黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

文字の大きさ
上 下
18 / 120
第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第五話「まさかの若葉」

しおりを挟む
 ギルドマスターであるレイモンドには5歳年上の姉がいた。

 レイモンドとは似ても似つかず、近所でも評判の美女だった。
 レイモンドは、その美しい姉が大好きだった。
 姉もレイモンドの事をとても可愛がった。
 姉が結婚した時は、ホントに嬉しかったが、涙が止まらなかった。当時のレイモンドは13歳だった。
 長く子供が出来なかった姉夫婦だったが、結婚して10年目に待望の男の子が生まれた。
 レイモンドも両手を挙げて喜び、毎日のように姉夫婦の家に遊びに行っては、甥っ子の寝顔を眺めた。

 悲劇は突然訪れた。

 甥っ子が3歳の時、夫婦で領都へ出かけていった姉夫婦が、野盗に襲われ命を落としたのだ。
 姉は散々慰み者にされた挙句に殺されたと聞いた。
 不思議と涙は出なかった。
 その頃、既にAランク冒険者になっていたレイモンドは、ギルドの依頼で募集された野党討伐に参加した。
 その時のレイモンドの戦いぶりは、同じ討伐隊に参加した別の冒険者から人のそれでは無かったと語られた。

 残された甥っ子はレイモンドの両親、祖父母の手によって育てられた。
 今後、どうやってこの子が身を立てていくのか?そう考えた時には、既にレイモンドの考えは決まっていた。
 自分の大事なものを守るためには力が必要な世界だった。それなら、それを守る力をこの子に与えてやりたい。
 決して、姉のように理不尽な暴力に蹂躙されない人生を送らせてやりたい。だから、物心ついた時から、レイモンドは甥っ子を鍛えた。
 自分の父母にはやりすぎではないかと何度も言われたが、自分の考えを押し通した。
 もう二度と、姉の時のような悲しみを味わいたくないから。

 そう思っていたのに……。

 黒いメイド服の少女を見て固まっていたラルフだったが、はっとして自分の叔父に詰め寄った。

「お、おじ…いや、マスター、この女、いったい誰なんですか!?」

「今回の調査に同行してもらうアリスだ。俺やエルミアとも旧知の仲だ」
 と言葉を返しながら、甥っ子の様子を訝し気に見つつ、アリスに問いかけた。

「お前たち、知り合いだったのか?」

「知り合いましたよ、今朝。」

 そう答え汚物を見るような視線を2人に投げかけるアリスと、青ざめた顔でアリスを見つめる2人を見た瞬間、レイモンドは事情を察した。そしてドスの利いた声で入り口にたたずむ2人にこう告げた。

「お前たち、とりあえず扉を閉めて中に入れ。そして、そこに正座しろ」

 当の二人は、アリスの射貫くような視線にさらされ、更にレイモンドの怒りを含んだ声に促され、抗う事も出来ずに扉を閉めるとその場に正座した。

「ばっかもんがー!!」

一連の事情をアリスに聞かされたレイモンドの第一声はこれだった。こめかみの青筋がピクピクとうごめいている。

 説教しているレイモンドと説教を食らっている二人を横目に見ながら、しかしアリスは全く別の事を主人と小声で話していた。

「二人とも同い年とは思いませんでした。しかも18歳だなんて」

『うん。特にクラークには同情を禁じ得んな』

 そんな二人のやり取り、というよりアリスの独り言を聞いたエルミアがアリスの言葉をたしなめる。

「アリス、悪いわよ。いくらおっさんに見えるからって、18歳には見えないとか言っちゃあ」

「エルミアさん、私そこまで直接的に言ってませんが?」

何気にひどいエルミアである。

「「大変、申し訳ありませんでした!!」」

 どうでも良かったが、盛大に2人に謝罪され、とりあえず全てを水に流すことにしたアリスだった。

「重ね重ね申し訳ない、アリス。この通りだ」

「レイモンドさん、ギルドマスターが何度も頭を下げてはいけませんよ。私はもう気にしてませんから、顔を上げてください」

 当事者二人だけでは無く、自分も頭を下げるあたり、面倒見の良いマスターであることはうかがえるが、若干甥っ子に甘い所も感じるアリスだった。

 結局、当事者の二人には、今回の報酬はなし・調査隊での働き次第で冒険者資格をどうするか決定するという厳しいギルドマスター裁定が下った。いきなり崖っぷちに立たされた二人の若者は、硬い表情を浮かべたまま下を向いていた。

 冒険者ランクの詐称など、明るみになれば、即座に冒険者資格剥奪でもおかしくなかったのだが、まだ若い二人に立ち直る機会を与えたのは、レイモンドの温情裁定と言えた。

 それはそれとして、早急に出発しなければ事態が悪化する懸念があるため、若干の混乱はあったものの一行は早々にギルドを後にするのだった。

 モリーユのダンジョンは町から少し離れたところに位置し、徒歩では時間がかかるため、五人はギルドの準備した馬車で目的地へ急いだ。ある程度の階層を降りなければならないと考えられたため、野営の装備はギルドが準備を行った。調査の期間は最大でも三日間と通常よりかなりタイトなスケジュールだったが、事案の緊急性がその猶予を持たせなかった。

「あの、アリス……さん」

 その車中、ラルフは恐る恐るアリスに声をかける。

「何ですか?」

「その……黒猫も一緒に行くんですか?」

「そうですが、何か?」

「いえ、いいんですが、その……防具とか付けなくていいんですか?てか、なんでメイド服なんですか?」

「これが私の戦闘服だからですよ」

 問うた側からすれば取り付く島もないといったやり取りである。
 アリスからすれば当然のことを聞かれたのでありのままに答えただけ……なのだが、傍から見ていたエルミアに突っ込まれる。

「アリス、気持ちは分かるけど、もう許してあげて。ラルフ達も反省してるんだから」

「別に、もう怒ってもいませんよ。事実を言ったまでです」

「それはそうかもしれないけど……まぁ、いいわ。ラルフ達も、アリスはちょっとぶっきらぼうな所があるけど、別に怒ってるわけじゃないから、気にしなくていいわよ」

「なんか、若干気にかかる言い方でしたけど?」

「はい、細かいことは気にしない!」

 強引に会話を締めくくるエルミアであった。

『なんか、エルミアって見た目と違って中身は大雑把な感じがするな。まぁ、でもそこは大人の鷹揚さという事なのかな』

 というタロのつぶやきにアリスは、
「タロ様、エルミアさんのような大人の女がお好みなんですか?全く、油断も隙も無いですね」
と述べ、軽蔑の眼差しを送った。

『俺ちょっと感想を述べただけだよね!?』

 若干涙目のタロである。

 そんな、何気ない(?)やり取りをしながら、一行はダンジョンへ向かうのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

処理中です...