黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

文字の大きさ
上 下
14 / 120
第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第一話「少女の欲望」

しおりを挟む
『……なあ?』

 少女は不意に話しかけられ、声のした方へと目を向けた。
 視線の先では一匹の黒猫が少女を見上げていた。
 黒豹を思わせるしなやかな体の後ろでは、体の長さ程もある尻尾が二度三度と大きく左右に振られている。

「どうされました?」

 黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服に身を包んだ少女は、長い銀髪を揺らしながら愉しげに黒猫に語りかける。
 はたから見れば、にゃーにゃーと鳴く猫に何となく返事を返しているだけなのだが、この1匹と1人の間ではちゃんと会話が成立している。

『俺は暖かい所に行きたいって言ったよな?てっきり海岸沿いの街にでも行くのかと思ったら、なんでこんな山奥に来る羽目になってるんだ!?』

 ジト目を少女に向けた黒猫は、抗議をするように、また尻尾を左右に振った。

「えっ?今が何月か、お忘れですか?」

 少女の真剣な目に見つめられ、タロと呼ばれた黒猫は軽く舌打ちをすると諦めたように深いため息をついた。

『……今年もまた行くのか?あそこに?』

 タロの言葉を聞いた少女……アリスは信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに目を見開き、今では姿が変わってしまった彼女の主に詰め寄った。

「タロ様。この季節に食べる“モリーユ茸料理”のすばらしさは去年もお話ししましたよね?しかも、食べられるのは一年を通してこの一ヵ月間だけなんですよ?」

 捲し立てる従者に若干引きながら、タロと呼ばれた黒猫は最後の抵抗を試みた。

『別にあそこに行かなくても、西の王都とかで食べればいいんじゃないのか?』

 あそこ、とは件のモリーユ茸の唯一の産地として有名な山間のとある町である。
 町の名はもちろん『モリーユ』という。

「西の王都では、たった一皿の料理に銀貨一枚もかかるんですよ?モリーユに行けば、同じような料理が大銅貨四枚で食べられる上に、新鮮な素材を使った絶品料理が堪能できるんですから行かないわけありませんよね?」

 この世界で、一般的に流通する貨幣は凡そ五種類。

 銭貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨。それぞれ十枚で上の貨幣と同額である。あと、一般には出回らないが金貨の上に白金貨なるものが存在するらしい。

 もっとも、平民の目に触れることはまず無い。

 都市部に暮らす腕のいい職人が一ヵ月懸命に働いて手にする給金が凡そ金貨二枚程度、農村部や山間部に行けば収入は減るので、金貨など一度も見た事が無いという人もざらである。

 そんな世界で、銀貨一枚の料理がどれほど高価なものか推して知るべしである。

 ちなみに、アリスの占いの対価は一人大銅貨一枚である。

 以前、ひょんな事で知り合った貴族に食事をごちそうしてもらった事があり、その時に食べたモリーユ茸料理に魅了されたアリスは、それから毎年モリーユ茸を食する為だけにその町を訪れることにした。

 この件に限り、ご主人様の意向は無視されている。

 毎年同じようなやり取りをしている気がしないわけでもないタロだったが、普段あまりわがままを言わないアリスの数少ない楽しみを取り上げるのも心苦しいので、しぶしぶ行先に同意するのだった。

『あそこ行くと、毎回面倒ごとに巻き込まれるようで気が滅入るんだよ』
 と、何気にタロがつぶやくと、

「別にあそこに行くから厄介ごとに巻き込まれるわけではなく、そもそもタロ様がいる時点で厄介ごとを引き寄せる傾向にあるんですから、どこに行っても一緒だと思いますよ?」
 と、さも何でも無いことのように、少女は黒猫に返事を返す。

『うわぁ、なんだか普通にDisられた……』

 そんな愚にもつかないやり取りをしながら、二人の旅は続くのである……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...