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第六章 大海の王者と魔導白書(グリモワール)
第九話「夢」
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黒猫は結局クーリンが迎えに来ることもなく、また銀髪の従者が機嫌を直すことも考えづらかった為、フーリンと同じ部屋で一晩過ごすことになった。
この街に付く着くや否や、従者と諍いを起こした結果謎の巨にゅ…女性にさらわれて見世物小屋の狭いテントで寝かされている。先ほど何の肉だか分からないエサを貰ったが口にする気が怒らなかった起こらなかった。
本来ならば、夜の酒場で上戸の従者を諭しながら、温かい食事を楽しんでいたはずだった。
何が原因か分かっていても、何が正解だったかは分からない。
今頃どこで何をやっているやら……あの娘に限ってそう簡単に危険な目には合わないだろうが……周りが見えなくなった挙句、自棄になっていやしないか。
黒猫は最後に見た、涙を浮かべた目を思い出し心を痛めた。
その夜……。
黒猫は暗い森の中にいた。
辛うじて木々が鬱蒼と茂っていたから森と分かったが、周りは霧に包まれ少しの先も見ることは出来なかった。
周囲から悪意は感じられない。
そしてこれが夢の中だとすぐに理解した。
何故ならば先程まで眠っていたはずの青年がしっかりとした足取りでこちらへ向かい、話しかけてきたからに他ならなかった。
「君は箱の中にいた猫か……」
あの飄々とした動き、たどたどしい喋りが無くなったとは言え、目の前にいるのはあの暗殺者の青年だった。
『ここはお前の夢の中か?』
「猫の君がしゃべっているってことはそうみたいだね」
フーリンは黒猫の隣へ腰かけ、そっと手をやった。
あの恐ろしく貧弱で冷たい手ではなく、温かく力強さがその手にはあった。
『夢ならばちゃんと喋られるようだな……ならば聞こう。お主はなぜ身を削りながらも裏の仕事に手を染める?あの愚者に従う?』
それまで覚束ない手つきで撫でていた手を目の前に掲げ淡々と語りだした。
「俺たちは内戦が続く国で生まれた孤児だ。元々親など居ない子、戦争で親が死んだ子等が自然と集まって共同生活を続けていた。誰の目に触れるでなく、時々大人に見つかると暴力を振るわれたり、下手したら殺されたりしていた。俺はそこでオネエチャンと一緒だった。血が繋がっているかどうかなんて知らない。ただ生まれた時から一緒だった」
霧は晴れなかったが、先ほどまでの木々ではなく朽ちた建物が並ぶ廃村に風景が変化した。
「ある日ある男が俺たちに近づいてきた。何でもサーカスと呼ばれる見世物小屋をやっているらしい。俺たちに衣食住を提供する代わりに見世物とある作業を手伝って欲しいと言われた。」
今度は布で纏われたテントが姿を現し、恐らく人の影であろうものがあちこちで芸の練習をしている。
「俺たちは死に物狂いで見世物の練習をした。たった一本しかないロープの上を渡ったり、高いところに設置されたブランコと呼ばれる遊具から飛び移ったりした。慣れない頃は落ちて大怪我をする奴も現れたが、団長の治療を受けた奴はすぐに治ってしまった」
例のスクロールを持った団長の影が魔法を唱え、傷ついた仲間の影は次々と立ち上がりまた芸の稽古へ戻る。
「そうこうしているうちに、見世物とは別の仕事もさせられるようになった。最初は“掃除”だと言われていた。だが本当の内容は暗殺だった。ナイフ投げや猛獣を手なづける練習はこの“掃除”に活かされた。俺もオネエチャンも生きる為に必死で練習した」
目の前に幼い日のクーリンが現れた。
「時が過ぎて俺は見世物小屋の道化師に、オネエチャンは看板娘になっていた。“掃除”で傷付いた仲間は団長の手によって傷は治ったが、段々と感情が無くなって生きる屍のようになっていった。俺も時々言葉が上手く喋れなくなる時がある。それが団長の治療に原因があると分かったのは最近の事だ。正確には治療でなく、魔法を使った呪いだ」
成長したクーリンが男の手によって霧に引き込まれて消える。
「いつだったか、どこかの大層な金持ちがオネエチャンを買って行った。団長も最初は渋っていたが目の前に積まれた金に目が眩んだのだろう。結局は手放した。俺は大反対したがオネエチャンはモノと情報が集まる外の世界で仲間を解放する方法を探すと言って旅立った」
“ナカマヲマモッテ”
「それがオネエチャンから聞いた最後の言葉だった」
そして風景が最初の森へ戻った。
「この“小人の頭”があればカードゲームに参加出来る。必ず優勝してグリモワールを手に入れ。仲間をこの呪いから解放する」
そういうとフーリンは立ち上がり霧の方へ歩いてこう言い残した。
「黒猫ってさ……不吉の象徴って言うよね……でも、君を見ているとそんな気はしないな」
黒猫が目を覚ますとそこは元のテントの中だった。
先程団長が渡した小人の頭が入った箱からかすかにうめき声が聞こえる。
『この中身が夢を見せたか……知識に呪われた人間の犠牲者よ……哀れな……』
先程夢の中で出会った青年は未だに眠りから覚めていない。
顔色は相変わらず悪くそして……泣いていた。
『中央教会』はこんな中途半端な蘇生魔法を使って何を企んでる……死者復活などあの秩序の狂信者共が認めるはずもない……騎士団は知らんのか……中央も一枚岩ではないということか……』
黒猫は再びまどろみの中へ旅立った。
残念ながら次の夢に望んだ少女の姿は現れなかった。
この街に付く着くや否や、従者と諍いを起こした結果謎の巨にゅ…女性にさらわれて見世物小屋の狭いテントで寝かされている。先ほど何の肉だか分からないエサを貰ったが口にする気が怒らなかった起こらなかった。
本来ならば、夜の酒場で上戸の従者を諭しながら、温かい食事を楽しんでいたはずだった。
何が原因か分かっていても、何が正解だったかは分からない。
今頃どこで何をやっているやら……あの娘に限ってそう簡単に危険な目には合わないだろうが……周りが見えなくなった挙句、自棄になっていやしないか。
黒猫は最後に見た、涙を浮かべた目を思い出し心を痛めた。
その夜……。
黒猫は暗い森の中にいた。
辛うじて木々が鬱蒼と茂っていたから森と分かったが、周りは霧に包まれ少しの先も見ることは出来なかった。
周囲から悪意は感じられない。
そしてこれが夢の中だとすぐに理解した。
何故ならば先程まで眠っていたはずの青年がしっかりとした足取りでこちらへ向かい、話しかけてきたからに他ならなかった。
「君は箱の中にいた猫か……」
あの飄々とした動き、たどたどしい喋りが無くなったとは言え、目の前にいるのはあの暗殺者の青年だった。
『ここはお前の夢の中か?』
「猫の君がしゃべっているってことはそうみたいだね」
フーリンは黒猫の隣へ腰かけ、そっと手をやった。
あの恐ろしく貧弱で冷たい手ではなく、温かく力強さがその手にはあった。
『夢ならばちゃんと喋られるようだな……ならば聞こう。お主はなぜ身を削りながらも裏の仕事に手を染める?あの愚者に従う?』
それまで覚束ない手つきで撫でていた手を目の前に掲げ淡々と語りだした。
「俺たちは内戦が続く国で生まれた孤児だ。元々親など居ない子、戦争で親が死んだ子等が自然と集まって共同生活を続けていた。誰の目に触れるでなく、時々大人に見つかると暴力を振るわれたり、下手したら殺されたりしていた。俺はそこでオネエチャンと一緒だった。血が繋がっているかどうかなんて知らない。ただ生まれた時から一緒だった」
霧は晴れなかったが、先ほどまでの木々ではなく朽ちた建物が並ぶ廃村に風景が変化した。
「ある日ある男が俺たちに近づいてきた。何でもサーカスと呼ばれる見世物小屋をやっているらしい。俺たちに衣食住を提供する代わりに見世物とある作業を手伝って欲しいと言われた。」
今度は布で纏われたテントが姿を現し、恐らく人の影であろうものがあちこちで芸の練習をしている。
「俺たちは死に物狂いで見世物の練習をした。たった一本しかないロープの上を渡ったり、高いところに設置されたブランコと呼ばれる遊具から飛び移ったりした。慣れない頃は落ちて大怪我をする奴も現れたが、団長の治療を受けた奴はすぐに治ってしまった」
例のスクロールを持った団長の影が魔法を唱え、傷ついた仲間の影は次々と立ち上がりまた芸の稽古へ戻る。
「そうこうしているうちに、見世物とは別の仕事もさせられるようになった。最初は“掃除”だと言われていた。だが本当の内容は暗殺だった。ナイフ投げや猛獣を手なづける練習はこの“掃除”に活かされた。俺もオネエチャンも生きる為に必死で練習した」
目の前に幼い日のクーリンが現れた。
「時が過ぎて俺は見世物小屋の道化師に、オネエチャンは看板娘になっていた。“掃除”で傷付いた仲間は団長の手によって傷は治ったが、段々と感情が無くなって生きる屍のようになっていった。俺も時々言葉が上手く喋れなくなる時がある。それが団長の治療に原因があると分かったのは最近の事だ。正確には治療でなく、魔法を使った呪いだ」
成長したクーリンが男の手によって霧に引き込まれて消える。
「いつだったか、どこかの大層な金持ちがオネエチャンを買って行った。団長も最初は渋っていたが目の前に積まれた金に目が眩んだのだろう。結局は手放した。俺は大反対したがオネエチャンはモノと情報が集まる外の世界で仲間を解放する方法を探すと言って旅立った」
“ナカマヲマモッテ”
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そして風景が最初の森へ戻った。
「この“小人の頭”があればカードゲームに参加出来る。必ず優勝してグリモワールを手に入れ。仲間をこの呪いから解放する」
そういうとフーリンは立ち上がり霧の方へ歩いてこう言い残した。
「黒猫ってさ……不吉の象徴って言うよね……でも、君を見ているとそんな気はしないな」
黒猫が目を覚ますとそこは元のテントの中だった。
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