黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第十九話「ふたりの戦い」

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当初、二人の戦いは静かな幕開けを迎えた。

アリスが選択した得物は使い慣れた双剣だった。

相手のバスタードソードとは真逆の選択だが、最もアリスが得意な戦いが出来る武器であった。

二人は少し離れた距離で対峙したが、ライトボールの範囲外に出たためにお互いを視認する事は出来なかった。

「こう暗いとやりずらいですよね」

アリスはそう言って、先程ブラックオパールが出したライトボールと同じものを20個作りだし、中空へとバラまいた。さながら戦場は昼間のような明るさを見せ、お互いの姿を余すところなく白日の元に晒した。

「すげぇな!さすがにその数は操れねぇわ」

それを見た男は口ではそう言いながら、その顔から不敵な笑みが消える事は無かった。

ブラックオパールはこれから始まる戦いが楽しみで仕方がないといった風情でアリスに話しかけた。

「あんた、魔法も使うんだろう?何でも好きに使っていいぜ。そして、あの死の淵へ俺を連れて行ってくれよ」

弟を抱きかかえて離れた場所から二人を見ていたイリスは、男の言葉を聞いて狂っていると思った。死を楽しむが如き発言は、この男が自分達とはまるで違う世界に生きている事をイリスに強く感じさせた。

「貴方、死にたいのですか?」

男から目を離す事なく、アリスは男に再び問いかけた。

「なんだ?また質問かぁ?・・・まぁいいか」

アリスの質問を聞いたブラックオパールは一瞬うんざりした表情を見せたが、直ぐに元の楽しそうな表情を浮かべ、アリスの問いに答えた。

「俺はな、そこ転がってるヤツと一緒で長い間、傭兵をやっていた。まぁ、命のやり取りをしていたわけだ」

相手の動きを警戒しながらブラックオパールはゆっくりと右側へサークルしながらアリスの様子を伺う。

アリスは特に動くこともなく、しかし視線だけはしっかりとその危険な男を捉えていた。

「だが、ある時ヘマをやっちまってな、一度死んだんだ、俺は」

男の”一度死んだ”という言葉にアリスの片眉がピクリと動いたが、それに気づくのは肩口に乗るタロだけだった。

「だが、どうした訳か俺は生き返った。正直、訳が分からなかったが、俺を助けてくれた男が蘇生させたとは言ってたな。」

そう言いながらその時の事を思い出しているのか、男の表情は恍惚の色を醸し出した。

「あれは…最高の体験だった。臨死体験と言うのかな?最高の幸福感に包まれたぜ。そして目を覚ました時、俺は生きてる事をこの上なく実感したんだ!」

何か、最高の秘密を解き明かした子供のような表情を浮かべ、その男はその時の喜びを語った。

「だから、俺はまたあの感覚を味わいたいと思ってるんだ…だがな…」

先程までの歓喜の表情とは打って変わった昏い表情を浮かべ、男は言葉を続ける。

「ここ10年、戦いらしい戦いは無い。傭兵が生きる場所はあるかもしれないが、俺が望む命のやり取りを思う存分やる場所は無くなったのさ…だが…」

ブラックオパールはそう言ってアリスを見据えた。

「ここに最高の獲物を見つけた。初めに話を聞いた時は半信半疑だったが、間違いなく最高の戦いができる相手だと分かったよ。だから…」

ブラックオパールは言葉を切ると、

「楽しませてくれよ?」

そう言うや瞬時にアリスに肉薄した。

男の手にしたバスタードソードは刃渡り160cm程と通常よりも長く刃幅も20cm程の大振りのものでどちらかと言えば斬馬刀に近いつくりのモノだった。

その為、その重量は通常のバスタードソードに比べれば3倍近い重さだったが、ブラックオパールはそんな使い手を選ぶような武器をまるで自分の手足のように繰り出した。

上段から神速の振り下ろしに始まり、相手が躱したとみるやすぐさま横なぎに剣を払い、間髪入れずに突きの三連撃など、息もつかせぬ猛攻を見せた。

一方アリスは、男の攻撃を紙一重で交わすと横なぎと突きの攻撃をバク転して後ろに躱した。タロはアリスがバク転する前にその肩から飛び降り、アリスの近くから戦いの様子を伺った。

「ヒュー!やるねぇ!なかなかこのコンビネーションは躱せねぇし、躱しても最後の突きは食らってくれるんだけどなぁ」

自分の攻撃が躱されたのに楽しくて仕方がないといった雰囲気で話すブラックオパール。

アリスは特に息の乱れもなく、男を見据えた。その肩にはいつの間にか黒猫が舞い戻っている。

「貴方、一度死んだといいましたね?貴方を蘇生させたという男の事を話してください」

アリスはそう男に問いかけたが、

「おしゃべりの時間は終わりだよ!お嬢ちゃん!!」

ブラックオパールはアリスの問いには答えず、再びアリスに攻撃を仕掛けた。

今度は剣技だけでなく体術も駆使してアリスに迫る男。

ブラックオパールはバスタードソードを右上から袈裟懸けに振り下ろし、その反動を使ってアリスの足元に足を払う形で蹴りを打ち込むが、アリス舞うような身のこなしでその攻撃をいなす。

「どうした?躱すだけじゃ終わらねえぞ!!」

ブラックオパールは攻撃を仕掛けてこないアリスを挑発するように言葉を投げると、

「じゃ、これならどうだ?」

と言いながら片手を剣から離すと、空いた手をアリスにかざして足元に詠唱破棄した魔法を打ち込んだ。

「ファイアボール!」

辺りには魔法によって巻き上げられた土埃が立ち上り、せっかくライトボールで作り上げられた視界が一気の覆われる。

アリスが男をその視界からロストした刹那、先程よりも鋭さを増した横薙ぎの斬撃が土埃の向こうから飛んで来た。

一瞬反応の遅れたアリスは、手に持つ剣で斬撃を受けると、力の流れに逆らわず体を跳躍させてその場から逃れようとする。

「そう来ると思ったぜ!!」

アリスがその体を飛ばした方角へ同じように跳躍してきたブラックパールは、難しい体勢から再び剣を振り下ろしてまさにアリスをその剣でとらえようとしたが、その瞬間アリスが魔法を呟く。

「サンダーボルト」

アリスがその魔法をブラックオパールへ向けて放った瞬間、男は振り下ろしていた自らのバスタードソードを瞬時に自身の体の前面に引き寄せて、アリスの魔法を剣で受け止めた。

すると、ブラックオパールの剣に当たった魔法は魔力が散るように消えて無くなったのだ。

立ち上った土埃は既にほぼ収まり、辺りは再び魔法の光でその視界を手に入れていた。

少し距離を開けて再び対峙した二人は、今のところまだほとんどダメージがない状態で、戦いはまだ序盤の様子見といったところだった。

自身の魔法が剣によって無効化された事に怪訝な表情を浮かべたアリスは、

「何ですか?それ」

と不機嫌な調子で男に尋ねた。

自分のおもちゃを誉められたような喜色を顔に浮かべた男は、

「すごいだろ!これ。魔法を無力化する金属で作ってるらしいんだよ。いやぁ、世の中いろんなものが出回ってるなぁ」

とアリスに自分の持ち物の自慢を語った。

「先程、魔法を使ってもいいと言っていたの、そんな保険があったからですか?」

「いやいや、これは程度の低い魔法は今みたいに無効化できるけど、それが出来るのは低級魔法だけだから、中級以上では意味ないからね」

一旦距離をとった事で、戦いが中断された形になった事から、アリスは先程の問いを再び目の前の男に投げた。

「それで、先程の話を聞きたいんですが?」

それを聞いたブラックオパールはまたかという顔をしながらアリスを一睨みすると、

「先程の何だって?」

と反駁した。

「誰があなたを蘇生させたのですか?」

「・・・さあ?誰だろうなぁ?」

面白くもなさそうに答えながら、男は思案する風に剣を肩掛けにしてアリスを睨め回した。

そんなブラックオパールの様子に頓着することなく、アリスは質問を続ける。

「貴方は本当に一度死んだのですか?」

「まぁ、ほとんど死んだような瀕死の状態だったんだろうな。復活魔法なんてものはおとぎ話の産物だしな」

そう言いながら、ブラックオパールは自分を見つめるアリスを面白そうに眺め、

「何でそんな事を聞く?」

と、逆に質問を返した。

男の言葉を聞いたアリスの片眉が再びピクリと動いたが、

「貴方には関係のない事です」

と言って会話を打ち切った。

アリスの返答を聞いたブラックオパールは肩をすくめると、

「まぁ、そりゃそうだな」

と言って再び剣を構えた。

「もう、いい加減おしゃべりはいいだろう?思う存分やり合おうぜ!」

そう言うや、アリスの返答も待たずに再度面前の少女に攻撃を加えた。

対するアリスは、先程までの回避優先の行動とは異なり、正面からブラックオパールに対した。

それは近接戦闘の模範となるような攻防だった。

ブラックオパールは大振りの武器を使っているとは感じられない小刻みな斬撃や突きも含めた連続攻撃を繰り出したが、一方のアリスは手にした双剣の片方で敵の攻撃の力を上手く流し、残ったもう一つの剣で目の前の敵に攻撃を繰り出した。

ブラックオパールもアリスの攻撃を体術や剣の引き戻しなどを使いその攻撃を躱した。

お互い相手に若干の攻撃が通るものの、、致命的なダメージを与える事は出来なかったが、次第にブラックオパールがアリスの攻撃を受ける事増えてきた。

堪らずブラックオパールは後方へ飛んでアリスとの距離を取る。

知らぬ間にブラックオパールは崖近くの後がない場所へと追い詰められていた。

アリスはそれに追撃する事なく、その場で深く息を吐き出した。

「何なんだよ!お前!規格外過ぎんだろう!?」

目前の少女が想像以上に化け物だった事に舌を巻いたブラックオパールは不平めいた文句を吐いたが、その言葉を聞いたアリスは涼しい顔をして、

「貴方、死にたいんじゃないんですか?」

と問いかけた。

それに返したブラックオパールは、

「バカ!死んじゃ意味ねーんだよ!死にかけて生き残るから、あの感動があるんだろうが!」

等と意味のよく分からない理屈をがなった。

呆れたという表情を一瞬のぞかせたアリスだが、直ぐに平常のものへと変わり、

「貴方の理屈に付き合う気はありません。さっさと私に負けて持っている情報を残らずしゃべってください」

と目の前の男に告げた。

それを聞いたブラックオパールは愉快そうにひとしきり笑うと、

「あんたとの戦いは思った以上に面白い。そう簡単に決着がついたんじゃ、つまらんな」

と言って手にした剣を下げた。

アリスは次にこの男が何を仕掛けるのかと警戒したが、ブラックオパールは予想外の行動を取った。

「取りあえず、今回の勝負は預けておくぜ。お互い、命があったらまたやろうや」

そう言った男は、一気に後ろへ跳躍すると深い谷底へ飛び込んで見せた。

予想外の行動に一瞬動きが遅れたアリスが崖に走り寄って谷底に視線を投げたが、そこは暗闇の中であり、既にブラックオパールの姿は見えなかった。

件の男に逃げられた事にアリスは悔しさを滲ませたが、

『まぁ、しょうがないだろうな』

と言ってタロはアリスを労った。

「ヤツは死んだのでしょうか?」

『さあな…』

この高さから落ちれば普通の人間ならば生きてはいまいが、先程までのブラックオパールの言動を考えれば、生きていると考えるのが妥当だった。

『めんどくさそうなヤツと因縁が出来たな…』

何を考えているのか今一つ掴めない所が誰かを髣髴とさせる事も少し憂鬱だったが、すっきりしない決着にストレスを感じる黒猫主従だった。

とは言え、このまま谷底を見下ろしていてもどうしようもないので、あきらめた一匹と一人は弟を抱きかかえるイリスの傍へと移動した。

黒猫主従が近づくと、ようやくに弟は目を覚ましたらしく、

「あれっ?…姉上?どうしてここに??…ここは一体??…」

等と言ってまだ状況が把握できていなったようだった。

イリスは弟が目を覚まして話をするのを聞くや

「エイボン!!無事で良かったー!!」

と、涙を流して喜んだ。

今一つ状況が呑み込めていないエイボンだったが、姉の様子から何か良からぬ事に巻き込まれていたのだと察し、

「姉上、私は大丈夫ですから、もう放してください」

と苦笑交じりに懇願した。

ともあれ、イリスの弟を無事に救出するという当初の目的を果たした事にタロ、アリス、イリスは安堵のため息を零した。

二人の様子を微笑ましく見ていたタロとアリスは、その目の端に先ほど昏倒したゴサロの姿を捉えた。

まだそのままの状態で横たわるゴサロの近くに移動したアリスは、

「さっき、景品と言ってましたが、どういう事なんでしょうか?」

と主人に問うてみた。

『さあな?ひょっとすると、こいつも何某かの情報を持っているのかも知れんな。どちらにしろ、起こしてみらん事には始まらん』

アリスの疑問にも明確に答えは出ず、どちらにしろ本人に話を聞くしかないとゴサロを起こすことにした黒猫主従。

「そろそろ起きてください。貴方には聞きたいことが山ほどあります」

アリスはそう言って地面に無造作に横たわるゴサロを揺り動かした。

ややあって、「んんっ…」と声を出しながら、ゴサロは目をこすって体を起こした。

目を覚ましたゴサロは辺りを不思議そうに見回していたが、アリスを捉えたその瞳には若干の戸惑いが見て取れた。

そしてその口からは思いもよらない言葉が漏れた。

「おねえちゃんたちはだれ?ここはどこなの??」
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