黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

文字の大きさ
上 下
105 / 120
第六章 大海の王者と魔導白書(グリモワール)

第八話「小人の頭」

しおりを挟む
「よしよしでかした。今回も上々だ。傷ついた仲間も治してやろう」

テントで残業の成果を待っていた団長は、気分が高揚した面持ちで団員を迎えた。

聖職者から言い渡された依頼を完ぺきに成し遂げた報酬はいかほどの物か。
しかしそれらの事は団員には何一つ告げられはしなかった。
ただ、人形のように働くだけ。
体が動かなくなっても魔法の力で動かされ、心が壊れてもそれさえ感じられないようにされている。

上機嫌な団長とは逆に成果を持ち帰ったフーリンは仲間の悲痛な声が頭から離れず沈痛な表情で立ち尽くしていた。
言葉に出そうとしても口が上手く動かない。指や足が小刻みに動き落ち着きが無い。

『にゃ~ん』

「んん?なんだ猫か。どっから拾ってきたんだライオンのエサか?」

何とも物騒な事を言われた黒猫はそそくさとフーリンの影に隠れる。
自分の方に団長の意識が向いたことで切っ掛けが出来たフーリンはたどたどしくも口を開く。

「団長……こんな……こと……もう……やめよう」

「止める?残業の事か?……お前には説明したな。このサーカスだけでは経営は成り立たないんだ。どこかで資金を得られないと解散してしまう。そうなったら団員は……お前の家族はどうなる?魔法のスクロールももらえなくなるんだぞ?」

フーリンはうつむいたまま、瞳の方向のみ団長に向けていた。

「で……でも……これ以上は……耐えられない……僕も……みんなも」

元々、旨く喋ることができないフーリンは、それでも懸命に訴える。
魔法で回復されるたびに壊れていく仲間たちをこれ以上見るのは耐えられなかった。

本来、魔法の治癒能力というのはその者がもつ力を魔法の力で増力させる、もしくは自然や精霊の恩恵を使い修復させるものだ。致死に至る程のケガや病を修復する能力は無い。つまり団長が聖職者から仕入れているスクロールは通常の治癒魔法の粗悪品。まがい物の魔力で強引に血肉を取り繕っているに過ぎない。使い続ければ体がボロボロになるのはもちろん、痛みや苦しみ、恐怖心から心も壊れていく。

もちろん粗悪品の魔法スクロールだからこそフーリンにも使える。
そしてこれ以上使い続けることが仲間を……家族を壊してくことも分かる。

「はぁ~」

団長が苛立ちを交えてワザとらしくついた大きなため息にフーリンの体は少しビクついた。

「フーリン。お前の気持ちはよくわかる。私だって大切な家族が傷ついていくのは心が痛いのだ」

団長はゆっくりとフーリンに近づき、肩をポンとたたく。

「依頼人にも、もう少し上質なスクロールを寄越す様に言っているが……なかなかケチな連中でな、そこでだ」

団長はそこまで言うと先程まで整理していた残業の成果の中から一つの箱を取り出した。

「これが何だか分かるか?」

ボロボロの木箱の箱の中を恐る恐る見たフーリンの目に飛び込んできたのは小さな人の頭だった。
カラカラに干からびていたからか大分小さいが、それにしても小さすぎる、子供や赤ん坊のものより大分小さかった。

「驚いたか?これはな“小人の頭”というものだ」

そう言うと団長は早々に箱の蓋を閉めてしまった。

「いけないいけない、この頭は外気に弱くてな……何だ?知らんのか?これは小人の頭と言ってな、はるか北東にあるエルフの森に住む“賢人エルフ”の頭なんだよ。」

「エルフは古から伝わる純血主義でな、だがたまーに多種族との子供を授かるっていうオイタをやらかす奴が出てくる。大概は一族から迫害を受けどうにかなってしまうんだが、ごくまれに特殊な能力を授かって生まれてくるものがいる。そいつはそう言った異端児の頭部ってわけさ」

「お前も聞いたことぐらいあるだろう。万物見通せぬものなし。神をも超える予知の能力。それが小人の頭だ」

黒猫は訝し気な目で団長がもつ小箱を眺めていた。

『そんなものはない。確かに異端のエルフには特殊な能力がある。それは首から上を切り取られたとはいえ変わらんだろう……だがそれは恐ろしい怨念が残った姿だ。未来を視るのではなく視た未来に合わせるだけだ……呪いの形でな』

フーリンは不思議そうに箱を見つめると、団長は肩を叩き耳元でささやく。

「このアイテムを土産にエスが主催するカード大ゲームに参加しろ。そして今回最大の目玉“グリモワール”を手に入れるのだ」

フーリンの目が一瞬見開き、そして静かに閉じられる。

この世の全ての魔法が詰まった書。

それがあれば仲間を開放することも……。

囁いた主の意思と異なり、青年は忌まわしき箱に未来を賭けた。

そして箱が少しだけ動いたことを、その場にいた誰も気が付かないでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...