も無いですね」
と述べ、軽蔑の眼差しを送った。

『俺ちょっと感想を述べただけだよね!?』

 若干涙目のタロである。

 そんな、何気ない(?)やり取りをしながら、一行はダンジョンへ向かうのであった。
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