黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第二十話「戦いを終えて」

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ゴサロの言葉を聞いたアリスとタロは瞬時にお互いを見かわした。

『こ、これは・・・!?』

タロの目は驚愕に見開かれ、アリスはその言葉を代弁するように小さくうなずくと、再びゴサロに尋ねた。

だが、その言葉は先程までの言葉とは全く違う物言いだった。

「あなたのお名前はなんというの?」

アリスにそう尋ねられたゴサロは、不安そうにあたりを見回しながらその問いかけに答える。

「ぼく、ゴサロ。ことし5さいになったんだよ」

そう言いながらも、辺りを見回し、

「ねぇ、ぼくのおとうさんはどこ?」

と恐る恐るアリスに尋ねた。

「お父さんとお母さんと一緒だったの?」

質問に質問で返すアリスの言葉にゴサロは顔を左右に振ると、

「ううん。おかあさんはびょうきでしんじゃったの。おとうさんはおしごとでいそがしいから、いつもはおばさんのところにいるんだけど、きょう、おとうさんがかえってくるってきいてたから…」

尻すぼみに消えていくゴサロの言葉と呼応するように、その目元には涙が溢れてきた。

「う、うわぁーん!うわぁーん!」

突然、大声を上げて泣き出す大男を沈痛な表情で見つめるアリスとタロ。

少し離れてた所にいたイリスとその弟も近づいてきたが、自分を脅かしていた大の男が大声を上げて泣いているのを見て、困惑の表情を浮かべアリスを見た。

「ね、ねぇ、この人、どうしたの??」

何も知らないイリスにしてみれば、当然の疑問である。

タロとアリスはどう話したものかと顔を見合わせたが、現状で説明できることは限られていた。

「たぶん、この人は記憶をなくしています。この人の記憶は、今は5歳の時のもののようですね」

「「えっ…??」」

イリスとエイボンは同時に声を発した。

いきなり記憶をなくしたと説明されても、普通の人間にすぐに事態を理解しろというのは酷な話である。まして況や、当の本人にとっては猶更である。

ひとしきり泣いたゴサロは、ひっくひっくとしゃくりあげながらアリスに問いかけた。

「ねえ、おねえちゃん。ぼく、どうなっちゃったの?からだがすごくおもくてうごきにくいんだ。すごくからだがおおきくなったかんじがする。ぼく、どうなったの??」

再び泣き出しそうな表情で自分に問いかけてくる言葉は子供のそれだが、見た目は中年のおっさんという構図はどこかパロディめいていて本来なら可笑しみを感じるところである。

だが、これが冗談ではなく彼の現実であることを考えると、いたたまれない気持ちになる面々であった。

さしもの黒猫主従も、この状態を元に戻す術を持ち合わせていなかったのである。

「ゴサロくん。たぶん、お父さんはお仕事が長引いてまだ戻ってこれないんだよ。それまで、お姉さんたちと一緒にいようか?」

お姫様のくせに弟や妹達の面倒をよく見ていたイリスが反射的に反応し、その言葉を聞いたゴサロは不安そうな目でイリスとアリスを交互に見た。

「そうですね。このままここに置いていく訳にもいきませんから、取りあえず連れて帰りましょうか」

アリスも対処方法をすぐには思いつかず、タロもアリスもその案に否やは無かった。

イリスは、アリス達にうなづくと、

「ゴサロくん、立てるかな?」等と言いながら、大の大人の体を持つゴサロに手を貸して座り込んでいたゴサロを立ち上がらせた。

姉の行動を見ていたエイボンもそれを助けるように手助けをしていた。

ゴサロはまだ不安そうな表情を見せていたが、自分の手助けをしてくれるイリスとエイボンに少し笑いかけて、

「ありがとう」

と小さく礼を述べた。

それらの様子を見ていたアリスは、ゴサロが立ち上がったところでイリスを呼んだ。

「何?」

僅かにゴサロとエイボンから距離を取った位置で、アリスはイリスに取りあえず夜が明けるまでこの場で過ごすという事と併せてある注意を与えた。

「イリス。分かっていると思いますが、【闇ギルド】の件は口外してはいけませんよ?」

「どうして?」

イリスもその話をするのはマズいと漠然とは思っていたものの、場合によっては父である辺境伯に話をして、【闇ギルド】への対処をしなければならないかもしれないとも考えていた。

だが、アリスは口止めを要求してきたのだ。その理由についてイリスは問うた。

「どうやらこの組織は、存在そのものを表す痕跡を消す事に腐心しているようです。もし、秘密を知る者が生きていると知られれば、貴方の命どころか、辺境伯様や貴方の家族全員が危険に晒される事になりかねません」

「えっ!?」

自分が思っているよりも危険の度合いが数段も高かった事に声を失うイリス。

そんなイリスの様子に内心同情しつつも、アリスは表面上、淡々と状況の説明を行った。

「幸い、今回の件に直接関わった連中は既に存在しないはずです。ですが、どこに関係者が潜んでいるかは分かりません。だから、貴方は知らない事にするのです」

本当はブラックオパールの生死は不明、もっと言えば生存の可能性が高いが、先程までのやり取りを見る限り、ブラックオパール自身は【闇ギルド】の情報統制をさほど重要とは考えていないように感じた。

一種の賭けではあったが、アリスはその事には根拠のない確信を感じていた為、イリスには話さず済ませた。

また、その点についてはタロも同意見だったため、特に異論は挟まなかった。

「…分かった。アリスはどうなるの?」

アリスの言葉を一通り聞いた後で、イリスは不安そうにアリスを見た。その瞳には、ここ数日を共に過ごした友人を案ずる色がありありと浮かび上がっていた。

「私も公に口にする事はありません。心配しなくても大丈夫ですよ」

アリスの言葉を聞いたイリスは、その言葉の中に拭い去れない疑念を感じたが、一度目を瞑って深く深呼吸すると、再び目を開いてアリスを見つめ、

「うん、分かったよ!」

そう言って笑みを浮かべた。

話を聞いたイリスはエイボンとゴサロの元へ移動し、これからの事を説明した。

その姿を見ながらアリスの足元に移動していたタロはアリスに視線を移しながら

『公には…ねぇ』

と呟いた。主人の言葉を聞いたアリスも、足元の黒猫に視線を移しながら、

「嘘は言っていません」

そう表情を変えずに言った。

『何にせよ、可能な限り危険からは遠ざけてやらねばならんだろう』

「はい」

短くやり取りしたのち、タロはアリスの肩口に飛び乗ると、

『今まで確証を持てなかったが、これでハッキリしたな』

と鋭い視線で中空を見つめ誰にともなく呟いた。

主人のその呟きを聞いたアリスもまた遠い目をすると、主人の言葉に同調するように言葉を続けた。

「そうですね。記憶を操作する魔法は闇魔法にしかありませんしね」

お互いの言葉を聞いた主従は視線を合わせて今後の展望を述べる。

『【闇ギルド】を追っていけば、ヤツに行き当たる・・・』

「はい。ですが・・・」

『分かっている。まだそのキッカケを掴んだに過ぎん。まだこれからだ・・・』

タロはそう言うと、再び中空へ視線を投げた。その先に目指すものを見るように鋭い視線を投げ続けたのだった。

結局、夜間の行動での危険を排除するために、夜が明けるまでその場で過ごすことにした一行は、再びアリスの展開する防御陣の中で過ごす事となった。辺りには時折、山に生息する凶暴な獣の遠吠えが響き渡ったが、アリス達がいる区域にそういったものが出没する事は無かった。



翌朝

朝日が顔を出したのを確認すると、一行は辺境伯の館へと移動を開始した。

イリスの弟であるエイボンも子供ではあったが、同世代の人族の子供に比べれば体も大きく、徒歩での移動も特に問題は無かった。

むしろ、いきなり記憶を消されて子供に戻ったゴサロの方が大変だった。

突然大きくなったと感じる身体を思ったように動かせるようになるには少し時間がかかったし、長時間の移動にも耐性が無かった為に頻繁に休憩をとる必要があった。

むろん、食事の準備などしていなかったので、屋敷に帰るまでは何も口に出来ない事が子供の精神であるゴサロを苦しめた。

何とか宥めすかして辺境伯の館に戻ったのは、その日の夕刻近くであった。
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