1 / 120
第一章 美少女占い師と死者行進(ウォーキングデッド)
第零話「プロローグ」
しおりを挟む
いつの時代の事か、どこの国の出来事か、とある場所では“魔女狩り”という風習があったという。
魔女狩りとは本来、魔術や秘術を使う悪しき存在に対し、裁判、刑罰を行うものであった。
だが実際は、異なる信仰や政治理念といったマイノリティへの弾劾と表現した方が事実に近いという。
更には集団が異端に対する恐怖や不安から逃れようとする、一種の集団ヒステリーの類であったとの見解を示す者もいる。
魔女……邪教に身を捧げ、人智を超える力を持った者達……。
中には幼い少女や戦争の英雄までもが恐ろしい拷問の末、民衆の慰みに命を散らしたと聞く。
魔女……それはまさに私の様な者を指すのだろう。
年輪を刻むことを止めた体、人智を超えた魔術と千の武器を操る能力……更にとてつもない美少女である、そう美少女である。
「魔女狩り怖い……」
『他所の黒歴史を自己アピールに使うな、あと何で美少女って二回言うんだ』
「大事なことですから」
夕暮れ時、まもなく夜の帳が落ちる間際の街道沿い。
会話を行う様に語り掛ける少女と、それに答えるように時折鳴き声を上げる黒猫が街へ向かって歩いている。
一人と一匹の旅路は、ほとんどがこの不毛な会話で成り立つ。
「なんです?私の容姿に不満でもございましたか?むしろもっと性別も分からない程の幼い容姿にしか興味が無いとでも?」
『さらっとヒトの趣味嗜好を曲解するな』
「ヒト?……ネコでしょう?」
少女は腰まであろうかという銀髪をなびかせ、黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服でくるりと回って見せた。
「ほら……美少女」
『ほら……じゃねぇーわ』
くるくるとスカートを回す少女に溜息を漏らしつつ、猫が後ろからついてくる。
黒豹を思わせるしなやかな姿の後方には、体の長さ程もある尻尾が宙を舞っている。
『お前の“意識高い系”アピールだけならまだしも、自己愛精神に満ちた紹介はもう結構だ』
「あら、容姿端麗才色兼備だけでなく、悲劇と悲哀に満ちた過去も出てきて、今まさに正ヒロインとしての確固たるイメージがこれから出来上がるってのに・・・ぶす、いですよ」
『言葉のイントネーションを変えてまで、人間性のみならず容姿までDisってくるな』
「猫性……ですけどね」
ようやく町の灯りが見えてくるかという刻まで、このやりとりは続けられた。
すごくどうでもいいこの会話は、他人からは独り言を呟く少女とそれに応えてニャーニャーと鳴く猫にしか見えない。
だが、黒猫は少女の言葉を理解し、少女は黒猫の言葉を理解できる。
この二つはそんなふうにできている。
『……ともかくだ、ようやく今日の寝床と食事にありつけそうだな』
「本当ですね、寝床と食事はともかく、猫の相場が気になるところです」
『お前俺を他人の愛玩動物にして何を企んでいる』
「推し作家の新刊が出るんで……」
『意識高い系の糧にはならんぞ!……アリス!』
少女はその名前に呼応するかのように真剣な眼差しで振り返る。
「皮と肉……別々だったら高く売れるでしょうか」
『もはや命の保証すら!?』
黒猫は時折その長い尻尾を大げさに振りながら抗議をする。
『アリス……お前は私から離れては生きていけない……分かっているだろう?』
「はい……剥製の方が高く売れると聞きました」
『誰にだよ!?、連れてこい!!……まったく……お前は俺の何なんだ……』
アリスは再び足を止め、両手でスカートのすそをつまみ、軽く膝を折ると頭を下げた。
「私はタロ様の従者でございます」
アリスと呼ばれた銀髪の少女とタロと呼ばれた尾長の黒猫。
先ほどまでの空気を一変する雰囲気が辺りを支配する。
交わす視線が主人と従者という関係性を手探るかのように。
「従者で……ございます」
『だから何で二回言うんだ』
アリスはお辞儀をしたまま、チラリとこちらを見た。
「大事なことですから」
魔女狩りとは本来、魔術や秘術を使う悪しき存在に対し、裁判、刑罰を行うものであった。
だが実際は、異なる信仰や政治理念といったマイノリティへの弾劾と表現した方が事実に近いという。
更には集団が異端に対する恐怖や不安から逃れようとする、一種の集団ヒステリーの類であったとの見解を示す者もいる。
魔女……邪教に身を捧げ、人智を超える力を持った者達……。
中には幼い少女や戦争の英雄までもが恐ろしい拷問の末、民衆の慰みに命を散らしたと聞く。
魔女……それはまさに私の様な者を指すのだろう。
年輪を刻むことを止めた体、人智を超えた魔術と千の武器を操る能力……更にとてつもない美少女である、そう美少女である。
「魔女狩り怖い……」
『他所の黒歴史を自己アピールに使うな、あと何で美少女って二回言うんだ』
「大事なことですから」
夕暮れ時、まもなく夜の帳が落ちる間際の街道沿い。
会話を行う様に語り掛ける少女と、それに答えるように時折鳴き声を上げる黒猫が街へ向かって歩いている。
一人と一匹の旅路は、ほとんどがこの不毛な会話で成り立つ。
「なんです?私の容姿に不満でもございましたか?むしろもっと性別も分からない程の幼い容姿にしか興味が無いとでも?」
『さらっとヒトの趣味嗜好を曲解するな』
「ヒト?……ネコでしょう?」
少女は腰まであろうかという銀髪をなびかせ、黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服でくるりと回って見せた。
「ほら……美少女」
『ほら……じゃねぇーわ』
くるくるとスカートを回す少女に溜息を漏らしつつ、猫が後ろからついてくる。
黒豹を思わせるしなやかな姿の後方には、体の長さ程もある尻尾が宙を舞っている。
『お前の“意識高い系”アピールだけならまだしも、自己愛精神に満ちた紹介はもう結構だ』
「あら、容姿端麗才色兼備だけでなく、悲劇と悲哀に満ちた過去も出てきて、今まさに正ヒロインとしての確固たるイメージがこれから出来上がるってのに・・・ぶす、いですよ」
『言葉のイントネーションを変えてまで、人間性のみならず容姿までDisってくるな』
「猫性……ですけどね」
ようやく町の灯りが見えてくるかという刻まで、このやりとりは続けられた。
すごくどうでもいいこの会話は、他人からは独り言を呟く少女とそれに応えてニャーニャーと鳴く猫にしか見えない。
だが、黒猫は少女の言葉を理解し、少女は黒猫の言葉を理解できる。
この二つはそんなふうにできている。
『……ともかくだ、ようやく今日の寝床と食事にありつけそうだな』
「本当ですね、寝床と食事はともかく、猫の相場が気になるところです」
『お前俺を他人の愛玩動物にして何を企んでいる』
「推し作家の新刊が出るんで……」
『意識高い系の糧にはならんぞ!……アリス!』
少女はその名前に呼応するかのように真剣な眼差しで振り返る。
「皮と肉……別々だったら高く売れるでしょうか」
『もはや命の保証すら!?』
黒猫は時折その長い尻尾を大げさに振りながら抗議をする。
『アリス……お前は私から離れては生きていけない……分かっているだろう?』
「はい……剥製の方が高く売れると聞きました」
『誰にだよ!?、連れてこい!!……まったく……お前は俺の何なんだ……』
アリスは再び足を止め、両手でスカートのすそをつまみ、軽く膝を折ると頭を下げた。
「私はタロ様の従者でございます」
アリスと呼ばれた銀髪の少女とタロと呼ばれた尾長の黒猫。
先ほどまでの空気を一変する雰囲気が辺りを支配する。
交わす視線が主人と従者という関係性を手探るかのように。
「従者で……ございます」
『だから何で二回言うんだ』
アリスはお辞儀をしたまま、チラリとこちらを見た。
「大事なことですから」
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる