黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第一章 美少女占い師と死者行進(ウォーキングデッド)

第二話「流浪のフォーチュンテラー」

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 町は夜が明けきる前から市場の活気で賑わっている。
 この辺一帯はいくつかの小さい集落が集まり街を形成していた。
 隣の集落まで馬車で数時間の距離であるため、物資の流通が発達しており。
 物や人の往来が激しく、部分的には小さくとも人や物で賑わっている。

 この手の街は王族や貴族といった直接統治する者が存在するわけでなく、「秩序」を重んじる教会がその役割を担っている。
 「神の教え」を生活の規範とするこの世界において、神父と聖書があればいとも簡単に行政機関が誕生する。

『まあ、上手いことやったもんだな、その辺は“混沌”の奴らでも上手くやっただろうが』

 黒猫は天を見上げ想いをはせていた。

「マスター、小さな机とイスを借りることが出来ました」

『ああ問題ない、地面に座ったままでも出来ることだが・・・まあこの手の商売はイメージが大事だからな』

 小さな机がすっぽり隠れる紫の布をかぶせ、その上にさらに動物の“なめし皮”を敷く。
 アリスはカバンから小さく丸められた羊皮紙を取り出し机の前に掲げる。

「銀水晶占い師」



 時は数刻さかのぼる。

「店の軒先を借りたい?」

 昨夜の部屋を借りた宿屋の主人は、かなり固めのパンとスープを手に持ち訝しげな眼でこちらを見ている。
 その手にあるのは恐らく我々の朝食であることは明らかであったので、あまり変なことを言って刺激するのは避けたいと黒猫は考えていた。

「ええ、私は占い師でして。皆様のお悩みに耳を傾け僅かばかりの駄賃をいただいております」

「へえ、占い師ねえ……」

 主人は少女のつま先から頭のてっぺんまで何度も見返しながら呟く。
 確かに突然占い師と言ったところで、疑われても仕方がない。
 占い師といえば大人が子供に読み聞かせる絵本からも分かる通り「老婆」というイメージがある。

 世界中見て回れば「少女」の占い師もいないこともないだろう。
 驚くことにどこかの国では幼い少女が国を治めているとも聞く。
 だが大衆のイメージとは最大公約数として存在しているものであり、一部の例外が存在するからといって容易く認められるものではないのだ。

 まあ、そういった事もこの生業を始めた頃は手こずったものだが、今となっては手段を心得ている。
 一部の例外であることに変わりはないのだから。

「よろしければ軒先を1日お借りする駄賃として主人を視て差し上げましょう」

「ほう」

 主人の表情に僅かな好奇心が芽生えるのをアリスは見逃さなかった。

「まったく当たらなければ子供の戯言と忘れてくださって結構です。でももし僅かでも心当たりがありましたら、店を構える事を許していただけないでしょうか。うまくいけば占いに来た他所の街の方に、この宿屋を紹介いたしますが・・・?」

「なるほどな、悪くはない話だ。それじゃお手並みを拝見といこうか、インチキ占い師に軒先を借したとあっちゃこっちの商売にも影響か出るからな。で、どうすればいいんだ?」

 アリスは気づかれない程度に微笑みを浮かべ、主人に両手を差し出すよう促した。
 差し出された手の平にそれぞれ異なる色の輝く石を置く。

「これは?」

「水晶……でございます」

 宿屋主人の右手には透明な水晶、左手には翠色の水晶が淡く光っている。

 アリスは黒猫を肩に乗せると、そっと宿屋主人の持った水晶に手のひらを合わせる。
 宿屋主人の顔に若干の動揺が走った。

『意外と純情なんだな……』
黒猫は少女に触れられて年甲斐もなく照れる男を見つめていた。

「わかりました」

 アリスは主人の手を離さないまま目を閉じてつぶやく。

「健康面に不安を抱えていますね……特に右足の痛みなど……」

 宿屋の主人の表情から見て間違いはなさそうだ。
 用心深いわりには感情が顔に出る素直な奴だと黒猫は表情には出さずに笑う。

「更に……足を医師に見せても改善はしない……違いますか?」

「確かにそうだ、前に高いところの物を取ろうとしてイスから落ちた後ずっと調子が悪くなる一方で……ヤブ医者に見せて薬を塗ったりしてるんだが一向によくなりゃしねえ」

 アリスは片目のみを開き、宿屋主人を見上げこう告げる。

「足に直接の原因がないからです、悪いのは……背中なのです」

「背中?」

「前にイスから落ちたと言っていましたね?その時どこから落ちました?」

 宿屋の主人は思い出しながらアリスの問いに答える。

「その時は足から着地した、だから足が痛くなって……」

「違います、足を側面から打ち付けたのではないのなら、おそらく足から腰、背中にかけて衝撃が走ったはず。その際、背中の骨周辺にダメージが残り、その結果神経から足に痛みやしびれが発生しているのです。」

 呆気にとられる宿屋の主人。
 それは仕方がない、人体の神経や骨格についての知識を一般の人間が持ち得るわけがないのだ。
 足を診ている医者もヤブというわけではない。
 この街のレベルであれば原因にたどり着きようがないのだ。

「ちょっと失礼」

 アリスは黄色の水晶を宿屋主人の背中にあて呟く

「ちょっとピリっとしますよ」

「あちっ!」

 主人の背中に軽い電流が走る。

「何しやがる!」

 宿屋主人の怒号に、それまで朝食を取っていた他の客も一斉にこちらを警戒した。

「水晶の力を借りて体の一部分に軽い衝撃を与えました。足を・・・動かしてみていただけませんか?」

 恐る恐る右足を動かす主人の目が怒りから驚きに変わる。

「痺れが……痛みがない。治った?」

「いえ、背中に原因があることを証明するために一時的なショックを与えただけです。折を見て骨に詳しい医者に診てもらうことをお勧めします」

「おおぉー!!!」

 宿屋の主人が歓喜の声を上げると同時に周囲からも驚きの歓声があがる。

「あんたすげえや、今まで何しても痛み一つ和らいだことがなかったのによ!」

「軒先の代価……皆様方で言う“シャバ代”とおっしゃるのですか……いかがでしょうか?」


 そして周りで見ていた見物人の宿泊客も、我先にと鑑定を依頼し落ち着いたころには太陽が真上に上っていた。

『やはり撒き餌にするには宿屋の主人がぴったりであったな』

「そうですね」

『しかしあの主人の体、よく視えたもんだな』

 黒猫はかるく毛づくろいをしながら、アリスの顔を覗き込む。

「昨夜より、右足をかばう動きをしていましたので……もしやと思い。自らに何かしらの不安があれば占いを真っ向から否定はしないでしょう」

『だろうな。だが、痛みの原因を探ったのは……』

「ええ、これです」

 アリスは先ほど宿屋主人の手に乗せた水晶を取り出した。
 透き通る様な透明さとエメラルドの光を放っていた水晶、今は黒と紫がかって本来の輝きを失っていた。

『水晶占いとは謳っているが、この石ころには大した力などない。体内に微量の魔力を流し、血液の様に体を巡らせ原因を探し当てたな?』

「その通りです。あとはタロ様にご教授いただきました知識のいくつかが役に立ちました。ですが微量とはいえ、魔力は我が主よりいただくことになりました……」

 アリスは目を閉じ謝罪の意を表す。

『構わん、お前には様々な能力を授けたが、肝心の“魔力”は持ち合わせておらん、ただの一滴も……な、私がお前に触れることで魔力を供給することができる。お前は全てを扱えるが、何も持ってはおらん。私は全てを持っておるが、何も扱うことができん。随分と理不尽な重荷を背負わせてしまったな……』

 黒猫は少女の謝罪について、それは我が身の過ちであることを伝える。

「……でも」

『……でも?』

「……それでも、私は」

 アリスの瞳が微かに涙でにじむ。

「それでも私は超絶美少女なので何とか生きていけますが、我が主は貧弱で最弱な獣臭い猫なのですぐに死んでしまいます……かわいそう」

『随分と理不尽な性格を背負ったな!?おい!!』
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