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第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)
第一話「少女の欲望」
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『……なあ?』
少女は不意に話しかけられ、声のした方へと目を向けた。
視線の先では一匹の黒猫が少女を見上げていた。
黒豹を思わせるしなやかな体の後ろでは、体の長さ程もある尻尾が二度三度と大きく左右に振られている。
「どうされました?」
黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服に身を包んだ少女は、長い銀髪を揺らしながら愉しげに黒猫に語りかける。
はたから見れば、にゃーにゃーと鳴く猫に何となく返事を返しているだけなのだが、この1匹と1人の間ではちゃんと会話が成立している。
『俺は暖かい所に行きたいって言ったよな?てっきり海岸沿いの街にでも行くのかと思ったら、なんでこんな山奥に来る羽目になってるんだ!?』
ジト目を少女に向けた黒猫は、抗議をするように、また尻尾を左右に振った。
「えっ?今が何月か、お忘れですか?」
少女の真剣な目に見つめられ、タロと呼ばれた黒猫は軽く舌打ちをすると諦めたように深いため息をついた。
『……今年もまた行くのか?あそこに?』
タロの言葉を聞いた少女……アリスは信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに目を見開き、今では姿が変わってしまった彼女の主に詰め寄った。
「タロ様。この季節に食べる“モリーユ茸料理”のすばらしさは去年もお話ししましたよね?しかも、食べられるのは一年を通してこの一ヵ月間だけなんですよ?」
捲し立てる従者に若干引きながら、タロと呼ばれた黒猫は最後の抵抗を試みた。
『別にあそこに行かなくても、西の王都とかで食べればいいんじゃないのか?』
あそこ、とは件のモリーユ茸の唯一の産地として有名な山間のとある町である。
町の名はもちろん『モリーユ』という。
「西の王都では、たった一皿の料理に銀貨一枚もかかるんですよ?モリーユに行けば、同じような料理が大銅貨四枚で食べられる上に、新鮮な素材を使った絶品料理が堪能できるんですから行かないわけありませんよね?」
この世界で、一般的に流通する貨幣は凡そ五種類。
銭貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨。それぞれ十枚で上の貨幣と同額である。あと、一般には出回らないが金貨の上に白金貨なるものが存在するらしい。
もっとも、平民の目に触れることはまず無い。
都市部に暮らす腕のいい職人が一ヵ月懸命に働いて手にする給金が凡そ金貨二枚程度、農村部や山間部に行けば収入は減るので、金貨など一度も見た事が無いという人もざらである。
そんな世界で、銀貨一枚の料理がどれほど高価なものか推して知るべしである。
ちなみに、アリスの占いの対価は一人大銅貨一枚である。
以前、ひょんな事で知り合った貴族に食事をごちそうしてもらった事があり、その時に食べたモリーユ茸料理に魅了されたアリスは、それから毎年モリーユ茸を食する為だけにその町を訪れることにした。
この件に限り、ご主人様の意向は無視されている。
毎年同じようなやり取りをしている気がしないわけでもないタロだったが、普段あまりわがままを言わないアリスの数少ない楽しみを取り上げるのも心苦しいので、しぶしぶ行先に同意するのだった。
『あそこ行くと、毎回面倒ごとに巻き込まれるようで気が滅入るんだよ』
と、何気にタロがつぶやくと、
「別にあそこに行くから厄介ごとに巻き込まれるわけではなく、そもそもタロ様がいる時点で厄介ごとを引き寄せる傾向にあるんですから、どこに行っても一緒だと思いますよ?」
と、さも何でも無いことのように、少女は黒猫に返事を返す。
『うわぁ、なんだか普通にDisられた……』
そんな愚にもつかないやり取りをしながら、二人の旅は続くのである……。
少女は不意に話しかけられ、声のした方へと目を向けた。
視線の先では一匹の黒猫が少女を見上げていた。
黒豹を思わせるしなやかな体の後ろでは、体の長さ程もある尻尾が二度三度と大きく左右に振られている。
「どうされました?」
黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服に身を包んだ少女は、長い銀髪を揺らしながら愉しげに黒猫に語りかける。
はたから見れば、にゃーにゃーと鳴く猫に何となく返事を返しているだけなのだが、この1匹と1人の間ではちゃんと会話が成立している。
『俺は暖かい所に行きたいって言ったよな?てっきり海岸沿いの街にでも行くのかと思ったら、なんでこんな山奥に来る羽目になってるんだ!?』
ジト目を少女に向けた黒猫は、抗議をするように、また尻尾を左右に振った。
「えっ?今が何月か、お忘れですか?」
少女の真剣な目に見つめられ、タロと呼ばれた黒猫は軽く舌打ちをすると諦めたように深いため息をついた。
『……今年もまた行くのか?あそこに?』
タロの言葉を聞いた少女……アリスは信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに目を見開き、今では姿が変わってしまった彼女の主に詰め寄った。
「タロ様。この季節に食べる“モリーユ茸料理”のすばらしさは去年もお話ししましたよね?しかも、食べられるのは一年を通してこの一ヵ月間だけなんですよ?」
捲し立てる従者に若干引きながら、タロと呼ばれた黒猫は最後の抵抗を試みた。
『別にあそこに行かなくても、西の王都とかで食べればいいんじゃないのか?』
あそこ、とは件のモリーユ茸の唯一の産地として有名な山間のとある町である。
町の名はもちろん『モリーユ』という。
「西の王都では、たった一皿の料理に銀貨一枚もかかるんですよ?モリーユに行けば、同じような料理が大銅貨四枚で食べられる上に、新鮮な素材を使った絶品料理が堪能できるんですから行かないわけありませんよね?」
この世界で、一般的に流通する貨幣は凡そ五種類。
銭貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨。それぞれ十枚で上の貨幣と同額である。あと、一般には出回らないが金貨の上に白金貨なるものが存在するらしい。
もっとも、平民の目に触れることはまず無い。
都市部に暮らす腕のいい職人が一ヵ月懸命に働いて手にする給金が凡そ金貨二枚程度、農村部や山間部に行けば収入は減るので、金貨など一度も見た事が無いという人もざらである。
そんな世界で、銀貨一枚の料理がどれほど高価なものか推して知るべしである。
ちなみに、アリスの占いの対価は一人大銅貨一枚である。
以前、ひょんな事で知り合った貴族に食事をごちそうしてもらった事があり、その時に食べたモリーユ茸料理に魅了されたアリスは、それから毎年モリーユ茸を食する為だけにその町を訪れることにした。
この件に限り、ご主人様の意向は無視されている。
毎年同じようなやり取りをしている気がしないわけでもないタロだったが、普段あまりわがままを言わないアリスの数少ない楽しみを取り上げるのも心苦しいので、しぶしぶ行先に同意するのだった。
『あそこ行くと、毎回面倒ごとに巻き込まれるようで気が滅入るんだよ』
と、何気にタロがつぶやくと、
「別にあそこに行くから厄介ごとに巻き込まれるわけではなく、そもそもタロ様がいる時点で厄介ごとを引き寄せる傾向にあるんですから、どこに行っても一緒だと思いますよ?」
と、さも何でも無いことのように、少女は黒猫に返事を返す。
『うわぁ、なんだか普通にDisられた……』
そんな愚にもつかないやり取りをしながら、二人の旅は続くのである……。
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