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第一章 美少女占い師と死者行進(ウォーキングデッド)
第零話「プロローグ」
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いつの時代の事か、どこの国の出来事か、とある場所では“魔女狩り”という風習があったという。
魔女狩りとは本来、魔術や秘術を使う悪しき存在に対し、裁判、刑罰を行うものであった。
だが実際は、異なる信仰や政治理念といったマイノリティへの弾劾と表現した方が事実に近いという。
更には集団が異端に対する恐怖や不安から逃れようとする、一種の集団ヒステリーの類であったとの見解を示す者もいる。
魔女……邪教に身を捧げ、人智を超える力を持った者達……。
中には幼い少女や戦争の英雄までもが恐ろしい拷問の末、民衆の慰みに命を散らしたと聞く。
魔女……それはまさに私の様な者を指すのだろう。
年輪を刻むことを止めた体、人智を超えた魔術と千の武器を操る能力……更にとてつもない美少女である、そう美少女である。
「魔女狩り怖い……」
『他所の黒歴史を自己アピールに使うな、あと何で美少女って二回言うんだ』
「大事なことですから」
夕暮れ時、まもなく夜の帳が落ちる間際の街道沿い。
会話を行う様に語り掛ける少女と、それに答えるように時折鳴き声を上げる黒猫が街へ向かって歩いている。
一人と一匹の旅路は、ほとんどがこの不毛な会話で成り立つ。
「なんです?私の容姿に不満でもございましたか?むしろもっと性別も分からない程の幼い容姿にしか興味が無いとでも?」
『さらっとヒトの趣味嗜好を曲解するな』
「ヒト?……ネコでしょう?」
少女は腰まであろうかという銀髪をなびかせ、黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服でくるりと回って見せた。
「ほら……美少女」
『ほら……じゃねぇーわ』
くるくるとスカートを回す少女に溜息を漏らしつつ、猫が後ろからついてくる。
黒豹を思わせるしなやかな姿の後方には、体の長さ程もある尻尾が宙を舞っている。
『お前の“意識高い系”アピールだけならまだしも、自己愛精神に満ちた紹介はもう結構だ』
「あら、容姿端麗才色兼備だけでなく、悲劇と悲哀に満ちた過去も出てきて、今まさに正ヒロインとしての確固たるイメージがこれから出来上がるってのに・・・ぶす、いですよ」
『言葉のイントネーションを変えてまで、人間性のみならず容姿までDisってくるな』
「猫性……ですけどね」
ようやく町の灯りが見えてくるかという刻まで、このやりとりは続けられた。
すごくどうでもいいこの会話は、他人からは独り言を呟く少女とそれに応えてニャーニャーと鳴く猫にしか見えない。
だが、黒猫は少女の言葉を理解し、少女は黒猫の言葉を理解できる。
この二つはそんなふうにできている。
『……ともかくだ、ようやく今日の寝床と食事にありつけそうだな』
「本当ですね、寝床と食事はともかく、猫の相場が気になるところです」
『お前俺を他人の愛玩動物にして何を企んでいる』
「推し作家の新刊が出るんで……」
『意識高い系の糧にはならんぞ!……アリス!』
少女はその名前に呼応するかのように真剣な眼差しで振り返る。
「皮と肉……別々だったら高く売れるでしょうか」
『もはや命の保証すら!?』
黒猫は時折その長い尻尾を大げさに振りながら抗議をする。
『アリス……お前は私から離れては生きていけない……分かっているだろう?』
「はい……剥製の方が高く売れると聞きました」
『誰にだよ!?、連れてこい!!……まったく……お前は俺の何なんだ……』
アリスは再び足を止め、両手でスカートのすそをつまみ、軽く膝を折ると頭を下げた。
「私はタロ様の従者でございます」
アリスと呼ばれた銀髪の少女とタロと呼ばれた尾長の黒猫。
先ほどまでの空気を一変する雰囲気が辺りを支配する。
交わす視線が主人と従者という関係性を手探るかのように。
「従者で……ございます」
『だから何で二回言うんだ』
アリスはお辞儀をしたまま、チラリとこちらを見た。
「大事なことですから」
魔女狩りとは本来、魔術や秘術を使う悪しき存在に対し、裁判、刑罰を行うものであった。
だが実際は、異なる信仰や政治理念といったマイノリティへの弾劾と表現した方が事実に近いという。
更には集団が異端に対する恐怖や不安から逃れようとする、一種の集団ヒステリーの類であったとの見解を示す者もいる。
魔女……邪教に身を捧げ、人智を超える力を持った者達……。
中には幼い少女や戦争の英雄までもが恐ろしい拷問の末、民衆の慰みに命を散らしたと聞く。
魔女……それはまさに私の様な者を指すのだろう。
年輪を刻むことを止めた体、人智を超えた魔術と千の武器を操る能力……更にとてつもない美少女である、そう美少女である。
「魔女狩り怖い……」
『他所の黒歴史を自己アピールに使うな、あと何で美少女って二回言うんだ』
「大事なことですから」
夕暮れ時、まもなく夜の帳が落ちる間際の街道沿い。
会話を行う様に語り掛ける少女と、それに答えるように時折鳴き声を上げる黒猫が街へ向かって歩いている。
一人と一匹の旅路は、ほとんどがこの不毛な会話で成り立つ。
「なんです?私の容姿に不満でもございましたか?むしろもっと性別も分からない程の幼い容姿にしか興味が無いとでも?」
『さらっとヒトの趣味嗜好を曲解するな』
「ヒト?……ネコでしょう?」
少女は腰まであろうかという銀髪をなびかせ、黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服でくるりと回って見せた。
「ほら……美少女」
『ほら……じゃねぇーわ』
くるくるとスカートを回す少女に溜息を漏らしつつ、猫が後ろからついてくる。
黒豹を思わせるしなやかな姿の後方には、体の長さ程もある尻尾が宙を舞っている。
『お前の“意識高い系”アピールだけならまだしも、自己愛精神に満ちた紹介はもう結構だ』
「あら、容姿端麗才色兼備だけでなく、悲劇と悲哀に満ちた過去も出てきて、今まさに正ヒロインとしての確固たるイメージがこれから出来上がるってのに・・・ぶす、いですよ」
『言葉のイントネーションを変えてまで、人間性のみならず容姿までDisってくるな』
「猫性……ですけどね」
ようやく町の灯りが見えてくるかという刻まで、このやりとりは続けられた。
すごくどうでもいいこの会話は、他人からは独り言を呟く少女とそれに応えてニャーニャーと鳴く猫にしか見えない。
だが、黒猫は少女の言葉を理解し、少女は黒猫の言葉を理解できる。
この二つはそんなふうにできている。
『……ともかくだ、ようやく今日の寝床と食事にありつけそうだな』
「本当ですね、寝床と食事はともかく、猫の相場が気になるところです」
『お前俺を他人の愛玩動物にして何を企んでいる』
「推し作家の新刊が出るんで……」
『意識高い系の糧にはならんぞ!……アリス!』
少女はその名前に呼応するかのように真剣な眼差しで振り返る。
「皮と肉……別々だったら高く売れるでしょうか」
『もはや命の保証すら!?』
黒猫は時折その長い尻尾を大げさに振りながら抗議をする。
『アリス……お前は私から離れては生きていけない……分かっているだろう?』
「はい……剥製の方が高く売れると聞きました」
『誰にだよ!?、連れてこい!!……まったく……お前は俺の何なんだ……』
アリスは再び足を止め、両手でスカートのすそをつまみ、軽く膝を折ると頭を下げた。
「私はタロ様の従者でございます」
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先ほどまでの空気を一変する雰囲気が辺りを支配する。
交わす視線が主人と従者という関係性を手探るかのように。
「従者で……ございます」
『だから何で二回言うんだ』
アリスはお辞儀をしたまま、チラリとこちらを見た。
「大事なことですから」
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