黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

文字の大きさ
上 下
106 / 120
第六章 大海の王者と魔導白書(グリモワール)

第九話「夢」

しおりを挟む
黒猫は結局クーリンが迎えに来ることもなく、また銀髪の従者が機嫌を直すことも考えづらかった為、フーリンと同じ部屋で一晩過ごすことになった。

この街に付く着くや否や、従者と諍いを起こした結果謎の巨にゅ…女性にさらわれて見世物小屋の狭いテントで寝かされている。先ほど何の肉だか分からないエサを貰ったが口にする気が怒らなかった起こらなかった。

本来ならば、夜の酒場で上戸の従者を諭しながら、温かい食事を楽しんでいたはずだった。

何が原因か分かっていても、何が正解だったかは分からない。
今頃どこで何をやっているやら……あの娘に限ってそう簡単に危険な目には合わないだろうが……周りが見えなくなった挙句、自棄になっていやしないか。

黒猫は最後に見た、涙を浮かべた目を思い出し心を痛めた。


その夜……。

黒猫は暗い森の中にいた。
辛うじて木々が鬱蒼と茂っていたから森と分かったが、周りは霧に包まれ少しの先も見ることは出来なかった。
周囲から悪意は感じられない。
そしてこれが夢の中だとすぐに理解した。

何故ならば先程まで眠っていたはずの青年がしっかりとした足取りでこちらへ向かい、話しかけてきたからに他ならなかった。

「君は箱の中にいた猫か……」

あの飄々とした動き、たどたどしい喋りが無くなったとは言え、目の前にいるのはあの暗殺者の青年だった。

『ここはお前の夢の中か?』

「猫の君がしゃべっているってことはそうみたいだね」

フーリンは黒猫の隣へ腰かけ、そっと手をやった。
あの恐ろしく貧弱で冷たい手ではなく、温かく力強さがその手にはあった。

『夢ならばちゃんと喋られるようだな……ならば聞こう。お主はなぜ身を削りながらも裏の仕事に手を染める?あの愚者に従う?』

それまで覚束ない手つきで撫でていた手を目の前に掲げ淡々と語りだした。

「俺たちは内戦が続く国で生まれた孤児だ。元々親など居ない子、戦争で親が死んだ子等が自然と集まって共同生活を続けていた。誰の目に触れるでなく、時々大人に見つかると暴力を振るわれたり、下手したら殺されたりしていた。俺はそこでオネエチャンと一緒だった。血が繋がっているかどうかなんて知らない。ただ生まれた時から一緒だった」

霧は晴れなかったが、先ほどまでの木々ではなく朽ちた建物が並ぶ廃村に風景が変化した。

「ある日ある男が俺たちに近づいてきた。何でもサーカスと呼ばれる見世物小屋をやっているらしい。俺たちに衣食住を提供する代わりに見世物とある作業を手伝って欲しいと言われた。」

今度は布で纏われたテントが姿を現し、恐らく人の影であろうものがあちこちで芸の練習をしている。

「俺たちは死に物狂いで見世物の練習をした。たった一本しかないロープの上を渡ったり、高いところに設置されたブランコと呼ばれる遊具から飛び移ったりした。慣れない頃は落ちて大怪我をする奴も現れたが、団長の治療を受けた奴はすぐに治ってしまった」

例のスクロールを持った団長の影が魔法を唱え、傷ついた仲間の影は次々と立ち上がりまた芸の稽古へ戻る。

「そうこうしているうちに、見世物とは別の仕事もさせられるようになった。最初は“掃除”だと言われていた。だが本当の内容は暗殺だった。ナイフ投げや猛獣を手なづける練習はこの“掃除”に活かされた。俺もオネエチャンも生きる為に必死で練習した」

目の前に幼い日のクーリンが現れた。

「時が過ぎて俺は見世物小屋の道化師に、オネエチャンは看板娘になっていた。“掃除”で傷付いた仲間は団長の手によって傷は治ったが、段々と感情が無くなって生きる屍のようになっていった。俺も時々言葉が上手く喋れなくなる時がある。それが団長の治療に原因があると分かったのは最近の事だ。正確には治療でなく、魔法を使った呪いだ」

成長したクーリンが男の手によって霧に引き込まれて消える。

「いつだったか、どこかの大層な金持ちがオネエチャンを買って行った。団長も最初は渋っていたが目の前に積まれた金に目が眩んだのだろう。結局は手放した。俺は大反対したがオネエチャンはモノと情報が集まる外の世界で仲間を解放する方法を探すと言って旅立った」

“ナカマヲマモッテ”

「それがオネエチャンから聞いた最後の言葉だった」

そして風景が最初の森へ戻った。

「この“小人の頭”があればカードゲームに参加出来る。必ず優勝してグリモワールを手に入れ。仲間をこの呪いから解放する」

そういうとフーリンは立ち上がり霧の方へ歩いてこう言い残した。

「黒猫ってさ……不吉の象徴って言うよね……でも、君を見ているとそんな気はしないな」

黒猫が目を覚ますとそこは元のテントの中だった。

先程団長が渡した小人の頭が入った箱からかすかにうめき声が聞こえる。

『この中身が夢を見せたか……知識に呪われた人間の犠牲者よ……哀れな……』

先程夢の中で出会った青年は未だに眠りから覚めていない。
顔色は相変わらず悪くそして……泣いていた。

『中央教会』はこんな中途半端な蘇生魔法を使って何を企んでる……死者復活などあの秩序の狂信者共が認めるはずもない……騎士団は知らんのか……中央も一枚岩ではないということか……』

黒猫は再びまどろみの中へ旅立った。

残念ながら次の夢に望んだ少女の姿は現れなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

処理中です...